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参院選が終わった途端、介護保険サービス縮小へ――自立を損ね重度化する恐れも

参議院議員選挙での圧勝を受け、安倍晋三政権は介護保険のサービス縮小を中心とする制度見直しにアクセルを踏み始めた。最大の焦点は、軽度者への生活援助を保険の対象から外すかどうかだ。国の財政が逼迫する中、政権の本音は介護費用の抑え込みにある。しかし、それは与党が参院選で掲げた「介護離職ゼロ」などの介護充実策と真っ向から食い違う。

参院選から10日後の7月20日。厚生労働省2階の講堂であった、厚労相の諮問機関、社会保障審議会介護保険部会では、各委員に「軽度者への支援のあり方」「福祉用具・住宅改修」との表題がついた厚労省の資料が配られた。資料には、過去の経緯と「制度の持続可能性の観点を踏まえた対応について、どう考えるか」といった漠然とした論点が記されているだけだったが、当局の意向が「軽度者切り」にあることは透けて見えた。

部会で経団連の井上隆常務理事は、「介護保険の持続可能性の観点から、要介護3以上の人にサービスを重点化していくことを考えざるを得ない」と口火を切った。

介護保険の認定は介護の必要度に応じ、要支援1~2、要介護1~5の計7段階に分かれている。最も介護の必要度が低いとされる要支援1~2の人(約175万人、厚労省、今年4月現在。以下同)への生活援助サービスは、昨年から順次、市町村事業に移しており、厚労省の次の標的は要介護1(約122万人)と要介護2(約108万人)の「軽度者」だ。

「状態が悪化しないか不安でなりません」。東京都世田谷区で独り暮らしをする要介護2の女性(77歳)は、そっとため息をついた。

女性は手がしびれ、週3回、ヘルパーに家事を手伝ってもらっている。年金暮らしで、生活援助が保険から外れたら、自分では払えない。「風呂桶を1人で洗うのは大変。手伝ってもらいながら洗うことが、リハビリにもなっていると思うのだけれど」と話す。

軽度者への生活援助カットについて、介護の現場からは「利用者の自立を損ね、かえって重度化する」との異論も出ている。それでも厚労省は、来年の通常国会への介護保険法改正案提出を目指し、年内にサービス縮小案をまとめる腹だ。具体策として、軽度者に対する掃除や調理などの生活援助サービスや、歩行器の貸し付け、住宅への手すり取り付けなどを保険から外す案をちらつかせている。

このほか、厚労省は介護保険の自己負担割合(原則1割)の引き上げや、負担額に上限を設けている「高額介護サービス費」の限度額アップも視野に入れる。自己負担割合は、65歳以上の人全体のうち、所得が上位20%程度の人に限って昨年8月から2割に引き上げられたが、同省はこの対象をもっと広げようとしている。

【「介護離職ゼロ」に逆行】

背景には、高齢化に歩調を合わせて膨れ続ける介護費用の問題がある。介護保険発足の2000年度に3・6兆円だった介護費は、16年度には10兆円を超す勢いとなっている。当初、3000円を切っていた65歳以上の平均保険料は月額5514円へ急増した。25年度の介護費は20兆円、平均保険料は8165円に達するとみられ、財務省や厚労省は軽度者の6割程度が利用する生活援助を格好の縮小対象とみなしている。

安倍政権は参院選直前に「1億総活躍プラン」をぶち上げ、そのメインの一つに「介護離職ゼロ」を掲げた。親などの介護のため、年間10万人を超す人が仕事を辞めている現状を改めるため、介護の受け皿を50万人分増やすという構想だ。選挙中はこちらばかり前面に出し、サービス縮小の具体的な議論は「野党につけいる材料を与えるだけ」(自民党中堅議員)として参院選後に先送りした。

そして選挙が終わるや、軽度者の生活援助カットの議論を具体化させ始めた。ただし、本当に進めるなら介護に追われる働き盛りの人への打撃となり、介護離職ゼロには逆行する。こうした行き当たりばったりの政策が続く以上、国民の社会保障制度に抱く不安感はいつまでたっても解消されない。

(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、8月5日号)

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