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今の高齢者は、インフレ分を考慮して今の金額に換算しても6分の1しか年金を払っていない - 「賢人論。」第22回(前編)鈴木亘氏

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地震が何年後に来るのか断言できないのと同じで、財政は10年後に破綻するか20年後に破綻するかわからない

みんなの介護 なぜ、これほどの財政難に陥ってしまったのでしょうか。

鈴木 少し難しい言葉ですが、今の日本は「賦課(ふか)方式」の財政方式で、年金や医療保険、介護保険を運営しています。要するに若者が高齢者を丸抱えという制度で、高齢者たちに支給する年金を、そのときの現役世代たちが払う制度になっています。でも、わりと“知られざる不都合な真実”なんですけども、もともと「自分のことは自分でやる」という積立方式で始まっているんですよ、日本の年金制度は。

みんなの介護 途中で変えてしまったんですか?

鈴木 積み立て制度とは要するに、自分たちが老後に使うお金を自分たちで払ってください、という制度なので、収支が均衡しているんですが、1970年ぐらいに、積立方式から、高齢者たちへの“大盤振る舞い”を始めてしまい、自転車操業の賦課方式に変えてしまったんです。

その大盤振る舞いを決めたのは田中角栄で、もう生きていないので責任を問えません。ま、政治家を擁護するつもりはないですが、田中角栄の頃って今よりも高齢者が少ないんですよ。だいたい現役10人に対して、高齢者1人くらいの割合だったので。高齢者1人分の年金を10人で割ったら大した金額じゃありません。

みんなの介護 それは、どんどん高齢者が増えて若者が減っていくことがすでに予想されていた時代の話ですよね。

鈴木 そうですね。今まさにそうなんですけれども、若者が少なくなってくる時代に、大盤振る舞いの賦課方式をやってしまったらどうなるかは予想できたはずなんですが、やってしまったがために、現状の惨状になってしまっています。あと100年くらいは高齢化が進むので、ますます惨状が続く。それを象徴する金額が、先ほどもお話した1600兆円という金額なんです。

みんなの介護 良くない状況がますます進むと、「働いて払ってきたものがもらえないとはどういうことだ」「だったら払うのをやめるぞ」といった風潮になりかねない気も…。

鈴木 まず、真実が明らかになっていないのが問題ですよね。それが一番、困っちゃうんですよねえ。「このままいくと、こうなります」「あと30年くらいで年金が終わってしまう可能性があるので、年金制度を伸ばすためには荒療治が必要です」と政府が正直に言うんだったら、みんな「うーん」って考えますよね。でも、政府は絶対にそんなことは言わず、「100年安心です!」だなんて言っている。国民が何も知らないうちに、莫大な暗黙の債務が作られ、負担が先送りされてゆく。

みんなの介護 それでどんどん先送りになっているっていう状態で、やっぱり国を支えるのは労働者であって…。

鈴木 本当ですよね。どこからこの糸をときほぐしたらいいのか、簡単にはいかない問題なんですけれども。例えば原発の場合、安全神話で我々は生きてきました。原発は危ないと言うことすらタブーという感じでね。「危ないなんて言ったら、何も知らない国民にまで波及して慌てるじゃないか」「国民が反対するかもしれないから、一切、もう言うな」と。「危険なんかなかったことにしよう、いかなる可能性も考えることすらだめだ」と。で、震災が起こって、「なんだこれは!」という事態にみんな、はじめてびっくりしたわけです。

みんなの介護 真実を隠すことで次世代へのツケとしてまわすことになっている…と。それは年金も同じ、ということですか?

鈴木 同じどころか、もっとひどいです。原発は、爆発するかメルトダウンするか、地震が起きない限り隠し通せる可能性がありますが、年金の金額の場合、借金が確実にどんどん積み上がっています。10年後に破綻するか20年後に破綻するかわからないですが、確実にやってくる破綻のシナリオを隠しているというのは、極めて不誠実です。いったい、どういうことなんですか?って思いますね。

本来は政治家に責任を問うべきでしょうけれど、田中角栄は亡くなっていますから。もちろん正確に言うと、田中角栄だけのせいじゃないですけどね。田中角栄が首相だった頃は高度成長期の終わりくらいだったので、まだバラ色のシナリオを描いていたのは、ちょっとしょうがないかな、という面もありますって。問題は、石油ショックのあと、経済成長率が半分くらいになって、バブルのあともさらに半分になっていますけれども、その期間の政治家や官僚たちが何もしなかったことです。確実にまずいことがわかっていて、まずいとわかってからもう40年くらいたちますけど、その間に何もしなかった人たちの責任が一番大きいと思います。

