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”貧困女子高生” 炎上の背景に報道側の配慮不足とネットの悪ノリ

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NHKがWEBに載せた「子どもの貧困」記事の画像

私は現在、大学でテレビや新聞の報道について研究し、学生たちに教える立場の人間だが、数年前まではテレビ局で記者やディレクターとして「貧困」問題を主に報道していた。

だから私にとって、今回、NHKで起きた「貧困女子高生」騒動は他人事ではない。

「貧困」をテレビで伝えることの難しさや視聴者の反応の予測不能さは記者時代から感じていた。

貧困層の人たちに対して「つっこみどころ」を探し出して、本当は貧困とは言えないだろう?本当はズルいことしているのだろう?こんな人間は自業自得だ!という容赦ない見方で批判的に見る人々が急増している実感があった。

今回の”貧困女子高生”騒動の状況や背景は自らの経験を元にほぼ説明できると思う。

結論から述べると、責任を負うべきは不用意な報道をしてしまったNHKスタッフと、その不用意さに便乗して女子高生自身やその家族らを追い立てるように「ニュース」として伝える一部のネットメディアである。

●”勇気ある女子高生”がさらされた!

日本では子どもの6人に1人が貧困状態にある。

このことは様々なデータが裏付ける客観的な事実である。

貧困状態にある子どもが、もっとも辛さを感じ、さらに社会的な公平にも反するとされるのが進学における不平等だ。

貧困問題を研究している学者や支援活動をしている人たちもこの点を一番心を痛めている。

日本には数少ない給付型の奨学金を充実させようと政府が検討しているのも、貧困状態の子どもが大人になって再び貧困に陥る「貧困の連鎖」に歯止めをかけようという目的があるからだ。

このテーマが日本社会において克服すべき課題のひとつであることは、与野党問わず大きな異論はないことだと思う。

こうしたなか神奈川県での子どもの貧困対策について、イベントに登場して自らの体験をオープンに語った高校3年生の「うららさん」がNHKの取材に対して「顔出し」で応じて、自宅や高校などでの様子や赤裸々なインタビューなどを撮影させた。

NHKがネットにアップしていたニュース映像を見たが、このニュースは「うららさん」が取材に応じてくれたことで初めて放送することができたと言える。テレビは、「総論」がいくらあっても伝わらない。「子どもの貧困」という全体状況がいかにデータで示されたとしても、個々の登場人物が「各論」として登場して境遇を語ってくれないことには説得力がない。

だからこそ、テレビ報道の現場ではドキュメンタリーでもニュースでも「当事者」を探すことが記者やディレクターにとっては死活問題なのである。

当事者を見つけ、さらに撮影に同意してもらえて、初めてテレビ報道という行為が可能になる。

だから、NHKニュースの放送は「うららさん」という勇気ある女子高生の存在が不可欠だった。

以下、NHKのニュース原稿のなかの「うららさん」についての言及を以下、記す。

経済的な理由で、希望する専門学校への進学を諦めた高校3年生のうららさんは「みんなが当たり前に持っているものが自分の家にはない。みんなが普通にできることが、自分の家ではとても困難。自分は貧困なのかもしれないと思った」と話しました。

そのうえで、うららさんは「貧困の子どもが大人になり、同じような生活を強いられ、この状況が繰り返されることで未来の子どもも貧困になってしまうかもしれない。その子たちには、私のようにお金という現実を目の前にしても諦めさせないでほしいです。現実を変えるために、子どもの貧困は日本にも存在するのだと理解してほしい」と訴えました。

*NHK NEWS WEBより(放送から1週間程度は原稿を読んだり、映像を見たりできる)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160818/k10010641551000.html?utm_int=movie-new_contents_list-items_137&movie=true

取材した記者の倫理として問われるのは、記者が「うららさん」に対して、さらしものになるリスクなどをきちんと説明したうえで納得してもらったたのかという点だ。この後の部分を見る限り、「うららさん」はNHKにすごく協力的だ。年頃の女性なら普通は恥ずかしいと思って嫌がるような貧困ゆえの出来事も包み隠さず話している。

みずからの体験を語った高校3年生のうららさんは、経済的な壁に直面し、進学を諦めざるをえない状況に追い込まれています。

うららさんは、小学5年生のときに両親が離婚し、現在は一緒に暮らす母親が働きながら家計を支えていますが、経済的に厳しい状況です。自宅のアパートには冷房はなく、夏の時期はタオルに包んだ保冷剤を首に巻き、暑さをしのぐ毎日です。自分の家が経済的に厳しいことについて実感させられたのは、中学時代の授業だったといいます。パソコンを持っていなかったうららさんは、授業で先生に「ダブルクリックして」とか「画面をスクロールさせて」などと言われても、ついていくことができませんでした。母親からは千円ほどのキーボードだけを買ってもらい、一生懸命練習したことは忘れることができない出来事でした。

うららさんは「みんなが当たり前にできることが自分だけできない。置いて行かれている。こんな自分が惨めだと思った」と当時を振り返ります。

うららさんは塾にも行けませんでしたが、公立の高校に進学し、現在は、生徒会長を務めています。

進路を選ぶ3年生の夏を迎えたうららさん。絵が好きで、アニメのキャラクターデザインの仕事に就きたいと、専門学校への進学を希望していましたが、入学金の50万円を工面することが難しく、進学は諦めました。

