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国産重視のアメリカ産業用ドローン ドローン実用化の最新動向~米国編 - 土方細秩子 (ジャーナリスト)

今年6月21日、米連邦航空局(FAA)が産業用ドローンに関する規制を緩和すると発表した。これまでの産業用ドローンのオペレーションには「航空機のパイロット資格を持つ者が必要」という規制があったが、重量25キロ以下、飛行高度が地上から目視できる範囲内であればパイロットの資格者なし(ただし、別途FAAのライセンスが必要)でのオペレーションが可能となった。

 これにより米国の商業用ドローンが一気に成長する見込みだ。これまでのホビー用ドローンとほぼ同じ規制内容で産業用ドローンが飛ばせるため、この分野への参入を躊躇していた企業が一斉にドローン導入に向けて動き出す可能性が生まれた。シリコンバレーにあるベンチャーキャピタルの研究所CBインサイトによると、ドローンへのベンチャー投資は2015年4億5000万ドルになり、前年比300%増。今年はさらに増額となる見込みだ。

 ドローンはまだ黎明期にある新しい市場だ。米国で本格的なドローン販売が始まったのは13年、そこから16年まで毎年倍増に近いペースで増加を見せてきた。ドローンの市場分析を行うスカイロジック・リサーチ社CEO、コリン・スノウ氏によると、15年のドローン市場規模は11億ドル、今年は15億ドル、17年は23億ドル、18年には29億ドルに達する見込みだという。ただしこの数字はドローン市場全体で、ホビー用、商業用の別個の統計はない。

 米国のドローン市場でも、全体の46%と圧倒的なシェアを誇るのは中国DJIだ。2位は米国のパイオニアとも言える3Dロボティクス社だが、DJIの販売台数は3Dロボティクスのほぼ10倍の差がある。米国内のドローン製造業者からは「ホビー用ではDJIに太刀打ちできない」との声が上がる。価格面、技術リノベーションの速度など、DJIと競合していくのはほぼ不可能だという。ホビー用、産業用の万能ドローンを目指しオープンソース戦略を用いてきた3Dロボティクスが苦戦し、産業用市場への路線変更を余儀なくされているのもこのためだ。

産業用ドローンでは米国産の信頼性が高い

 一方でより大型の機材、複雑なエンジニアリング、高度なソフトウェアなどが要求される産業用ドローンでは、安全性の観点からも米国製ドローンへの信頼性が高い。米国の多くのドローン製造業者は、専門的な産業用ドローンに活路を見出そうとしている。

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プレシジョン・ホークの「ランカスター5」は小型で「紙飛行機を飛ばすように」簡単に飛ばせるが、自動制御により悪天候やハードランディングにも対応出来る、小型ながら高性能モデル
(写真・PRECISIONHAWK)

 その代表格とも言えるのが、ノース・カロライナ州に本社を置く、農業用に特化したドローン企業、プレシジョン・ホークだ。同社は3Dロボティクスに次ぐ米国で3位の販売台数を誇り、ドローン製作から顧客のニーズに合わせたソフトウェア構築、顧客トレーニング、オペレーションまで、ワンストップで全ての要望に対応できる総合メーカーである。

 同社の上級副社長、トーマス・ホーン氏は「農家により効率的に作業を進めるための総合的パッケージの提供が我が社の強み。播種、疾病予防や手当、効率など、1年を通じて様々な場面で農業が必要とするソリューションを提供する」と語る。

 同社の技術力は日本のヤマハ発動機、NTTが同社に投資を行っていることからも明らかだ。特にヤマハとの提携で、他社も「ドローン技術としては世界最高水準」と認めるヤマハの技術を活用できる点が強みだという。

 またプレシジョン・ホークは特にデータ・コレクションの分野(「温度分布」、「作物の密集度」などを抽出する)に強く、現在は農業用ドローンに特化しているものの、将来はこの特性を生かし石油ガス、建設、鉱山、建造物保険などにもサービスを拡張する可能性がある、という。

 ホーン氏は今回のFAA規制緩和について「農業にとっては基本的に『誰でもドローンを運営できる』ことを意味するため、ビジネス拡大の大きなチャンスだ」と語る。農業用ドローンは無人の耕地上空を飛行するため、今回の緩和により導入への障壁がほぼ取り払われたと言っても過言ではない。ドローンへの規制はまだ各国でばらつきがあるが、ホーン氏は「FAA規制がグローバル・スタンダードとなり、日本や英国などでもビジネスが広がることを期待する」という。