実は、国も、現状をまったく発表していないわけではないんです。年金でいうと、800兆円の純債務があることは厚生労働省も認めており、300ページぐらいある分厚い年金数理レポートの真ん中あたりにちらっと書いてあります。それを素人が見つけろっていうほうが無理なんですが、常に官僚は正しいんですよ。批判されたときのために、きちんと計算しましたというアリバイだけは必ず残している。しかし、問題は、国民がそれをみつけられず、事態の深刻さに気付かないということです。

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第三者機関を作って、国民に社会保障財政の現状を明らかにすべき

鈴木 だから私は、政府内に第三者機関を作って「現状はこうなっていて、今のままいくとこうなります」ということを、国民に分かりやすく、明らかにしてほしいと思っているんです。国民が、「このままいくとまずい」ということがわかっていれば、「では何ができるか」という改革議論が始められます。だけど“100年安心です、大丈夫です”と言われたままで、ある日突然その災難がやってくるのは、あまりにまずいんじゃないんかと思います。

みんなの介護 正しい情報をわかりやすく国民に提供するのは、官僚や政治家の仕事ではないんですか?

鈴木 厚生労働省の官僚にとって、それをする動機はゼロですよ。事実を公表したとしても、マスコミや国民から叩かれるだけですから。正直に公表したら、みな激怒して「お前ら責任とれよ」ということになる。だから、まず、「官僚に事実を発表しても、責任をとらなくても良い」という仕組みを作ってあげなければなりません。そのうえで、事実を公表させる。厚生労働省が自分自身で事実を公表すれば、それをわかりやすく国民に説明するのは我々や政治家ができます。厚生労働省が発表した内容に基づいて議論や解釈をするのですから、国民に対する信憑性が違います。国民の心に届くものになると思います。

みんなの介護 事実がわからない限り、正しい判断はできないですからね。

鈴木 ただ、官僚は終身雇用、年功序列の世界。死ぬまで縛られて生きているようなもので、途中で責任をとらされる羽目になると大変な損失になるわけですよ。幹部になって組織の上にいけばいくほど、守るべきもの、背負っているものだらけです。特に、どんどん大きくなる退職金や年金、天下り先を背負っているので、身動きできずかわいそうなものです。下手に改革になんかに手を出して全てをパーにしないように、極端な事なかれ主義で生きていますから、リスクを負うことなんかできないですし、しようとはしないでしょうね。

みんなの介護 出世するほど抱えるものが大きくなって、保守的になってしまうんでしょうか。

鈴木 もともとそういう安全志向の人が上に行く社会です。担当官庁である厚生労働省の官僚がリスクや責任を取れないのはよくわかっているので、私が言っているのは、会計検査院や、総務省の行政評価局、公正取引委員会など、当事者ではない官庁が一つになって監査を行い、事実を発表するということです。こういうことはアメリカもGAO(アメリカの会計検査院)がやっているし、イギリスにもそういう仕組みがあります。当事者じゃない政府機関に、「こういう状況が現状です」と言ってもらうしかないんです。それは、政治家が決断すればできると思いますよ。

みんなの介護 第三者の監査を入れるということですね。

鈴木 今挙げたような官庁が合併して巨大官庁を作れば、そこに権限と予算がつくので、会計検査院や公正取引委員会も自分の利益になります。事実を明らかにできるとなると、厚生労働省の官僚自身も、実はホッとすると思いますよ。責任を取りたくないので自分からは言いだせないのだけれど、ほんとはこのままではまずいと思っていますから。他の政府機関が勝手に言ってくれるのであれば、仕方がないとあきらめもつきます。でも、社会保障財政の現状が明らかになれば、少なくとも政治家は無茶なバラマキを厚生労働省に求めることができなくなります。それは、厚生労働省にとっても得なことです。

そして、ホッとするのは厚生労働省の官僚だけでなく、与党の政治家も同じだと思います。与野党の政治家も「事実を明かしたら負け」みたいなチキンレースをやっていますから。政府の第三者機関が事実を明らかにすれば、他人がやったことですから、それは仕方がないと受け止められます。現状の財政の厳しさがわかれば、「あれをタダにしろ」なんて有権者から言われることは減るだろうし、与党の政治家も実は助かります。このように、第三者の機関を作って事実を明らかにすることは、実は皆にとって得なのです。このあたりから、解決の糸口ができるんじゃないかなと思います。

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