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副業解禁!成長への秘策か、体のいいリストラか? -櫻井 俊

日本では長らくネガティブに捉えられてきた副業。IT企業やベンチャーだけでなく、大手製造業でも副業が容認されはじめました。
   現在発売中のWedge9月号では、「副業解禁」と題して、副業を容認することで企業にもたらされる効果を、副業を容認している企業や、実際に副業をしている人へ取材し、特集しています。本誌では労働時間の管理など、副業を容認することで発生するリスクへの対処についても取材しました。こちらの書店や駅売店にてお買い求めいただけます。
 

 8月3日、第3次安倍再改造内閣が発足。新内閣では働き方改革の担当相が新設された。安倍晋三首相は会見で「最大のチャレンジは『働き方改革』」とGDP(国内総生産)600兆円達成への強い意気込みを語った。GDPを上昇させるためには、働き方改革で高齢者や女性など、働く人の数を増やすと同時に、1人当たりの労働生産性を高める必要がある。付加価値の高い新規事業の創出も必要だ。

 それは企業にとっても同様の課題だ。

 「ITの進化によって事業は短命化しており、各企業は短期で非連続な新規事業を生み出さなければならない。経営者は共通してイノベーション、次世代リーダーの育成、労働生産性の向上に悩んでいる」と、転職サイト「リクナビNEXT」の藤井薫編集長は語る。

 日本では長らく、社員を終身雇用して経験を積ませることで、生産性や競争力を高めてきた製造業が産業の中心だった。しかしモノづくりの現場が新興国に移り、ITによる産業構造の変化が起きたことで、経験の蓄積を1つの優良なアイディアが勝るようになった。

 そうした中、注目され始めているのが「副業」だ。副業に詳しい東京大学大学院経済学研究科の柳川範之教授のもとにも「経団連所属の大企業の担当者から副業に関する問い合わせが増えている」という。

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ロート製薬の狙いは「多様性」の確保だ

 今年2月、ロート製薬が社員の副業を認める「社外チャレンジワーク制度」の導入を発表すると大きな話題となった。同社では入社3年目以降の国内正社員全員が対象で、競業他社を利するようなものでなければ人事部への申請の後、副業が許可される。「新しい事業を生み出すには『多様性』が大きなキーワード。過去の成功体験だけでなく別の価値観が必要だ。各企業はこれまで社内異動でそれを得ようとしてきたが、限界がきた」と広報・CSV推進部の矢倉芳夫副部長は制度導入の背景を語る。

大手企業がヒアリング専業禁止のベンチャー

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エンファクトリーの加藤健太社長 (写真・NAONORI KOHIRA)

 「大手インフラ企業の人事担当者が話を聞きに来た」

 生活雑貨のオンライン通販などを手がけるエンファクトリー(東京都渋谷区)の加藤健太社長は、大手企業の副業に対する意識の変化を語る。同社のホームページには「専業禁止!!」という言葉が枠囲みで表示されており、強制ではないが社員に副業を持つことを勧めている。

 副業に対する唯一のルールは「1年に1度、自分がやっている副業について全社員の前で発表すること」だという。「小遣い稼ぎじゃなく、自分で商売をやってみることで経営者の視点が身につく」と加藤社長は語る。

 ソフトウェア開発を行うサイボウズは、副業の申請すら社員に求めず、原則許可している。また、勤務時間と出社日数で区分した9つの働き方を用意しており、社員は自由に選ぶことができる。給与は、転職市場の相場などから独自に算出しており、50歳を過ぎると金額は下がる傾向にある。

 「定年もないが退職金もない。社員にはサイボウズがなくても生きていけるよう自立することを求めている」(同社人事部の松川隆マネジャー)。終身雇用を維持することで社員に忠誠を求めてきた従来の日本企業とは対照的だが、今のところ同社の離職率は4%台にとどまる。

 「1年に1度の新規事業開発プロジェクトへの応募が、15年度は前年度の5倍の100件でした。今年度は200件に届きそうです」

 結婚情報誌『ゼクシィ』などを発行するリクルートマーケティングパートナーズの田中信義経営管理部長は、副業による予想以上の効果を笑顔で話す。同社は12年10月の創業から副業を認めている。15年4月からは働き方を改革し、社員は会社から2時間以内の場所であればどこでもリモートワークが可能となったことで、副業にかける時間が増えた。

 ヤフージャパンも副業を認めている。同社で副業を持つ社員の数は全社員約6000人のうち数百人に上る。「社員の面倒を会社が一生みられるわけではない。社員にも個人として色々な経験を積んで準備をしてほしい、会社はその環境を整えるべきだ」(湯川高康人事部長)と社員のキャリア形成を後押しする。

 副業に対して、日本では否定的に見られてきたが、優秀な人材の採用や、社員の流出を防ぐために、副業を行える環境を整える必要性が出てきた業種もある。ヘッドハンティングを行うプロフェッショナルバンクの高本尊通常務取締役は「ITエンジニアを中心に、副業OKを条件とする転職者が多い」と語る。

ITの進化で高まる副業ニーズ

 副業が広まる背景にはITの進化がある。インターネットを通じて低コストでビジネスに取り組むことが可能になり、企業の枠にとどまらない働き方を志向する人が増えている。

 事業への助言を求めるクライアントとその分野の専門家を、ネットで仲介するビザスク(東京都新宿区)。助言を行うアドバイザーの登録者数は、昨夏の5000人から約2万人に急増した。ほとんどが35歳から45歳のこれまで1つの会社に勤めてきた大手企業の社員だという。「エンジニアから経理や財務の文系職まで、自分の経験が社会に通用するのか試したいという人が多い」(同社広報)。

 一方、副業を解禁する上で懸念されるのは副業の成功による人材の流出だ。しかし、副業を促進している企業は一様に「流出するならそれは副業のせいではない」(ヤフーの湯川人事部長)と語る。

 前出の藤井編集長は「副業を促進することで、社員は外部の知恵や人脈を得る。副業で自らがやりたいことをやるために本業の時間意識の向上にもつながる」と語る。

 「副業については禁止も推奨もしていない。制度を変えるつもりもいまのところない」(NTT広報)と、まだまだ副業に対して積極的な企業は少ない。ただし、「労働契約から外れた私生活は自由が原則。副業は、本業と競業したり信用を傷つけたりするなど、合理的な理由がなければ禁止できない」(労働法を専門とする早稲田大学法学部の島田陽一教授)。

 一度副業についてフラットに捉えなおし、働き方改革や評価制度改革などとあわせて、検討してみる価値はあるだろう。 

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