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ドローンマスターが考える、普及に向けたカギ - 渡辺秋男 (クレセントエルデザイン代表)

 全国約200カ所、フライト数は2000フライト以上に及ぶ、ドローンマスターが、ユーザー目線で今後のドローン市場について考える。

 昨年の夏、小型船舶免許を取得した。理由は海上からドローンを離着陸させるためだ。以前から東京の都市部などをドローンで空撮したいと考えていたのだが、人やクルマの往来が多い場所でドローンを飛ばすのは安全性の面から気が引けていた。

 そのうえ同じ年の4月には首相官邸ドローン墜落事件が発生し、ドローンに対する世間の目も厳しくなった。そんな状況の中、都会の街並みを空撮するために考えた苦肉の策が「小型船舶免許の取得」だった。海や川に隣接している湾岸地区の街並みならば、船からドローンを飛ばして空撮できるのではないかと考えたのだ。海上であれば人の目もあまり気にならない。万が一の事故があっても人的、物的な被害を軽減することができる。

フライト数は2000以上

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渡辺秋男クレセントエルデザイン代表

 私はドローンによる空撮を約4年前から行っており、これまで様々な場所を空撮してきた。全国約200カ所、フライト数は2000以上に及ぶ。誰かに師事したわけではなく、機体を購入して独学でドローンを飛ばしてきたのだが、自分の飛ばし方がまわりから見てどのように見えるのか、法律に抵触するところはないのか、世の中により安全に飛ばすノウハウがあるのか。そのような疑問を解消するべく日本初のドローンパイロット養成スクールに昨年10月入校した。それはCGアニメーションなどで有名なデジタルハリウッドが開校した「ロボティクスアカデミー」であった。

 ロボティクスアカデミーは、日本UAS産業振興協議会(JUIDA)という無人航空機の健全な振興と発展を目指す民間の団体が認定した、ドローンパイロット養成スクールの第1号。JUIDAとは、昨年12月に改正された航空法のベースとなる安全指針(ガイドライン)を作成した団体である。

 私はここでドローンにまつわる法律、運用事例、リスクアセスメントなどについて学ぶことができた。これまで我流で飛ばしてきたドローンの操縦技術にさらに自信を持つことができ、安全運航に関する様々な知識を体得することもできた。何よりも意義を感じたのは、様々な分野の様々な企業の担当者とスクールを通じて知り合えたこと。JUIDA認定スクールの1期生ということもあり、ドローンで起業をしたり、自社の新規事業に取り込みたいと考えたりする先駆者的な人々が数多く参加しているのが印象的だった。例えば、ドローンの自動操縦や自律飛行に関連し、ロボット家電への応用を研究している人、医薬品やAEDなどをドローンで運搬することを研究中の人。また、災害発災時にドローンで市街を空撮し、すみやかに被害状況を把握できるような協定を地方自治体と結んだ人などである。

ドローンとの出会いから現在まで

 私が空撮を本格的に始めようと思ったきっかけはDJIの「ファントム」というドローンとの出会いだった。現在も普段メインで使っているのはDJIの「インスパイア1」という機種である。私がDJIのドローンを使っている理由の一つは、現在世界で最も普及しているドローンだからである。

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DJI「 Inspire1」  スマホやタブレットを使用してリアルタイムにモニタリングしながら操縦することができる4Kカメラ搭載の中型ドローン

 世界シェアは7割ともいわれている。販売台数が多いということはそれだけフライトに関するデータの蓄積がなされていて、安全飛行に関する様々なフィードバックに期待することができる。

 昨年は「インスパイア1」を担いで富士山頂まで登ったのだが、この機種は標高4500メートル上空でも飛行することができる実績を持っていることから、これを選択し、実際富士山頂で飛行させた。富士山頂は地表に比べ気圧が3分の2程度なのでドローンを飛ばす際には細心の注意が必要だ。

