
■新聞紙面にだけ篭っていてもだめ
原田:若者に焦点を当てた記事ではあるけれどはいるけれど、新聞を読まない彼らに届いていないというのも課題ですよね。また、上の世代に若者のことを知ってもらう必要もあったと思います。
松下:我々自身が"おじさん新聞"を作ってちゃだめだと感じています。どうしても高齢の読者が多いのですが、高齢者向けの記事を書いていても、持続可能性がない。朝日新聞では、新聞紙面にだけ篭っていてもだめだよねということで、SNSのように若者が親しみやすいメディアを同時に使って議論を進めていく。それを紙面に還元してみるということにも挑戦しています。また、若い世代の問題意識を反映させようと、「アンダー35」による紙面づくりも試みています。ただ、18歳からすれば35歳でも「おっさん」と言われますからね(笑)。取材の手法、我々の意思決定の在り方も含めて、自分達自身が常に問い直しをしていかないと、若い人たちに響くものも作れないと思いましたし、そういうことに挑戦しようとすると、様々な難しさ、私たちの未熟さがあることに改めて気付かされます。
それでも、私はこの社会の意思決定権を若者に降ろしていかなければいけないと思っています。そのためにも、メディア自身が変わっていく必要があります。
小松:これはうちの新聞がどう、ということでなく、若い人にはどこの新聞でもいいので「読んでもらいたい」という思いは業界の共通意識としてあると思うんです。18歳選挙権の特集では、授業で使いやすいように紙面のレイアウトも工夫をしました。
■どれだけ熱量を持ち続けられるか
原田:今回は18歳選挙権という大きなテーマがありましたが、今後もマスメディアは若者と政治について同じくらいの労力を割けるでしょうか。

松下:これまで社会全体が、若い人たちに目を向けていなかったのではないかと思っています。今回、ようやく彼らにとって切実な課題である奨学金や、被選挙権年齢に光が当たりはじめ、政治の側もマニフェストに入れました。これらの公約をほったらかしにさせないように、我々もチェックをしていかなければいけません。政治や新聞を作る我々が組織としても、心の面でも若返る必要があります。
小松:総務省の抽出調査結果を見ると、今回の18歳の投票率は高かったと言えると思います。やはり高校生や大学生に注目が集まりましたし、社会からの働きかけが奏功したのでしょう。ただ、これで満足してはいけません。マスメディアの注目度はこれから普通になっていくはずですから、主権者教育に関わる人達がどれだけ熱量を持ち続けられるかが重要です。
取材でノーベル賞受賞者など、非常に忙しい著名な方々も、18歳に向けてお話して下さいとお願いすると、ほぼ必ず応じてくれます。そのくらい皆さんが若者に期待と危機感をお持ちだと思うので、我々も地道に現実の課題を一緒に考えたいですね。個人的には、もっと若者を冷静に怒らせたいなと(笑)。奨学金も年金もそうですが、この先20年、30年後に起きていくことは予想できるわけですから。
松下:これからますます若者の「受難の時代」になっていくと思うんです。ヨーロッパで主権者教育が進んだ理由は、若者がしんどい時代だと気づいたことが一つの大きな背景だったと思います。身近なことについて自分で意見を言える、自分で決められる社会になればいいな、そのための手助けができればいいな、と思っています。