記事

未婚の原因は「お金が足りないから」という幻想-少子化社会データ検証:「未婚化・少子化の背景」は「お金」が一番なのか- - 天野 馨南子

2/2

3――本当の原因はお金ではないかもしれない、の検証

1男女とも交際相手がいない割合が着々と上昇
 
前章では、未婚男女が既婚男女より高い年収が必要であると考えていることや、20代30代の未婚女性が求める年収水準の男性はかなり少ないということが示された。また一方で、既婚者は未婚者が考えているよりも少ない年収でやっていけると考えていることも明らかになった。

そうであるならば、例え未婚者であっても、実際に結婚を考えるような交際相手がいるのであれば、金銭的なことをパートナーと当然話し合うため、既婚者に近い年収感覚に感覚修正されるように思われる。

そうすると、未婚者の感覚に現実の感覚が薄いことは、結婚を前提とする交際相手がいない(またはいない割合が増えた)ことによるものではないだろうかとも考えられる。

そこで、未婚者についての交際相手の有無について検証してみたい。

図表8は未婚者に占める交際相手のいない者の割合の推移を示している。

この20年間、結婚希望は安定して男女とも9割(図表3)で推移しているにも関わらず、未婚者に占める交際相手がいない割合が大きく伸び続けてきていることがみてとれる。

1987年では男性5割、女性4割であった交際相手がいない割合が、2010年には男性6割、女性5割にまで増加してきているのである。

このことは、未婚者の中で、結婚イメージが「日常生活においてより非現実的な」男女の割合が増加したとはいえないだろうか。そして、この交際相手がいない未婚者の割合が増加しているということが、未婚者の結婚に関する金銭感覚の現実離れ化に強く影響していると考える。次項ではこのような交際相手がいない者の割合が増加している原因について見ることにする。

リンク先を見る


2結婚していない理由の年齢による変化

ここまでの分析で、9割の男女は結婚希望がある一方で、未婚化は着々と進んでいること、未婚化だけではなく、交際相手がいない者の割合も増加していることが示された。

ここで、社会の感覚とは別に、未婚者がどうして結婚していないのかを未婚者に直接尋ねた調査の結果を紹介したい。

図表9は、未婚化と少子化に立ちはだかる「まだ若すぎる」の壁-少子化社会データ検証:「逆ロールモデルの罠」-、でも示した図表であるが、独身でいる理由は男女とも、未婚者の年齢によって大きく異なってくることに注目したい。この調査は「はじめに」で示した図表2の意識調査とは異なり、未婚者だけの意識を反映した結果であるため、より切実な実態を表していると見てよいだろう。

リンク先を見る

まだ学生であることが世間的におかしくはない就学可能年齢(大学院卒業程度まで)の年齢では「まだ若すぎる」という「選択的独身」理由が男女とも多数派を占めている。

しかし、それを過ぎて就業必須年齢に移行すると途端に「まだ若すぎる」理由は急落し5、「非選択的独身」理由である「適当な相手にめぐり会わない」が男女とも約半数を占めるようになる。

結局、20代前半までのんびり構えていたら年齢上昇とともに相手が見つけにくい状態に陥り(あわせて図表6-2参照)、20代後半から焦り始めるという、結婚行動がアリとキリギリスのキリギリス的行動となっていることがうかがえる6

図表9において18歳から34歳までの未婚者について独身のままである理由を見ると、社会の感覚を表した図表2の「お金が足りないから生涯未婚率があがっているのではないか」という結果と異なり、「お金が足りないから結婚しない」と考えている割合は決して高いとはいえない。

それよりも、結婚のための行動が出遅れていることの方を、むしろ未婚化の原因として問題視すべきであるとデータは示しているように見える。

2014年における日本の平均初婚年齢は妻が29.4歳、夫が31.1歳であるが、そのあたりの年齢帯(25歳から34歳)の男女の「独身でいる理由」をみても、「結婚資金が足りない」は男性で30.3%、女性で16.5%となっている。男女とも結婚資金以外の理由が上位に来ていることにあらためて注目したい。

もう一点、未婚者への意識調査の結果から興味深い示唆があるのではないかということを指摘しておきたい。

図表9をみると、アラサーと呼ばれる20代後半から30代前半になっても、女性からは「結婚資金が足りない」という回答が上位にあがってきていない。一方、男性では3位の3割の理由に挙がってきている。

