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定義の曖昧さが招く混乱。

ここしばらく法務業界で話題になっている東京都の暴力団排除条例が今日施行の日を迎えることになり、これで、全国47都道府県で「暴力団排除条例」が出そろうことになる。組織的背景をバックに、人々の活動を威圧し妨害するような迷惑な輩は、この世に存在しない方が良いに決まってるわけで、自分とて、中途半端な“人権論”を持ちだして、「暴力団排除/根絶」という政策を批判するようなつもりは毛頭ない*1

だが、問題は、本来の政策目的を超えてハレーションをもたらしそうな都条例の内容とその射程にある。

最近のご時世もあってか、大きな声を上げる者こそ少ないものの、東京都暴力団排除条例(http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/sotai/image/jourei.pdf)の
(定義)
第2条 四 暴力団関係者 暴力団員又は暴力団若しくは暴力団員と密接な関係を有する者をいう
という曖昧な定義と、その定義をベースとした、
(事業者の契約時における措置)
第18条 事業者は、その行う事業に係る契約が暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる疑いがあると認める場合には、当該事業に係る契約の相手方、代理又は媒介をする者その他の関係者が暴力団が暴力団関係者でないことを確認するよう努めるものとする。

2 事業者は、その行う事業に係る契約を書面により締結する場合には、次に掲げる内容の特約を契約書その他の書面に定めるよう努めるものとする。
一 当該事業に係る契約の相手方又は代理若しくは媒介をする者が暴力団関係者であることが判明した場合には、当該事業者は催告することなく当該事業に係る契約を解除することができること。
(略)
という努力義務規定の存在に疑問を感じている法務関係者は決して少なくない。全国に先駆けて条例が制定された福岡県の条例(http://www.police.pref.fukuoka.jp/data/open/cnt/3/1604/1/bouhai-jyorei-jyobun.pdf)や、コテコテヤクザの本場広島県の条例(http://www.police.pref.hiroshima.lg.jp/027/joubun.pdf)は対象者を暴対法に規定された暴力団・暴力団員等に限っているし、「暴力団密接関係者」という定義を置いている大阪府(http://www.police.pref.osaka.jp/05bohan/pdf/bouhai.pdf)は、規則でその範囲を明確に定義している*2

このような先例に比べて、「密接な関係を有する」という文言以上に手掛かりのない東京都条例の定義は、極めて曖昧なもの、と言わざるを得ないだろう。「暴力団関係者」を「規制対象者」(利益供与を行うことを公表制裁、罰則等により禁止する対象)から外す代わりに*3、「民間事業者の契約における措置」という間接的な措置の部分でこの定義を使っている、というのが東京都の巧みなところ。

“努力義務”という、一見緩く見えるが、レピュテーションを気にする会社にとっては極めて重いサンクションを民間事業者に課すことによって、行政自身が傷を負うことなく政策目的を達成しようとする・・・

行政の仕事のやり方としてはお見事だが、つけ回しを食らった事業者の側としては、実に悩ましいことになってしまうのは言うまでもない。

巷では、企業法務担当者向けの「暴力団排除条例対応セミナー」なるものがあちこちで開かれているし、この話題に関連する雑誌記事等も多く掲載されるようになっているのだが、その中で示されているモデル条項(俗にいう「反社条項」)の中には、「あれっ?」と思うくらい適用対象が広いものも含まれている。「乙(相手方)が、暴力団、暴力団員、△△△、×××その他の反社会的勢力であることが判明したとき」というバスケット条項的な広い定義をベースとした契約解除条項を設けたところで、いざという時にそれを発動するか否かの判断は極めて難しいものになってしまうし、取引相手方がマスコミ等で大々的に「暴力団関係者」とか「反社会的勢力」とか喧伝された場合ならまだしも、独自に入手した情報で無催告解除条項を発動した場合には、それが後々違法とされるリスクも極めて大きいと言わざるを得ない*5

「暴力団の資金源を断つ」という政策目的自体は、一応合理的なものだと思うし、見た目も格好いい。だが、その結果として実効性すら疑わしい過剰な「反社条項」ブームがはびこり、(いずれ)その適用をめぐる実務の混乱がもたらされることになったとしたら*7

真に「暴力団」その他の反社会的勢力を壊滅に追いやりたい、というのであれば、強大な権力を有する政府なり自治体なりが、自らの責任の下で徹底的に直接規制を行うことによって、その目的の達成を図るのが筋だろう*8

そして、民間事業者に、暴力団排除政策の一翼を担わせるのであれば、それに伴って過分なリスクを負わせないよう、せめてターゲットの定義だけでもはっきりさせておいてほしい・・・と思うところである。


*1:「潰すにしても受け皿が必要」的な論調も時々見受けられるが、だからといって反社会的組織を温存する必要がある、ということには決してならないと自分は思う。
*2http://www.police.pref.osaka.jp/05bohan/topix/pdf/kisoku.pdf
*3:刑罰規定に適用対象の明確性が求められることに鑑みれば、当然の対処だといえるだろう。
*4:「暴力団と何らかの関係があるらしい」といったレベルの情報で無催告解除して、相手に法廷闘争に持ち込まれたら、まず勝ち目はないと自分は思っている(常識的に考えれば、「取引相手方が解除対象者である」という事実の立証責任は解除した側にあるわけで、それを明確に立証できない限り、仮に相手が真の暴力団関係者であったとしても、敗訴するリスクは高い。当然ながら、公安関係者でも暴対関係者でもない一般事業者がそれを立証する途は極めて険しい)。
*5:元々、この種のコンプライアンス施策というのは、本来の法規制より一回り、二回りくらい広めに基準が設定されるものだが、この件に関しては、そもそもの条例の規制が“一回り広い”状況になっているだけに、後は推して知るべし・・・である。
*6:急成長を遂げる新興企業をくじくために、ライバル会社が密かに「あの会社の代表者は暴力団関係者と関係している」という噂を吹聴する、なんてことも十分に予想されるところで、反社条項に基づく契約解除の妥当性が争われるケースも、今後増加するのではないかと思う。
*7:しかも、ちょっとしたチンピラならともかく“プロの反社会的勢力”であれば、反社条項が入っているくらいでビビって契約を締結しない、なんてことはちょっと考え難い。「契約上の措置」が一種のデモンストレーション以上の効果を持つなんてことは、期待しない方が良いと思う。
*8:当然、そこでは、違憲訴訟等を起こされるリスクまで権力側が引き受ける必要がある。

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