- 2016年08月31日 06:00
ローソン「行動する会長」が激動のコンビニ業界に挑む
2/2曲がったニンジンでも売り切ることができる
【弘兼】玉塚さんがローソンに入った10年から始めた「ローソンファーム」という独自の農場運営も、ヘルシー志向に則ったものですか?
【玉塚】それもありますが、ローソンが農業を手がける最大の目的は、その地域で生産性の高い農業のプロトタイプをつくり、農業の活性化をすること。我々は農業という産業の衰退に、供給不安という意味で非常に危機感を持っていました。同時に、製造小売業として、自分たちで生産物を可視化してコントロールできるような状態に持っていきたいと思っていました。
【弘兼】食の安全性を確保するという考えですね。現時点でローソンファームは全国に23カ所。これからどんどん増やしていくのですか?
【玉塚】我々が農業に入り込んでいき、強い農業、例えば競争力のあるレタスをどうつくればいいのか理解することは大切です。ただ、ローソングループが使用しているすべての野菜を賄うことは、たとえ23カ所あっても無理。我々はあくまでも営利企業ですが、その事業の結果として地域活性化に貢献したい。ローソンの強みは1万2000店舗で「売り切る力」があることです。例えば曲がったニンジンができたとしても、我々ならばジュースにすることも、漬物のような加工品にもできる。
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成城石井やユナイテッド・シネマを買収し、グループ内シナジー効果を高める
【弘兼】14年に買収したシネマコンプレックスの「ユナイテッド・シネマ」は16年2月期に23億円という営業利益をたたき出した。これもローソンの持っている、売り切る力を利用したと考えていいですか?
【玉塚】もともとローソンでは本、雑誌を販売しています。さらにCDやDVDを販売している「HMV」もグループ企業。その他、コンサート等のチケット販売を扱うローソンチケットも日本ではトップクラスのシェアを持っています。
【弘兼】広い意味でのエンターテインメントとローソンは密接な関係があった。
【玉塚】映画はエンターテインメントという分野の中で最上位に位置するコンテンツなんです。我々はコンテンツをつくることには手は出さないけど、売り切る力がある。ユナイテッド・シネマには340のスクリーンがあります。こうした出口を持つことで、コンテンツを持つ方々と関係性を強化することができる。
【弘兼】その中心にコンビニである、ローソンがある。
【玉塚】その通りです。映画のチケット販売、コンサートチケット販売は来客者増に繋がります。あるいは非常にお客さまを惹きつけるコンテンツを使ってキャンペーンを行う。
【弘兼】女性客が増えたというだけでなく、コンビニの社会における役割が大きく変わったと感じたのは、11年の東日本大震災のときでした。震災の後、最初に店を開けたのがコンビニ。コンビニの明かりがともったことが、被災者の方々の支えになったと聞いています。今回の熊本・大分地震でもローソンの対応は早かったそうですね。
【玉塚】最初の震度7の地震が起こったのが4月14日でした。ローソン本部からまず200人を派遣しました。土曜日の朝、16日に東京で対策会議を開いていたんですが、テレビ会議では現地のことはわからない。そこで翌日、私も道路が通じていた鹿児島から4時間かけて熊本に入りました。
【弘兼】トップ自らが現地に入った。
【玉塚】被災地の現状、温度感を知ることは大事。トラックを走らせる、航空機で空輸するという指示を出さなければなりませんからね。
【弘兼】熊本は地形的に周囲から物資を運ぶのに渋滞しがちだとか。
【玉塚】今回は東日本大震災のときと違って、製造拠点が壊滅的な被害を受けたわけではありませんでした。周囲には商品があったので、いかに効率的にお店に届けるかが一番のポイントでした。現場の状況を判断してパンを東京から二度空輸しました。
【弘兼】現場でトップが適切な判断ができれば強い。
【玉塚】オーナーの方は泥だらけになって、店を復旧しようとしておられた。そこで感じるものってありますよね。できる限りの加盟店さんを回りました。現場に張り付いている社員も徹夜でした。
「当たり前」をいかに高いレベルでできるか
【弘兼】今年9月には、ファミリーマートがサークルKサンクスを傘下に持つユニーグループHDと経営統合します。合併後は約1万8000店となり業界首位のセブン-イレブンと肩を並べる。約1万2400店(16年2月末時点)のローソンは、2位から3位に転落します。
【玉塚】店舗数というのは一つの数字ではありますが、すべてではない。全体、あるいは個店の収益力など、重要なバロメーターはいろいろあります。我々が大切にしているのは個店の強さと品質の高さ。40年前、日本の商店は全国に160万店ありました。それが現在、80万を切っている。かつてあった近所の八百屋、本屋がなくなっているのです。
【弘兼】郊外の大型スーパーがその役割を担っているのでは?
