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政府は住民の避難が完了するまでゴジラへの攻撃は待つべきか、直ちに攻撃すべきか? - 塚崎公義

『シン・ゴジラ』という映画が流行っているようですので、ゴジラに関する頭の体操をしてみましょう。もし、本当にゴジラが上陸したとして、都心に向かって歩いているとしたら、早急に撃退する必要があります。でも、住民の避難が終わる前に攻撃したら、その地域の住民は死んでしまうでしょう。それでも攻撃すべきでしょうか?

「ゴジラを攻撃しなければ誰が死ぬか」はわからない

 攻撃すれば、その地区で逃げ遅れた少数の人が死にます。一方で攻撃しなければ、都心で大勢の人が死ぬと予想されます。大勢の人を救うためには、少数の人の犠牲はやむを得ませんから、攻撃すべきでしょう。大きな被害を避けるために小さな被害を引き起こすことは「緊急避難」ですから非難すべきではありません。

 撃退すれば、多くの人が助かるでしょうが、問題は、「助かった人が政府に感謝するわけではない」ということなのです。ゴジラが都心方面に歩いて行くとして、具体的にどの家が踏み潰されるのかを予測することは不可能です。そこで、都心の住民は「政府がゴジラを撃退しなかったとしても、自分は死ななかったはずだ」と考えるでしょうから、政府に感謝するわけではないのです。

 そうなると政府は、自分の保身を考えて「攻撃しない」という選択をするインセンティブを持つことになりかねません。攻撃すれば、逃げ遅れた住民の遺族から批判される一方で、攻撃しなければ逃げ遅れた人から感謝されるからです。都心の被害者から苦情が来ても、「逃げ遅れた住民を見殺しに出来なかったので、仕方なかった」という言い訳が可能です。

 政府が保身から攻撃を思いとどまるとすれば、それは日本にとって悲劇です。一方で政府が、自分が批判されることがわかっていながら、日本にとって最善の選択(逃げ遅れた住民を見殺しにしてゴジラを撃退する)をするとすれば、それは素晴らしいことです。そして、政府はそうした苦しい選択に迫られる場合も少なくないのです。

満員のプールに刃物犯が現れたら……

 先日、混雑したプールに刃物を持った犯人が現れて、女性数人に切り傷を負わせた、という事件がありました。被害者の方々にはお見舞いを申し上げます。さて、そうした際、会社として、「刃物を持った不審者がいます。気をつけて下さい」というアナウンスをすべきでしょうか? これも難しい判断です。

 アナウンスをしなければ、人々は刃物犯に対して無防備のままですから被害者が増えるかもしれません。しかし、混雑したプールでアナウンスをすれば、大勢が出口に殺到して大混乱になり、転倒等による怪我人が多発するかもしれません。

 どちらのリスクが大きいかを判断して、適切な対応を採る必要があるでしょう。ゴジラの場合は、撃退した方が被害が少ないことが明らかなので、意思決定はある意味簡単なのですが、本件ではどちらのケースも被害が読めないので、悩みは深いと言えるでしょう。

 さて、会社の保身を考えた場合には、どちらが得でしょうか? アナウンスをしない場合、二人目以降の被害者は「アナウンスをしていれば自分は被害に遭わなかったはずだ」として会社を訴えるかも知れません。一方で、アナウンスをした場合には、出口で怪我をした人が会社を非難する可能性は低いでしょう。「被害の拡大を防ぐ必要があった」と会社に言われれば、それまでだからです。

 誰かが感謝してくれるかと言えば、アナウンスを行っても行わなくても、誰からも感謝されません。アナウンスが無かった場合、「アナウンスがあったら自分は出口で転倒して怪我をしていただろう」と考える人はいませんし、アナウンスがあった場合、「アナウンスがなければ自分が刺されていたはずだ」と考える人もいないからです。

 その意味では、保身だけを考えればアナウンスを行うべき、ということになりますが、筆者が責任者であれば、出口での大混乱も避けたいところですし、悩むでしょうね。

予防接種を実施するか否かも難しい判断

 予防接種は、受ければ病気に罹る確率は減りますが、副作用の可能性があります。認可されている予防接種であれば、期待値としては病気予防のメリットが副作用のデメリットを上回っていると考えて良いでしょうが、それでも医師にとっては難しい問題です。

 副作用を患った患者からは批判される(場合により訴えられる)一方、メリットを受けた客からは感謝されないからです。「自分は予防接種を受けなければ病気になっていたはずなのに、接種のおかげで助かった」と考える人はいないからです。

 そうなると、医師としては訴えられるリスクを考えて予防接種を実施しない、というインセンティブを持ちかねません。ただ、この場合は解決策があります。予防接種の価格を高めに設定して大きな利益を稼ぎ、その利益で「副作用で訴えられたら代わりに賠償してくれる保険」に加入すれば良いのです。

 では、薬を認可する厚生労働省はどうでしょうか? こちらは保険に加入できないので、深刻な問題です。副作用を患った患者から「どうして認可したのか」との苦情が来る一方で、誰からも感謝されないからです。それでも国民のために認可をしている担当者には、敬意を表するべきでしょう。

自分を客観的に評価できない国民を相手にすることの苦労も

 人間は、自分を客観的に評価するのが苦手です。人々に「あなたは字(あるいは運転等々)が上手な方ですか?」と聞くと、半数以上が「はい」と答えるのだそうです。人事評価に不満を持つサラリーマンが多いのも、半分以上の人が「自分は仕事が出来る方だ」と思っているからなのでしょう。

 そうした中で、たとえば自由貿易協定を締結したとします。輸出が減った農家は「自由貿易協定のせいだ」と怒りますが、輸出が増えた製造業は「自分の努力が報われた」と考えがちです。景気対策を打てば失業者が減りますが、減った失業者は「政府のおかげだ」とは考えません。「自分が真面目に求職活動をしたから仕事が見つかった」と理解するわけです。そうなると、「景気対策で財政赤字が増えた」という批判だけを受けることになります。

 以上のように、意思決定者は「自分の保身を考えると実施すべきではない案件」でも、人々のために必要なものは実施するべき、という難しい立場にあるのです。

 政府の個々の政策には様々な賛否があると思いますし、反対の時は反対意見を明確に述べるべきだと思いますが、賛成反対とは別の次元で、政府がこうした苦しい選択をしているのだ、という事を考えながら、その責任を負って日本のために頑張ってくれているという事には、素直に敬意を表したいと思います。

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