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エルドアンがプーチンに頭を下げた訳 シリアに新たな戦線勃発、クルド人勢力と激戦 - 佐々木伸

トルコ軍のシリア領進撃は懸念されていたようにシリアの紛争に新たな戦線をもたらした。トルコ軍とトルコが支援する自由シリア軍など民兵組織がクルド人勢力と激戦を展開し、民間人にも深刻な被害が出始めた。進撃の背景に、クーデター後の軍掌握を誇示したいエルドアン大統領の思惑も見える。

トルコ軍戦車にロケット弾

 トルコ軍戦車部隊が24日、「ユーフラテスの盾」という作戦名の下、シリアに越境して国境の町、ジャラブルスを制圧した後、この町と南へ40キロのところに位置する戦略的要衝マンビジュとの間で、トルコ軍側とクルド人勢力との戦闘が激化。トルコ軍がクルド人の武装組織「人民防衛隊」(YPG)の拠点を連日空爆する一方、トルコ軍の支援を受ける自由シリア軍やトルクメン人部隊が地上で攻勢を掛けている。

 トルコ軍側はこれまでにクルド人が支配していた村落20カ所を制圧したが、YPG側もこれに反撃し、27日にはロケット弾を戦車2両に命中させ、トルコ軍兵士1人が死亡、数人を負傷した。トルコ側の発表によると、トルコ軍は空爆で「クルド人テロリスト25人を殺害した」としている。

 英国に本部を置く「シリア人権監視」によると、トルコの空爆と砲撃によって少なくとも民間人40人が死亡、多数が負傷したとされ、すでに40万人が犠牲になっているシリア内戦でさらに民間人の死傷者が急増することが懸念されている。

 これまでのトルコ軍の作戦で明らかになったのは2点ある。1つ目は、トルコ軍は主に空爆や長距離砲による砲撃に徹し、前線の戦闘は“配下”の自由シリア軍やトルクメン人部隊などの反体制派に先鋒を任せる戦術だ。これは自軍の犠牲者を抑えるとともに、侵攻軍とのイメージを回避し、シリア人による戦いという大義名分を優先させているためのようだ。

 2つ目は、大河ユーフラテス川の西側をクルド人には絶対に支配させないことを明確にしている点だ。マンビジュは同川のすぐ西側にあり、ここをYPGが制圧したことがトルコ軍越境の引き金になった。トルコ、米国ともクルド人側に対してマンビジュから川の東側に撤収するよう要求、YPGは地元の軍事評議会に拠点を明け渡して「撤退した」と宣言した。

 しかしこの評議会は実際にはYPGの傀儡組織で、クルド人がマンビジュを牛耳っている実態に変わりはない。エルドアン大統領は28日の演説で、過激派組織「イスラム国」(IS)と同じように、シリアのクルド人勢力を根絶する決意だと強調し、クルド人への敵意をむき出しにした。クルド人側はこれに強く反発しており、戦線が拡大、激化するのは必至の情勢だ。

周到な布石

 今回のシリア越境作戦の開始に当たってはエルドアン氏が周到な布石を打っていたことも浮き彫りになっている。それはロシアとの和解だ。ロシアとは昨年11月のロシア軍機撃墜事件で断交手前までに悪化したが、同氏がプーチン大統領に謝罪して8月9日に首脳会談を行い、関係を修復した。

 「あの誇り高い独裁者がよくプーチンに頭を下げたと不思議に思っていたが、今回の越境作戦の布石を打っていたと考えれば納得がいく」(ベイルート筋)ということだったようだ。シリアの国境地帯でクルド人勢力が従来の3倍近くまで支配地を拡大していくことに焦燥感を深めていたエルドアン氏にとって障害の1つはロシアとの対立だった。

 ロシアと対立したままで、軍をシリアに越境させれば、ロシアからの報復爆撃を受けかねなかった。このため同氏は「屈辱をのみ込んでプーチン大統領に頭を下げた」(同筋)。同時に「トルコの進撃を支持する」(バイデン米副大統領)という発言からも分かるように、水面下でオバマ政権からも了承を得ていた可能性が強い。

 そしてクーデター未遂もエルドアン氏に味方した。現地からの情報によると、エルドアン氏はこれまでに再三に渡ってシリア越境作戦の立案を軍に指示したが、ことごとく拒まれてきたという。反対していたのは、特殊部隊司令官のセミヘ・テルジ准将らクーデター派の軍幹部が中心で、これら反乱派が粛清されたことにより、進撃作戦が容易になった。

 北大西洋条約機構(NATO)で第2の規模を誇るトルコ軍の進撃作戦で、エルドアン氏は軍部を完全掌握したことを誇示、政敵のギュレン派一掃を目指す“エルドアン革命”の推進を内外にアピールした。しかしトルコ軍の長期駐留は必至で、硝煙と流血にまみれたシリアに新たな紛争のタネが撒かれた意味は計り知れないほど重い。
 

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