このことは、女性は自分(女性)の問題として「結婚資金」を考えていないとも考えられる。

結婚のハードルとしてお金の問題は男性が解決すべき、という思考が前提にある場合、女性の側から「結婚資金」が結婚の障害としては上がってはこないのは想像に難くない。

図表9からは、お金の問題は未婚者の独身でいる決定的な理由ではないか、男性が一方的に責任を感じさせられる問題となってしまっている、という日本における固定的な性別役割意識問題が見え隠れしていることを、前章との関係において指摘しておきたい。

以上をまとめると、

(1)年齢への楽観視から来る結婚行動への遅れが、未婚化を推し進めていると思われる
(2)お金の問題はクリティカルな問題とはなっていないが、男性だけに責任を押し付ける傾向がある

ということができる。

これらは未婚者が「結婚していない理由」である。ではその一方で、実際に結婚を決めた男女にとって、その決断に一番影響があった(と本人達が考える)理由は何であったのかを見てみたい。   5 男性で6.5%、女性で2.7%にまで急落
6 未婚化と少子化に立ちはだかる「まだ若すぎる」の壁- 少子化社会データ検証:「逆ロールモデルの罠」- 参照。


3既婚者の結婚のキッカケは、「好きな人と一緒になりたいから」

未婚の理由はお金が不足しているのではなく別の理由である、ということを示している、もうひとつの興味深いデータがある。既婚者に対し「結婚するキッカケとなったと思う一番の理由」を質問した興味深い調査結果がある(図表10)。この結果をみると、実際の結婚にいたるキッカケとしては、「お金不足」理由は非常に説明力が低く、むしろ「出会い(力)の低下」が最大の結婚トリガーとなっていることが示唆されている。

リンク先を見る

ここまで見てきた通り、お金の問題は、「お金が不足していて結婚できないという問題」、ではなく、「未婚者が結婚に必要と考える額と実際に必要な額との間に認識のギャップがあるという問題」、という形で存在している。ゆえに、結婚後の収入が十分(と思う)かどうかの前提にあるこの認識ギャップが、交際を始めるにあたっての障害の1ファクターとなっている可能性はあるだろう。

しかしながら図表9および図表10からは、未婚者が(想像ではなく)実際の交際相手との結婚を考える時、あるいは結婚に踏み切る時には、お金の問題は最優先の問題ではなくなっているということができるだろう。

4「好きな人と一緒になりたい」なら、 時間との勝負 

ここまで示した、図表6-2(独身にとどまっている理由「相手がいないから」と回答した割合)、図表9(独身にとどまっている理由)、図表10(結婚した一番のキッカケ)からわかることは、結婚の一番の決め手は「好きな人を見つける」ことであり、しかし、それは年齢が上がるとともに難しくなっていく、ということである。

ここであらためて、年齢別の配偶者有無の状況を最新の平成27年国勢調査の速報値を用いて見てみたい。

図表11は男女とも20代と30代の間を境に、一気に結婚可能な未婚者異性のマーケットが縮小することを明確に表している。20代後半では男性の約7割、女性の約6割が未婚であり、結婚を希望している男女の結婚活動マーケットとなっているが、30代前半になると男性の約5割、女性にいたっては約3割しか未婚者ではなく、結婚活動のマーケットの縮小幅は大きい。少なくとも同年代の結婚を求める場合は、この年齢による市場の縮小を念頭において活動を行わないと希望が実現性の低いものになりかねない。

であるにもかかわらず、図表6-1(未婚女性が結婚相手に求める最低年収)で示したように、未婚女性の年齢が上がるほど男性への金銭的希望が高くなるというのは、夢をより叶わない夢へと導いていることは明らかである。

現実の市場規模をしっかりとデータに基づいて把握し、適正な時期に適正な活動を行うように促すことが未婚化を阻止するには重要な取り組みであることが示唆されている。

リンク先を見る

4――未婚者の「お金が足りないから結婚できないのだ」のイメージ打破のために

4――未婚者の「お金が足りないから結婚できないのだ」のイメージ打破のために

1章2章においては、未婚者が既婚者よりも「結婚生活にお金がかかると思い込んでいる」ことが未婚化の要因の一つである、という調査結果を紹介した。そして、そのような認識が修正されないのは交際相手がいない割合が増加しており、結婚への収入面での幻想が生じている(特に女性)、ということが問題ではないか、ということを示した。

