- 2016年08月29日 21:34
安倍首相の「G20荒らし」を恐れる中国 「対日友好姿勢」の真意 - 石 平
1/2石 平 (中国問題・日中問題評論家)
8月23日から24日、日中韓外相会談が東京で開かれ、中国の王毅外相が就任以来初めて日本を訪問した。23日の晩、王外相は日本の岸田文雄外相主催の歓迎晩餐会に出席。翌日にはメインの三カ国外相会談に参加したほか、旧知の自民党の二階俊博幹事長と会い、岸田外相との日中外相会談にも応じた。最後には、韓国外相と共に安倍晋三首相への表敬訪問も行った。
急に変化した対日姿勢
このようにして、王外相は短い日程の中で精力的な対日外交を展開したことがよく分かるが、さらに注目されるのは、一連の会談において王外相の示した、意外とも言えるほどの柔軟な対日姿勢である。
たとえば、岸田外相との会談後、王外相は「小さい問題が残っているが、日本側も(中国側と)同様に前向きな意志があれば、われわれはすぐに合意できる」と述べ、海洋での不測の事態回避に向けた「海空連絡メカニズム」に関して、高級事務レベル協議を開いた上で早期にスタートできるとの認識を示した。
今まで、日本側が同メカニズムの早期運用を強く要求してきたが、中国は難色を示してきた。しかし今回、王外相は一転して合意への意欲を示し、「双方の努力で海上摩擦をコントロールする」と前向きな姿勢を見せた。
同時に、王外相は日中首脳会談の早期開催にも積極的な姿勢を見せた。中国側が想定しているのは、一つは年内開催予定の日中韓首脳会談であり、もう一つは、9月4日から中国杭州で始まる20カ国・地域(G20)首脳会合に合せての日中首脳会談である。
実際、東京での日中外相会談の翌日、北京では中国外交担当トップの楊潔篪国務委員(副首相級)が日本の国家安全保障会議(NSC)の谷内正太郎国家安全保障局長と会談し、まさにG20に合わせた安倍首相と習近平国家主席の首脳会談の開催に向けて調整したとみられる。当日、中国の李克強首相までが「数段格下」の谷内氏と会ったことからも、中国政府の「対日重視姿勢」がことさらに示された。G20に合わせた日中首脳会談の開催はほぼ確定事項となっている模様だ。
このように、日中韓外相会談を機に、中国政府が急スピードで対日関係の改善に乗り出したことは明々白々であるが、つい最近までの中国側の厳しい対日姿勢とはまさに打って変わっての豹変ぶりであろう。今年の夏に入ってから、中国は軍艦を日本の領海に侵入させ日本に対する軍事的恫喝を行ったり、公船や偽装漁船を大量に日本の近海に来襲させ、緊張を高めてきた。中国側の一連の軍事的挑発行動によって、日中関係は一時「開戦前夜」のような危険水域に入ったのはつい8月中旬までのことであるが、下旬になると、前述のように中国政府は今までの対日強硬姿勢から一転して日本との関係改善に急ぐような外交を始めたのは、いかにも不自然な方針の急転換である。こうした外交姿勢の180度の急転換の背後には、一体何があるのか。
この答えとなるキーワードは先ほどすでに登場した。そう、中国が議長国となる「G20首脳会合」の開催なのである。
すべては、G20を成功させるため
王外相は前述の岸田外相との会談後に記者団に対し、来るべきG20について「日本側も成功に向けて中国と共に努力したいと表明した」と強調したが、実は日本側からの、「中国と共に努力したい」という態度表明こそ中国政府が喉から手が出るほど欲しかったセリフであり、王外相はまさにこの言質一つを取るために日本にやってきて一連の対日改善外交を展開していたと言っても良い。
すべては、中国が議長国となるG20を成功させるためなのである。
9月4日、5日の2日間、中国浙江省杭州市で開催される予定のG20は、中国にとって、とりわけ中国の習近平国家主席にとって、どれほど重要な会議であるかは、この半年間の中国を取り囲む国際環境の変化を一目見れば十分に分かる。
まずは5月下旬に開かれた伊勢志摩サミットを見てみよう。伊勢志摩サミットの首脳宣言は、サミットとしては初めて南シナ海問題を取り上げた。名指しこそ避けているものの内容は中国に対する牽制と警告と批判となっていることは明白である。矛先は完全に、中国に向いている。
一方、オバマ大統領がサミットで日本に来る前に、まずベトナムを訪問した。その際、オバマ大統領はベトナムに対して、今後アメリカはベトナムに対する武器の禁輸を、全面的に解除すると宣言した。アメリカが社会主義国家に対して武器の禁輸を全面解除するというのは驚きであるが、その狙いはただ一つ、ベトナムの後押しを以って中国に対抗するためである。
伊勢志摩サミット終了直後から、シンガポールで毎年恒例のアジア安全保障会議が開かれたが、ここでもまた、中国にとって大変衝撃的な出来事が起きた。
アメリカと歩調を合わせると言うフランス
会議ではアメリカが先頭に立ち、カーター国務長官が中国を厳しく批判したが、中国にとって一番意外だったのは、会議に参加したフランス国防大臣の発言であろう。
アメリカは去年から断続的に、南シナ海で中国を封じ込める為に航行の自由作戦を展開してきていることは周知の通りだが、上述のアジア安全保障会議において、フランスの国防大臣はフランスもいずれこの南シナ海の航行の自由作戦に参加すると宣言した。それだけではなく、フランスは今後、EU各国に呼びかけて、アメリカと歩調を合わせて南シナ海で航行の自由作戦に参加するとも言い出した。
今までフランスは、南シナ海の問題に関してはいわば「部外者」の立場を取っていてあまり口出しはしなかった。しかもどちらかと言えば中国とは友好関係にある。このフランスまでが、アメリカと歩調を合わせて中国を押さえつけ封じ込める姿勢に出たことにより、習近平政権の孤立化がより一層深まったといえよう。
そして7月、周知のようにオランダ・ハーグの仲裁裁判所が、南シナ海における中国の主張や行動は国連海洋法条約違反だとしてフィリピンが求めた仲裁手続きについての裁定を公表した。それは、中国が南シナ海の広い範囲に独自に設定した「九段線」に「法的根拠はない」と明確に認定した画期的な裁定であった。
この裁定内容は、南シナ海の主権に関する中国政府の主張をほぼ全面的に退けたものだ。いわゆる九段線の「歴史的権利」が完全に否定されることによって、南シナ海全体への中国支配の正当性の根拠が根底からひっくり返されたのである。
裁定に対する中国政府の反応について、6月1日掲載の私の論考で詳しく記述しているが、それはまさに「凄まじい」との一言に尽きる。ありとあらゆる手を使い、裁定に反発したのだ。
このように、今年5月の伊勢志摩サミットから7月の国際裁判所の南シナ海裁定までの一連の流れにおいて、いわば南シナ海問題を巡って、習近平政権の進める覇権主義外交は国際社会の反発と抵抗に遭ってかなりの劣勢に立たされ、中国の孤立化が進んでいることは明らかだ。こうした中で、7月13日、これまでにアジアの中でも突出して中国と親密関係にあった韓国が、習政権の強い反発を跳ね返して米軍の「高高度防衛ミサイル(THAAD)」を韓国国内に配備することを決めた。中国はこれで、アジア最大の「親友」であるはずの朴政権に対しても厳しい姿勢で臨む羽目になり、孤立感がよりいっそう深まったはずだ。習政権からすると、今の中国周辺はまさに「敵ばかり」のような状態であろう。
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