【玉塚】その面もあります。ただ、高齢化で、単身者も増えています。大型の店に行くだけでくたくたになってしまう人もいます。
【弘兼】団塊の世代が高齢化していき、70代半ばを超えると、車も運転できなくなる。そうなると郊外の大型店に行けません。
【玉塚】そこで、ぼくたちのような近所の店が、生活全体を支援していけるような商品構成、品揃え強化をきめ細かくやっていくことが大切になってきます。ローソンではそれを「生活支援強化」と呼んでいます。品揃えも400品目増やしました。当たり前のことを当たり前に、どれだけ高いレベルでできるか。現場はこれから間違いなく人手不足になります。店舗数を求めるのはもちろんですが、同時に個店の高い品質を守ること、それが大切だと考えているのです。
リンク先を見る店舗数は3位になるが、「個店の強さ」と「品質の高さ」で勝負
弘兼憲史の着眼点
▼ユニクロ柳井さんから学んだ商売の原理原則私の漫画『島耕作』シリーズで島耕作を社長から会長に昇進させた際、こんなセリフを喋らせたものでした。
「社業30パーセント、財界活動70パーセントのスタンスでいこうと思っている」
日本のトップ企業において、社長は社業、会長は一歩距離を置き経済界に尽力するというのが私の考えでした。だが今回お会いした玉塚さんは違っていた。
画像を見る弘兼「生産性を高めるためには何をしていますか?」玉塚「たとえば、個店ごとに最適な品揃えにするために、PONTAカードのビッグデータを活用しています。仕組みを変えない限り、アウトプットは変わらないと思うんです」
玉塚さんは6月1日付でローソンの会長CEOに就任しました。彼は会長としても「現場主義」を貫くとおっしゃっていました。その根本には柳井さんから学んだことがあるように思えた。柳井さんとの関係をこう教えてくれました。
「僕が恵まれていたのは、7年間柳井さんの薫陶を受けて、商売の原理原則というものを学ばせてもらったことです。つまりすべてをお客さま起点、現場起点で考えること。ゼロベースで現状を俯瞰して、必要があればすべてやり替えることを恐れないこと。経営にはスピードが大切なこと。仮説、実行、検証のサイクルを早く回すこと……いろいろとありましたね」
まさに玉塚さんがローソンでやっていることです。
▼「行動する会長」という新たな像をつくり上げる対談の最後に、「5年後、10年後の自分の姿を想像したことがありますか」と尋ねてみました。すると彼は困った顔になりました。
「僕のような仕事というのは、今、目の前にあるミッションに向き合ってどれだけ結果を残すかということしかないんです。そのミッションを成し遂げる過程で、僕自身も成長する」
彼の言葉を聞いて、自分も同じだと思わず膝を打ちました。私自身、目の前のことを必死でこなしているうちに漫画家として40年が過ぎたのです。
これからも玉塚さんはこうした考えで突き進んでいくことでしょう。被災地へも自らが乗り込んだように、玉塚さんが「行動する会長」の新たな像をつくり上げることを楽しみにしています。
弘兼憲史(ひろかね・けんし)
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)勤務を経て、74年に『風薫る』で漫画家デビュー。85年『人間交差点』で第30回小学館漫画賞、91年『課長島耕作』で第15回講談社漫画賞、2003年『黄昏流星群』で日本漫画家協会賞大賞を受賞。07年紫綬褒章受章。
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