 ロボティクスアカデミーを卒業したあとは、空撮技術や安全運航に関するスキルに磨きをかけ、一般的には飛行が認められていない人口密集地の上空や夜間飛行、高度150メートル以上の空域においても国土交通省や航空管制の許可承認を得て空撮業務に従事している。またそれに加え、パイロット養成スクールの講師や、子どもたちにドローンの楽しさを教える出前授業なども行っている。ドローン業界の振興と発展に寄与するべく、自分の培った操縦技術や教わった安全運航に関する知識を後進にも惜しみなく伝えていこうと思う。

良いドローン、イコール良い映像ではない

 良いカメラを買ったからというだけでは良い写真が撮れないのと同じように、性能の良いドローンを持っているからといって、必ずしも素晴らしい映像が撮れるということはない。つまり、良い機材だけでは仕事は来ないし成立しない。私が普段重視しているのはドローンを飛ばすことのみならず、空撮に至るまでのプロセスだ。

 具体的には離陸地点をどこにするべきかを検討することや、その場所にどうやって行くかを計画することである。むしろドローンを飛ばすこと自体よりも、そのプロセスを実行していく方が時間も労力も要する。

 例えば、冬山で樹氷を空撮するためには何日も前から気象を観測しなければならないし、アイゼンやスノーシューなど冬山の装備を整えておく必要がある。

 また氷点下の世界ではドローンのリチウムポリマーバッテリーが低出力状態に陥るためバッテリーの加温や保温にも策を講じなければならない。せっかく何時間もかけて雪山を登山しても撮影できなければ仕事にならない。こういった一つひとつの案件に応じた丁寧な下準備が、クオリティーの高い空撮につながると考える。

 ドローン業界の状況は約20年前のインターネットが普及していく過程とよく似ている。今ではメジャーなウェブデザイナーという職種は、当時は存在しなかった。グラフィックデザイナーがその役割を担うことも多く、それゆえこれまでの紙媒体との差別化もうまく行えない時期もあった。ビジュアル重視の紙芝居のようなウェブサイトは最近になって淘汰され、ウェブ本来のポテンシャルがようやく発揮されるようになった。

 現在のドローンパイロット業界は、スチールや映像のカメラマンや、ウェブ制作従事者、ラジコン業界の延長線上でドローンを飛ばしている人が多いと思う。私自身もシステム開発やウェブ制作の仕事を約20年続けており、最近、空撮事業へのシフトをはじめた者である。なので、過去、または現在の仕事と共存する形でドローン事業を展開すること自体を否定はしないが、今後ドローンが独立した分野として確立する、あるいはスマホのように我々の生活に密着して溶け込むようになるためには、過去の何かの職種の延長線上から脱却し、ドローン独自の特性を十分理解したパイロットの登場が不可欠である。

 それをもってはじめてドローン本来のポテンシャルが存分に発揮されるようになるのではないかと思う。

 今年3月に行われたドローンに関する展示会「Japan Drone 2016」では、日本で最初の本格的なドローンによる空撮動画のコンテストが開催された。その中で私が作成したショートムービーが2作品受賞した。

 ひとつはグランプリで「My Field, Tokyo Bay」という作品。これは東京湾をモチーフにした作品で、船舶免許を取得したからこそ撮影できた作品ともいえる。もうひとつは審査員特別賞を受賞した「INSPIRE」という作品。これは富士山を中心とした日本全国の絶景を収録している。

 この2つの作品はその時点での私の集大成ともいえるもので、名誉ある賞を受賞できてたいへん光栄であった。

 日本の雄大な自然を撮った以下の動画をご覧いただき、ドローンの魅力を少しでも感じていただけると幸いだ。

●「My Field, Tokyo Bay」


空撮動画のコンテストでグランプリを受賞
URL:https://youtu.be/oKGCfq87418

●「富士山山頂から」


Wedge Infinity連載ドローン・ジャーナリズムで「崩れ続ける富士山・大沢崩れを4K空撮!」として公開。
URL:https://youtu.be/wbNURTVsVYc

●「暖冬でも大迫力の“アイスモンスター”」


同じく連載ドローン・ジャーナリズム「暖冬でも大迫力の“アイスモンスター”! 空撮してみた」として公開
URL:https://youtu.be/ARQhhyrYG_8

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