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- 2016年09月02日 07:29
【徹底解剖 日本の大組織】自民党vs.共産党 大変身は成功するか - 伊藤惇夫(政治アナリスト)
2/2組織政党ゆえの大転換
一般に「組織政党」という言葉で誰もが連想するのは、公明党と共産党だろう。だが、厳密に言うと公明党は組織政党ではない。なぜなら公明党を支えている組織は実態的に創価学会であり、公明党自身は自前の組織を抱えているとはいえないからだ。その意味で、日本における唯一の組織政党は日本共産党ということになる。組織政党とはなにか。一般には、政党が有権者に直接訴えかけ、支持を獲得し、広報活動(機関紙誌など)を通じて政治教育を行い、党員を拡大し、日常的に政治活動を展開するスタイルがそれだ。組織運営はあくまで党中心。地方議員や地方組織、一般党員を多数抱え、党幹部に非議員が少なくないことも特徴の一つだ。
共産党の党員は約30万人(2015年現在)、基本的には職場、地域、学校につくられる支部を基礎とし、支部→地区→都道府県→中央という形で組織されている。共産党の強みは、なんといっても全国に張り巡らされた約2万の支部組織にある。底辺部分を支えるこの支部組織が、それぞれの地域や職場に密着し、住民や労働者の要望にきめ細かく対応(共産党ではこれを「生活相談活動」と呼ぶ)することで、支持を拡大、維持している。
その支部活動の中心にいるのが、地方議員たち。共産党の地方議員数は自民党(3351人)、公明党(2921人)には及ばないものの、2817人(2015年総務省調査)と国政レベルに比べて強力だ。地域等での彼らの評判は押し並べていい。住民の行政等に対する要望に、丁寧に、しかも迅速に対応するからだ。「相談事は共産党」が定評になっているともいわれている。
また、財政面でも他党に比べると、極めて強固。他の政党の多くが、党収入の大半を政党交付金でまかなっているのに対し、共産党は自前の収入で党運営ができている。ちなみに、政党交付金の受け取りを拒否している政党は共産党のみだ。
2015年の党収入は約238億円。党財政を支える柱は「しんぶん赤旗」の購読料、党員が納める党費、個人からの寄付の3本柱から成り立っている。このうち最大の柱は「赤旗」で、収入の約8割(190億円)を占めている。「赤旗」がこれほどの収益を挙げている理由は、配達や集金がほぼ党員のボランティアで支えられているからだが。なお、党費(党員は実収入の一%を納める規定)は約6億5000万円、個人からの寄付は約7億円だ。
また、共産党には党組織以外にも民商(全国商工団体連合会)や民医連(全日本民主医療機関連合会)など、強力な関連団体がある。ちなみに民商の会員数は約二十六万人、民医連は141の病院、505の診療所を擁する日本最大規模の医療関係団体だ。これらの関連団体が様々な形で共産党をバックアップしているのである。
いうまでもないが、組織政党である共産党は「組織の論理」がすべてに優先する。組織内の序列も外部的な肩書とは関係ない。議員、非議員の違いもない。
「国会議員、地方議員の上下関係はありません。みんなが役割分担をしているだけ」(山下芳生副委員長)というわけだ。そのため、時に国会議員本人よりも、その秘書のほうが党内の序列では上、といった現象も起きるという。
とはいえ、実態的には党大会にかわる最高意思決定機関である中央委員会(中央委員、準中央委員合わせて約二百名)、そのトップである委員長に権力が集中していることも事実。これがいわゆる民主集中制だ。言い方を変えれば中央委員会の決定は絶対であり、党内でこれに異を唱えることなどあり得ない。
今回の参議院選挙で、共産党は一人区での候補者擁立という従来からの方針を転換し、野党共闘路線に切り替えた。その方針を決定したのは志位和夫委員長だが、この大転換が、どのような状況下で決まったのかをみれば、それは明らかだろう。前出の山下副委員長はこう述べている。
「方針を決めたのは昨年の九月十九日、安保法制が成立した当日です。志位委員長の提案で方針を決めました。提案があった時に、みんなが驚いたのは事実ですが、特に異論はなかった。安保法制廃止にはこの方法しかないと思ったからです」
これほどの大転換が、異論なく決まること自体が、この政党の性格のある一面を物語っているといえるかもしれない。
野党内での存在感を増す一方、ソフト路線の徹底で一般の国民が抱いているアレルギー反応の緩和にも成功しつつある共産党。だが、その一方で、あるいはそれゆえに直面しつつある課題も見え始めている。共産党の党員数は現在約30万人だが、これはピーク時の約49万人から見ると、約4割近い減少だ。また、このところ若い層の入党が増えているとはいえ、全体として党員の高齢化が進んでいることも事実。これは財政面にも直結する。組織政党だからこそ、党員数の減少というのは極めて重大な問題だともいえる。
組織が弱体化する中で、それを補うためにはどうしても組織外の支持拡大が必要になってくる。それが、実はソフト路線であり、今回の野党共闘路線の背景なのではないか。だが、それは一方で組織政党としてのアイデンティティ、政治理念、イデオロギーを薄めていくことにもつながりかねない。
共産党は共産党であり続けるのか、それとも本当の意味で「普通の政党」に向かっていくのか。自民党と共産党、規模でいえば自民党が象なら、共産党は同じアフリカの草原に住む、俊敏な山猫サーバルキャットくらいの違いがある。だが、今後も自民党にとって、共産党は油断がならない存在であり、共産党にとって、自民党はどんな奇手奇策を講じてでも疲弊させ、倒すべき対象であり続けるだろう。
その両党が、生き残るために党の体質を変化させていく中で、ともにそれぞれが持っていたはずの本質的な部分、あるいはアイデンティティまでも変質させかねないというジレンマに陥っているように見えるのは、果たして偶然の一致だろうか。
いとう あつお 1948年神奈川県生まれ。学習院大学法学部卒業後、自由民主党本部事務局から新進党総務局に移り、太陽党、民政党、民主党で事務局長を務めた。著書に『政党崩壊』(新潮新書)、『国家漂流』(中央公論新社)など。
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