3章では、実際結婚を決意する場面においては、お金よりも「好きな人がいる」ことが大切であること、そのためには、「まだ若すぎる」ではなくなるべく素早い行動が必要となってくるであろうことが示された。

しかしながら、せっかく結婚にむけた行動を早めたとしても、お金に関する幻想問題が放置されたままであると、女性側は男性に過度な期待を根拠に決定をいつまでも遅らせる、男性側は自らの収入に自信が持てずにアプローチをいつまでもためらう、そんな事態を招きかねない。

そのため、より未婚女性が現実をふまえたパートナー探しが出来るように、また、未婚男性が自信を持ってパートナー探しに臨めるようにするためには、まずはこの「結婚するにはお金が足りない」との思い込み、「お金が足りない幻想」を打破する必要がある。

この未婚者の思い込みを打破する、そのためのデータとして、実際結婚して子どものいる若い世帯主の家庭では、どれくらいの世帯収入でやっているかを簡単に最後に示してみたい。

1未婚男女の思い込みの打破 - 女性:「私の収入はお小遣い」の打破
 
図表12は18歳未満の未婚の子どものいる世帯の世帯主の年齢別の世帯の収入状況を示したものである。29歳以下の世帯主の収入をみると415.8万円となっている。

これを見て、もし未婚女性が、「彼が30歳未満の場合、平均的な暮らしの結婚生活には400万円以上必要である」と読んだならば、それは正確ではない。

第一に、このデータは「子どももいる」世帯のデータである。子どもを望まないならば、もっと低くてもやっていける、というデータであることに注目したい。

第二に、平均有業人員1.43という数値からもわかるように、男女どちらか一馬力ではなく、二馬力以上の世帯も含まれている、ということである。つまりどちらかが一人で415.8万円を稼げていなくても、子どもをもつ30歳未満の世帯主の家庭が平均的に形成されている、ということである。

つまり、未婚女性側の「男性が400万以上稼げないと結婚生活は送れない」という思い込みを解消するには、まずこのような既婚家庭の「現実を知る(示される)」ことが肝要である。

また、未婚女性は、自らの収入をお小遣いではなく「世帯年収」としてきちんと加算した上で、男性への収入希望の下限を見直す、ということも必要である。

リンク先を見る

  7 児童:児童とは、18 歳未満の未婚の者をいう。
 稼働所得:雇用者所得、事業所得、農耕・畜産所得、家内労働所得をいう。

 仕事あり(有業):
  平成27 年5月中に所得を伴う仕事をしていたことをいう。ただし、同月中に全く仕事をしなかった場合であっても、次のような場合は「仕事あり」とする。
  (1) 雇用者であって、平成27 年5月中に給料・賃金の支払いを受けたか、又は受けることになっていた場合(例えば、病気で休んでいる場合)
  (2) 自営業者であって、自ら仕事をしなかったが、平成27 年5月中に事業は経営されていた場合
  (3) 自営業主の家族であって、その経営する事業を手伝っていた場合
  (4) 職場の就業規則などで定められている育児(介護)休業期間中であった場合

 仕事なし(無業)
  上記1以外をいう。なお、ダフ屋、かけ屋などの仕事は、正当な仕事とは認められないので、仕事なしとする。

 可処分所得
  可処分所得とは、所得から所得税、住民税、社会保険料及び固定資産税を差し引いたものであり、「所得」はいわゆる税込みで、「可処分所得」は手取り収入に相当する。


2未婚男女の思い込みの打破 - 男性:「僕が一家の大黒柱」の打破

一方で、男性未婚者は自らの年収に自信をもつことが必要となる。

未婚女性が未婚男性に過大な金銭的期待をする一方で、男性もそれは致し方ないと思ってしまっている様子がデータからはうかがえる。図表9で示した独身でいる理由の25歳から34歳までの理由において、未婚男性側は「結婚資金が足りない」が3位30.3%であるのに対し、未婚女性側は6位16.5%の温度差のある理由となっている。図表7でみると女性の方が収入は明らかに男性より低いにも関わらず、「結婚資金が足りない」問題に男性より関心が低い状態は女性側の結婚後の経済面への責任からの逃避傾向とも読めなくはない。

