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韓国犬肉事情、不法と合法の間に取り残される国民の健康 - 崔 碩栄

日本の夏を代表するスタミナ食品といえば鰻だ。特に「土用の丑の日」ともなれば、暑い夏を乗り切ろうと多くの人が鰻を買い求め、あるいは鰻屋に足を運ぶだろう。

 土用の鰻ではないが、韓国にも同様の風習がある。三伏(初伏、中伏、末伏)と言われる日に暑い夏を乗り切るためのスタミナ食品を食べる風習だ。三伏の日の料理として最も代表的なものは、最近では日本でも韓国料理の一つとしてよく知られている「参鶏湯(サムゲタン)」である。鶏の腹の中にもち米を詰め、高麗人参などの薬味とともにじっくり煮込んだ料理で、「夏は鶏にとって受難の季節」という冗談も言われるほどの人気メニューだ。

 ところで、韓国で夏に「受難の季節」を迎える動物は鶏だけではない。三伏の日に、特に中壮年の男性にスタミナ料理として人気が高い「犬」である。ただし、「犬肉」は女性や動物愛護家たちから非難の対象となっている食品でもある。そのため近年では犬肉賛否論争は夏の風物詩といってもいいほどに毎年飽きもせず繰り返される終わりのない論争となっている。

 賛成派は韓国の食文化であって強制的に禁止すべきではないと主張し、反対派は動物保護及び海外から見た韓国のイメージに傷がつくと主張、屠殺及び販売の禁止を訴えている。当分結論が出そうにないこの論争は、韓国社会の世相、価値観を見極めるための好事例でもある。

犬肉取り締まりのきっかけ 1988年 ソウルオリンピック

 食用犬肉に対する論争が最初に起こったのはソウルオリンピック招致が成功し、韓国が世界の注目を集め始めた1983年頃のことだ。海外の動物愛護団体が韓国の食文化を非難し、オリンピック開催反対運動を始めたのだ。当時の韓国にとってオリンピックは初めて韓国で開催される国際的な大型イベントであり、韓国を世界にアピールするための最高の機会だと捕らえ、国家的なバックアップのもとに準備が進められていた。

そんな時に、欧米の動物愛護団体が犬肉を食べる習慣を非難し、韓国を未開の国だとし、オリンピックボイコット運動を繰り広げたのである。韓国政府は、兎にも角にもこの国際世論を鎮めなければならないと「行動」にでた。犬肉販売を取り締まることにしたのである。ところが、その「行動」は、正に「見掛け倒し」の「外見だけ」を取り繕う行動だった。

 政府は観光客が集まるソウル市内で犬肉販売を禁止したが、ソウル市内の既存の飲食店では看板やメニューからその名を隠すだけで密かに営業を続けていたし、地方では依然として夏を代表するメニューとして犬肉の人気が衰えることはなかった。そして、オリンピックが終わると取り締まりは正に有名無実化し、犬肉を提供する飲食店は以前のような活気を取り戻した。

 犬肉に対する論争が近年再び盛り上がりを見せているのは、ここ数年韓国ではペットブームで、犬や猫を飼う家庭が増えていること、そして、2018年に平昌オリンピックを控え、欧米の動物愛護団体から再び犬肉食文化への批判の声が高まっているためである。

国家のイメージか? 国民の安全か?政府の出した回答は無責任な「放置」

 韓国国内世論が賛成派と反対派に分かれ、お互いに譲らないこの問題に対して、最も無責任な態度を取っているのは韓国政府である。

 現在、韓国政府は、犬肉の食用を合法であるとも不法であるとも断定されず、敢えてのグレーゾーンに放置している。つまり、韓国は犬肉を食品としていることを公に認めてはいないが、不法ではないのだから、誰でも食材として購入し、提供することができる。

 だが、公に認めないとはどういう状態か? 「畜産物衛生管理法」上、犬肉は「家畜」に分類されていないということである。したがって、食品医薬品安全庁(以下、食薬庁)の監督、管理下に置かれることはない。牛肉や豚肉は生産地、屠殺過程、流通、販売について食薬庁が衛生面から安全を確認し、監督するのだが、犬肉は何の基準も管理体制もないままに屠殺され、流通し、販売されているということだ。

 もちろん、屠殺された数、流通した数も分からないために統計を取ることもできないので、その動向については推測に頼るほかはない。2006年の国務調整室による調査資料によると、年間165~205万匹の犬が屠殺されているという。これは韓国内で年間に屠殺されている牛や豚の合計よりも多い数である。

 この点については、韓国国内でもマスコミが繰り返し報道し、指摘してきた。病気等で死んだ犬、汚染された環境で屠殺された犬、いつ屠殺されたのかすらわからない、流通期間も把握することのできない犬肉が流通している現実に対し、政府の処置を求めているのである。

 だが、これについて政府は現在まで対応することなく来ている。政府も対応に苦慮するところであるが、対応できずに来ている、というのが正しいこころだろうか。

 もし、政府が犬肉を畜産物衛生管理法上の「家畜」に定める、つまり犬肉を公に認めることになったら、犬肉は合法化し、飲食店での提供はもちろんのこと、スーパー、あるいはコンビニでも犬肉加工食品を目にすることが出来るようになるだろう。そうなれば、欧米の動物愛護団体はもちろん、他の外国人たちの目に留まることになる。これは国際社会の「目」を気にしてきた韓国としては、これは何とかして阻止しなければならない大問題である。

 とはいえ、逆に、犬肉を不法だと断定したら、既存の犬肉販売業者や犬肉愛好家たちが黙っていないことだけは明白である。牛や豚と何が違うんだ、伝統的食文化を外国の目を気にして捨て去るのか、と反発されたときに、彼らを説得できるだけの理由をみつけだすことは難しいのだろう。韓国政府はジレンマを抱えたまま、「放置」という苦肉の策にすがっているのである。

2018年昌平オリンピックを控えた韓国政府の選択は?

 「グレーゾーン」という政府の選択により、危険にさらされているのは一般市民の健康である。現在も病気にかかった犬、病死した動物を飼料に育てられた犬たちが、誰のチェックも受けないままに流通し、販売され続けている。

 狂牛病が話題となった2008年の韓国では、全国各地で米国産牛肉輸入反対デモが起こり、参加者の数は数百万人に上った。その時、世界中のどの国よりも厳格な検査と管理を求めて食品の安全を追及したのが韓国国民である。そして「米国産牛肉」であれば骨が一かけら混ざっていたとしても輸入禁止を決定したのが韓国政府だ。自国の「犬肉」問題との、この温度差は一体何だろうか?

 現在の犬肉に対する韓国社会の対応を見ると、2008年に「厳格な検査と管理」のためあれだけ声を上げた国は別の国とまで思われてくる。米国産牛肉に対する反対デモは本当に「安全」の為の抗議だったのか?それとも狂牛病という恐怖を利用した単なる反米デモだったのか。その答えは「犬肉」に対する韓国政府の対応を観察すればはっきりするかも知れない。果たして平昌オリンピックを控えた韓国政府はどのような答えを出すのか、その行方が注目される。

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