- 2016年09月01日 17:18
iPhone7発売、アップルが携帯キャリア(MVNO)になる日 ジョブズの呪縛から解放されるとき - 川手恭輔 (コンセプトデザイン・サイエンティスト)
2/2通信チップの低消費電力化
Apple Watchにモバイル通信機能を搭載するには、ベースバンドプロセッサー(モデム)と、その他のモバイル通信関連の部品の追加実装が必要になる。このベースバンドプロセッサーの消費電力が問題になっているようだ。ブルームバーグによると、アップルは低消費電力化の研究を進めているという。
サムスンのGalaxyなど、多くのアンドロイド・スマートフォンに採用されているクアルコムのプロセッサーSnapdragonは、アプリケーションプロセッサーとベースバンドプロセッサー、その他のモバイル通信関連の部品などが1つのチップ(SoC)に集積されている。Galaxy Gear S2には、ウェアラブル向けのSnapdragon 400が採用されている。
アップルはiPhoneのアプリケーションプロセッサー(Aシリーズ)を自社で設計しているが、ベースバンドプロセッサーはこれまでクアルコムの既製品を使用してきた。アップルの強みであるアプリケーションプロセッサーを、モバイル通信技術の変化に追従しなければならないベースバンドプロセッサーと一体化してSoCにすることを避けてきたと考えられる。
Apple WatchにはS1と呼ばれるプロセッサーが使われている。システム・イン・パッケージ(SiP)と呼ばれる実装のこのプロセッサーは、自社で設計したアプリケーションプロセッサーを中心に、Wi-Fi、Bluetooth、NFC、ワイヤレスチャージャー、メモリーなどの部品がまとめられて樹脂で密封されている。モバイル通信機能の搭載を延期しても、製品を計画通りの日程で発売できるところを見ると、新しいApple WatchのプロセッサーもSoC化せずに、S1の実装(SiP)を踏襲しているのだろう。
新しいiPhoneでは、クアルコムだけでなくインテルのベースバンドプロセッサーも併用されるようだ。インテルのベースバンドプロセッサーは、2010年にインテルが独インフィニオンテクノロジーズから買収したベースバンドプロセッサー部門の技術が元になっている。アップルは過去にもiPhoneに、インフィニオンテクノロジーズのベースバンドプロセッサーを使用していたことがある。
このような背景から、Apple Watchで使用する計画だったベースバンドプロセッサーもインテル製の可能性がある。アップルは2006年からMacのCPUにインテルのx86プロセッサーを採用しており、またインテルはAシリーズの製造の受注にも積極的だとの噂もある。アップルは、これまでクアルコムに任せていたベースバンドプロセッサーを、Apple Watch用にインテルと共同で開発しようとしているのかもしれない。
iPhoneがモノに組み込まれる
アプリケーションプロセッサーとベースバンドプロセッサーが(SiPやSoCで)統合され、eSIMが組み込まれた低消費電力で超小型のプロセッサーは、iPhoneが1つのチップになったようなものだ。それによってApple Watchだけでなく、新しい製品の可能性が見えてくる。
アップルの共同創業者のスティーブ・ウォズニアックは失望しているが、次のiPhoneからは3.5mmイヤホンジャックが消失するらしい。アップルは、iPhoneとワイヤレス(Bluetooth)のイヤホンで音楽を楽しむことをお勧めするようだが、iPhoneをイヤホンに組み込んでしまえば、イヤホンだけで音楽を楽しむことができる。Apple Musicから音楽が直接ストリーミングされるイヤホンを着けるだけで、聴きたい曲や「いいな」と思える曲が流れてくる。
ストリーミングサービースを始めるためにアップルが買収したビーツ(Beats ElectronicsとBeats Music)は、ヘッドホンやイヤホンのメーカーでもある。通勤やランニングや水泳など、いろいろなシーンごとに音楽を楽しむための新しい製品を創り出すことができるだろう。
インターネットにつながったiPhoneは、デジタルカメラやiPodや携帯ゲーム機など、多くの「インターネットにつながっていないモノ」をアプリとして呑み込んできた。しかし、もはやその形態では新しい価値を生み出せなくなってしまっている。1つのチップになったiPhoneをいろいろなモノに組み込むというチャレンジによって、アップルはジョブズの呪縛から解放されるかもしれない。
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