さらには図表13からも、女性活躍推進や女性の就業継続の強化による年齢階級別女性労働力率のM字カーブ解消がこれだけ社会で叫ばれる中にあっても、3人に1人しか結婚後の女性の「稼ぎ力」を重視していないことが見て取れる。また、男性の方が女性よりも結婚における女性の「稼ぎ力」を重視していない傾向が見て取れる。

リンク先を見る

男性が結婚後のお金について「自分が頑張らねばならない」「パートナーに頼ってはいけない」という考えをもつことは女性にとっては非常に頼もしい考えではある。

しかし、その考えによって男性が自分の収入をもっと上げないと結婚できない、女性が男性に現実を度外視した収入を求めるのであれば、むしろこのような感覚は放棄し、女性にも世帯収入の一部をきちんと求めた方が現実に即したパートナー、そしてその先の結婚が見えてくるであろう。
 

5――おわりに

5――おわりに

本稿の執筆は筆者に、これから結婚を考える男女だけでなく、その家族や職場など彼らをとりまく社会全体も「お金が足りないから結婚できないのではないか」といった結婚観を再考するべきではないかと感じさせるものであった。

「お金が足りないから結婚できないのではないか」

人生の一大決意をするにはまずはお金の問題の解決からといった、ともすれば安易な結婚観を、次世代を育む相手、老後を支えあう相手、最も近くで支えあう相手を求める男女に押し付けないように心がけたい、そんなことを感じずにはいられない。 【参考文献一覧】
国立社会保障・人口問題研究所.  平成22年第14回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査・独身調査)

明治安田生活福祉研究所.“2016年 20~40代の恋愛と結婚-第9回結婚・出産に関する調査より-”.2016年6月20日

明治安田生活福祉研究所. 結婚に関する調査集計データ 2014年3月調査

天野 馨南子. ” 未婚化と少子化に立ちはだかる「まだ若すぎる」の壁-少子化社会データ検証:「逆ロールモデルの罠」-”. ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2016年6月20日号

厚生労働省.  平成27年 国民生活基礎調査

国税庁. 平成26年分 民間給与実態調査

厚生労働省. 平成26年人口動態調査

厚生労働省. 平成13年厚生労働白書

厚生労働省. 平成27年賃金基本構造統計調査

メール配信サービスはこちら

あわせて読みたい

「結婚」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    河野太郎は自民総裁選で勝てるか? 父と祖父があと一歩で届かなかった首相の座

    田原総一朗

    09月21日 08:02

  2. 2

    全国フェミニスト議員連盟の釈明は、明らかに虚偽を含み極めて不誠実である

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    09月20日 16:58

  3. 3

    「テレビ報道が自民党一色になっていることへの懸念はあった」立民・安住淳議員に呆れ

    鈴木宗男

    09月20日 15:48

  4. 4

    引きずり下ろされた菅首相の逆襲が始まる「河野内閣」で官房長官で復活説も

    NEWSポストセブン

    09月21日 08:42

  5. 5

    混雑する観光地、お休み中の飲食店…「国民の祝日」が多すぎることのデメリットを痛感

    内藤忍

    09月21日 11:56

  6. 6

    「感染ゼロではなく、重症化ゼロを目指す。医療と経済は両立できる」現場医師の提案

    中村ゆきつぐ

    09月21日 08:28

  7. 7

    NY市場が大荒れ 中国恒大集団の影響とアメリカそのものにも問題あり

    ヒロ

    09月21日 11:38

  8. 8

    <オダギリジョー脚本・演出・編集>連続ドラマ『オリバーな犬』に危惧

    メディアゴン

    09月20日 10:32

  9. 9

    【会見全文】「アベノミクスは失敗だった、間違いなく」立民・枝野幸男代表が検証報告を発表

    BLOGOS しらべる部

    09月21日 12:14

  10. 10

    「論文ランク1位は中国」ノーベル賞常連の日本が貧乏研究者ばかりになってしまった根本原因

    PRESIDENT Online

    09月20日 14:10

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。