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今の高齢者は、インフレ分を考慮して今の金額に換算しても6分の1しか年金を払っていない - 「賢人論。」第22回(前編)鈴木亘氏

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学習院大学の教授である鈴木亘先生は、年金をはじめとする社会保障に関する著書も多数。そのラインナップ、「年金は本当にもらえるのか?(ちくま新書)」画像を見る 「社会保障の『不都合な真実』(日本経済新聞出版社)」画像を見る などからもわかるように、まさに“社会保障のプロ”。さらに、橋下徹氏とともに大阪市の改革にも携わるなど、行動派の経済学者である。そんな鈴木先生へのインタビューでは、日本の社会保障の問題点のみならず、大胆な改革の提案など、多岐にわたって話を聞いた。

取材・文/猪俣ゆみ子(編集部) 撮影/公家勇人

日本には1600兆円もの暗黙の債務がある

みんなの介護 鈴木先生は数多くの社会保障に関する著書を出されていますが、今の日本の社会保障について、どのようなところが問題だと感じていますか?

鈴木 今の日本の社会保障制度が持続不可能であることは、ほぼ明らかだと思います。国と地方を合わせると、社会保障給付費は約117兆円にも上ります。これに対して、実際の保険料収入は約65兆円くらいですから、実は約50兆円もの穴が空いているんです。

みんなの介護 その穴は税金で埋めているんですよね?

鈴木 建前はそうなんです。ただ、その税金自体が日本ではあまり徴収できていないので、ざっと計算して、50兆円の半分くらいは借金で賄っているなんです。つまりは、若者や子どもたちへのツケ回しです。

もはや、日本の社会保障制度は、ビジネスモデルとして完全に破たんしています。持続不可能であるとともに、その負担は若い人やこれから生まれてくる日本人にしわ寄せされています。

これからも日本がどんどん成長して、若い人たちがこれから豊かになっていくのであれば、「高齢者たちのために、ちょっと我慢してよ」と言えるかもしれませんが、現実はその逆です。高齢者のほうがお金を持っていて、若い人は給料が低くて非正規で働いている人も多い。今後はさらに日本が成長しなくなる時代に突入するので、むしろ、高齢者が若者を助けるべきというのが現実です。

みんなの介護 負担をまわすというのは、保険料が上がる、年金受給額が減る、増税といったことですか?

鈴木 その通りです。しかし、私はもはや、そうした負担増すら政治的に実行できなくて、日本の財政がいずれ破綻する可能性のほうが高いと思っています。実際、保険料や消費税を上げたり給付をカットしたりするのは、政治的に極めて難しい。今の政治家たちが高齢者に対して「負担してください」と言ってしまうと、選挙のときに高齢者を敵にまわしてしまうので、改革を口にできません。そうすると、借金がどんどん膨れ上がってゆき、いずれ財政は破綻します。

すでに、日本の借金は1200兆円くらいになっています。日本人が年間に稼ぐお金の総額であるGDPが500兆円ぐらいですから、我々が飲まず食わずで2年半くらい働いて返さない限り、既に返済できない金額になっています。我々の稼ぎの2年半分にあたるという水準は日本の歴史上、過去最大です。

第二次世界大戦の末期でもこんな水準に達していません。今のギリシャやイタリアと比較してみても、稼ぎの2年半分というのはダントツでトップですよ。さらに、社会保障においては、「暗黙の債務」というものが発生していて、これまたすごい金額なんです。

みんなの介護 暗黙の債務とは?

鈴木 今、日本政府が抱えている借金は1200兆円くらいですけれども、これとは別に、「これから社会保障としてお払いします」と、すでに高齢者に支払いを約束している債務額が1600兆円あります。まだ、赤字国債として目に見えるものではありません。しかし、これから払うと日本政府が約束している以上、存在する債務なので、暗黙の債務と呼ばれています。

みんなの介護 その数字というのはちゃんと公表されているんですか?

鈴木 年金だけは公表されています。年金の場合は積立金がありますので、それを引いた純債務額を厚生労働省が発表しており、2009年の時点で800兆円としています。しかし、厚生労働省は自分の管轄だと思っている厚生年金と国民年金の分しか試算していないので、共済年金も合わせ、医療保険、介護保険分も加えると、1600兆円という途方もない暗黙の債務額となります。

みんなの介護 金額が大きすぎてイメージできないです…。

鈴木 どういうことかというと、日本政府は医療、年金、介護の社会保障制度を運営しています。これは、今いる高齢者たちに対して、死ぬまで社会保障はお支払いしますと約束していることと同じです。

例えば年金について言うと、「国にお金がないからといって、75歳になった人には年金の支払いをやめます」と、いきなり高齢者を切り捨てるわけにはいきません。彼らには、どんなに国庫にお金がなくても、死ぬまで年金を支払うと約束しています。医療も同じで、死ぬまで医療保険が適用されますよね。高齢者の場合は1割負担なので、実に9割を現役世代が保険料や税金で払っています。介護保険も同じ仕組みです。高齢者に対して、死ぬまでに払うことになる金額は、日本人の平均寿命を考えると大体いくらと予想できますよね。それを高齢者の数だけすべて足し合わせた額が社会保障の純債務額で、それがけっこうな金額になっているわけです。

みんなの介護 高齢者の方の医療費、介護費の9割を現役世代が払っているわけですからね。

鈴木 ところが、保険料として高齢者から徴収してきたお金がどれぐらいかというと、年金だけでも債務額の6分の1くらい。医療や介護はほとんどとっていません。介護なんて最近できた制度なので、ほとんど払ってもらっていません。高齢者から今払ってもらっているお金もありますが、そんなのはもう微々たるもんですよ。

例えば、有料老人ホームに入るときにかかる入居金などは自分で払うお金ですが、入居後にかかるお金、つまり介護サービス費用については、彼らの払っている保険料では全然足りないことは明白です。つまり、高齢者に「これから社会保障としてお支払いします」と国が約束しているにもかかわらず、高齢者からとっているお金は微々たるものです。ということは、その差額は誰かが払わなければならないでしょう。その差額が1600兆円あるわけなんですよ。

みんなの介護 年金だけみても6分の1というのは、昔の貨幣価値を含めてですか?

鈴木 それを含めて、です。昔払った金額はインフレ分を考慮し、利子率で運用されていると考えて今の金額に換算しても、6分の1くらいしか払っていないことになります。

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