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「シン・ゴジラ」が描く日本のナショナリズム

「シン・ゴジラ」で描かれたゴジラと戦う官僚たちの姿はこれまでとは全く違う(英語音声、英語字幕あり)

 日本で公開中のゴジラ映画最新作「シン・ゴジラ」。東京湾に現れ、街を押しつぶすゴジラはいつも通りの破壊的な存在として登場する。しかしシリーズ誕生から62年、29作目の本作品で描かれたゴジラと戦う官僚たちの姿はこれまでとは全く違う。

 過去の作品では日本政府は地味な役回りを演じることが多く、政府の頼りない反撃などゴジラはものともしなかった。しかし最新作では官僚は日本の能力を誇示し、戦後の軍事的制約を棚上げすることをいとわない、祖国を守る勇敢なヒーローとして登場する。放射能を吐き出すゴジラを前に政府は延々と対応策の法的根拠を議論するが、結局は攻撃ヘリコプターや戦車、F-2戦闘機などを投入することとなる。これは国民の意識に変化があったことを如実に示している。

 ゴジラはこれまでも国民の意識を映し出す存在だった。核実験による突然変異で誕生したというゴジラの出自は第2次世界大戦中の原爆投下によって日本が受けた苦しみや、米国が戦後、太平洋で行った水爆実験への不安を反映したものだ。1970年代になり日本中で公害が問題になると、ゴジラは光化学スモッグを象徴する怪獣ヘドラと戦った。日本と米国の貿易摩擦が激化した1990年代初めには、外国人のような風貌の未来人が日本の経済大国化を阻止するために送り込んだ、3つの頭を持つ怪獣キングギドラと対決した。

 最新の「シン・ゴジラ」――「シン」には「新」「神」「真」などの意味があるが、製作者はどれを意図したかを明らかにしていない――は安倍晋三首相の下で生まれた新たなナショナリズムを思い起こさせる。安倍氏は国としてのプライドを取り戻すため、さらには自衛隊の海外での活動の拡大が可能となるよう憲法改正に向け努力を続けている。これに対し、中国など一部のアジア諸国は懸念を示している。

 政治思想史が専門でゴジラに関するエッセイを書いたこともある片山杜秀・慶応義塾大学教授は映画について、「今の日本の状況とあまりにも重なるところが多い」と話す。

 「シン・ゴジラ」のエクゼクティブ・プロデューサー、山内章弘氏は政治的主張がある作品ではないと言う。しかし、東日本大震災後に東京電力福島第1原子力発電所で起きた原発事故への日本政府の対応に着想を得たと語った。山内氏は「政府は(対応の)まずさばかりが批判されたが、そこで力を発揮して立ち回った人たちがいた。その人たちがいたおかげで今の日本がある」 と話す。映画では政府を「象徴というか、日本の代表として」描いたという。

 1954年に登場し、 ポップカルチャーの象徴として世界中に知られるようになったゴジラだが、製作会社の東宝は2004年、28作でゴジラシリーズを終了すると発表した。その10年後、ハリウッドの映画会社が使用権を取得して製作した14年公開の「Godzilla ゴジラ」は興行収入5億2900万ドル(約550億円)の世界的大ヒットとなった。

 この成功はすでに東宝が決めていたゴジラシリーズを復活させる計画に弾みをつけた。「シン・ゴジラ」は7月末の封切から1カ月で5000万ドルを超える興行収入を稼ぎ出した。東宝から米国での「シン・ゴジラ」の権利を獲得した配給会社ファニメーション・フィルムスは10月に北米の一部の映画館で公開する予定を明らかにしている。

「ゴジラ」第1作の出演者らが語る制作秘話(日本語音声、英語字幕あり)

 映画では官僚は自衛隊による武力行使をめぐる制約について検討しながら、暴れ回るゴジラの攻撃をかわそうとする。こうしたシーンは原発事故――自衛隊はメルトダウン(炉心溶融)を起こした原子炉の冷却作業に当たった――や世界の紛争における自衛隊の役割についての論争を思い起こさせる。

 映画を見た人たちに話を聞いたところ、日本という国を支持する気持ちが高まったそうだ。学生のマエダ・ヒナコさん(22)は国家権力が無能に描かれているエンターテインメントは好きではなく、「頭のいい人たちがやるべきことを一生懸命やっている」のを見るのが好きだそうだ。 母親は自衛隊の宣伝のような映画という感想だったそうだが、マエダさんは映画の中の「自衛隊がかっこよかった」と語った。

 前出の片山教授は「シン・ゴジラ」が「日本がんばれ、まだまだいけるとか、アメリカの属国でもあくまで日米手を携えてがんばっていきましょう」というような感情をかき立てたと話す。そうした感情は「岸・安倍路線」に通じると片山氏は言う。岸・安倍路線とは、安倍首相と祖父の岸信介元首相のナショナリスト的傾向を指す。

 映画の序盤はドキュメンタリー作品のようにリアルな描写が続くが、次々に事件が起きて官僚が日本を救うために従来の制約と決別せざるを得なくなる後半では、リアリズムは影を潜める。片山教授は後半のシーンについて、憲法改正により緊急時に政府に特別な権限を与えるべきとの保守派の主張を支持することになりかねないと話す。この映画には「危機的なときに民主的手続きをやっていたら間に合わないというメッセージがある」 と片山氏は語っている。

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