米バード大学の調査によると、14~15年の産業用ドローンにおける農業分野が占める比率は11%。電力・エネルギー・インフラ、建設とほぼ同率だ。現在産業用ドローンの比率が最も高いのは写真・映画撮影で、全体のおよそ29%を占める。

 カリフォルニア州サンタアナに本社を置くアライド・ドローン社CEO、ジョシュア・コルノフ氏はハリウッドの製作畑出身で、撮影現場にドローンが導入されるのを見て「これからはドローンの時代だ」とドローン製作会社を立ち上げた異色の経歴を持つ。

 同社は3Dマッピングに強みを持ち、顧客からの完全受注で昨年は約50台のドローンを製作した。市場が成長していることは現場で実感でき、「今年は年末までに150~200台を販売する予定」だという。しかし同時に技術の進歩により、価格は1機あたり3万~5万ドルだったものが現在では1万~2万ドルとなり、「より多くの企業にとってドローンを導入しやすい環境が整いつつある」という。

 同社のドローンはレーザー・スキャンにより空撮画像から地表の3Dモデルを製作する。用途としては産業インスペクション、橋梁、タワーなどの建設、パワープラントの保全作業などが多い。

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顧客のニーズに応じ、1機ずつデザインから始め、3Dプリンターなど最新設備を用いて手作りされるアライド・ドローン社の製品。同じものは2つとないオリジナルであることが特徴だ(写真・ALLIDDROSE)

 コルノフ氏は今後のドローン企業の生き残りとして「幅広いレンジで様々なサービスを提供できる、あるいは一つの分野に特化し他社にない技術を持つことが不可欠になる」と語る。同社は主にハードメーカーであり、ソフトウェアはサンフランシスコのエアウェーブ社のものを採用しているが、今後ドローン用運営ソフトとしては2、3社による標準化が進むだろう、と予測する。

 最後に紹介するのは、現時点ではまだドローンの用途の3%程度、とシェアは少ないものの、将来伸びる、と考えられるサーチ・アンド・レスキューを専門とするドローン・アメリカ社だ。同社はネバダ州レノに本社を置き、スキー場などのリゾート、山岳地帯にあることから捜索、山火事への対応など、主に消防署や警察署との連携でドローンを運営する。

 同社広報、ケビン・クリフォード氏によると「サーチ・アンド・レスキューは通常厳しい訓練を必要とする分野だが、ドローン導入により捜索活動などがより効率的に行える。そのために政府機関と提携し、熱感知センサーを搭載したドローンを消防、警察などが扱えるよう訓練も行っている」という。

 さらにユニークなのは、ネバダ州政府との連携により、砂漠研究所と共同で「クラウド・シーディング」というプログラムに取り組んでいることだ。これは文字通り「空に雲の核を作り、雨を降らせる」のが目的だ。

中国企業が参入できない分野

 プロフェッショナル・ドローンは、今回のFAA規制緩和の範囲内ではない。目視できない地上数キロの高度と飛行時間が必要となる。

 そのためFAAから個別に認可を得る必要があるが、こうした高度なオペレーションは中国企業が参入できない分野だ。クリフォード氏も「DJIなど中国製ドローンの産業用バージョンを試しても、米国企業に鞍替えするクライアントが多い。中国製ソフトウェアを使用することでデータの流出などが起こることを恐れているためだ」と指摘する。

 3社ともに共通して言えるのは、産業用ドローンはいわゆるホビードローンとは別物だという点だ。どの企業も自らのシステムを「UAS」と呼ぶ。無人航空機システムの意で、地上からラジオコントロールするドローンではなく、コンピュータプログラムによる無人航空機と同様のシステムで運営されている。つまり「空の自動運転車両」に近い存在だ。

 今後産業用ドローンに期待がかかる分野としては不動産デベロッパー、建設、海上や山岳パトロール、環境アセスメント、石油ガス、電力会社の保安作業など、数多くが挙げられるが、多くの関係者は「5年後には全く新しいドローンの利用方法が生まれているかもしれない。まだ新しい技術だけに、多くの可能性がある」と語る。

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