うららさんは「私はいちばん不幸だなと思った。夢を持っているのになんで目指せないんだろう」と話し、経済的な理由で将来の選択肢が狭まっていくのを感じています。学校の担任から、夢を諦めずにさまざまな技術を学ぶことができる公的な職業技術校への進路を提案され、家計を助けるためには就職か技術校に進むのか今も迷い続けています。

うららさんは「夢があって、強い気持ちがあるのに、お金という大きな壁にぶつかってかなえられないという人が減ってほしい。いろいろな人に知ってもらって、助けられていく人が増えてほしい」と話しています。

*NHK NEWS WEBより(放送から1週間程度は原稿を読んだり、映像を見たりできる)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160818/k10010641551000.html?utm_int=movie-new_contents_list-items_137&movie=true

こうした貧困状態にある未成年をテレビで取り上げる際、取材者として気をつけるべきことは取材に協力してくれた当人を傷つけるような事態にならないよう最大限に尽力することだ。

それは取材者としての責任だともいえる。

だが現在のネット時代、悪意を持ってこうした貧困の子どもの画像をネットに貼り付けて「さらしもの」にして快感を覚える不埒な人間もいることは残念だが事実だ。

私自身も数年前の話になるがドキュメンタリー番組で取材した生活保護受給家庭の女子児童の画像をネット上に貼り付けられたことがある。母子家庭だったが、母親も子ども本人も「顔を出して取材に応じること」を納得して撮影させてもらった。それなのに、この女児が映っている番組画像が心ない書き込みとともにネット上にさらされてしまった。

もちろんテレビ局としてはこうした場合に担当部署を通じてそのサイト運営者に抗議してすぐに削除させるのだが、しばらくするとまた別のサイトに同じような女児の画像がさらされる。また担当部署を通じて削除を要請・・・、と悪意を持った相手に対してはまったく「いたちごっこ」が続いた。

経験的に振り返ると、日本の視聴者は貧困な人々への視線が容赦ない。

それが生活保護という公的な支援制度の受給にかかるとなると徹底的なアラ探しが行われる。

生活保護を受けているシングルマザーがテレビのニュースで生活保護費を削減されて生活の苦しさを訴えていたのを見ると、「あの母親はこの前、回転寿司に行って皿を積み上げていた」などという苦情がテレビ局に寄せられる。

生活保護を受けている一人暮らしの高齢男性が「趣味は年に一度の国内旅行。それが保護費の減額でできなくなった」などと発言すると、

「生活保護をもらって旅行などとは贅沢だ」という批判が殺到する。

日本では、貧困層は趣味を持つことや私的な楽しみを持つことに対して一般住民のアレルギーが強い。

生活保護を受けている母子家庭の母親の後ろに映っていたテレビ画面が大型だった。本当はそれを売れば生活保護など受けずに済むはずだ・・・。生活保護関連でそんな電話を受けたことは1度や2度ではない。

だから今回、NHKが「うららさん」の取材にあたって、たとえば部屋を撮影する時に、背景に映り込んだものが視聴者にどう受け止められるかは、取材した取材班がもっとも用心深く考えなければならないことだった。

このニュースを取材したNHKの記者はたぶん「子どもの貧困」について深刻だと考えてそれなりの問題意識を持つ記者なのだと思う。

しかし、実際の撮影や編集にあたっては配慮が欠けていた、という面があったことも残念ながら事実だと考える。

NHKの記者は撮影の際に、リスクをどこまで想定していたのか。

現在のデジタル時代、映像はコピーしても劣化しないので背景に小さく映っている物品も、後から拡大することも可能なのだ。

この放送の後で、「うららさん」が持っていた画材やゲームやDVDなどのソフト、あるいは母親が買っていたというキーボードについて、製品番号までネット上で調べられて、「贅沢」「豪遊」だとさらされた。

カメラマンはどうか。

私自身の経験でも貧困家庭の取材で同行したカメラマンが「これを撮影すると誤解を招くのでは?」と言い出して、あえて撮影を避けた物は数多い。趣味のVHSテープ、写真、映画の半券etc. 今回、問題になった「趣味」に関する物はなるべく撮影から避けるようにした記憶がある。

さらに編集マンは?

カメラマンが撮影してきた映像でも、それをそのまま放送して大丈夫なのか。編集マンはチェックする役割がある。

もしこれはマズいかも、と思ったら、モザイクをかける、ボカシを入れる、というのは編集マンの仕事だろう。

NHKの場合、番組制作を行う「ディレクター」の人たちはドキュメンタリーの制作現場で鍛えられるのか、取材協力者が「さらされる」ようなリスクに対して慎重な人が多い印象を受ける。ドキュメンタリーの撮影だと、取材対象とトコトンつきあい、責任感を持つからだろう。 一方で「記者」はどうしてもいろいろなネタの1つとして取材する傾向が強いせいか、その場しのぎの取材になりがちだ。(反省を込めていえば、民放テレビも同じような傾向がある。)

こう考えていくと、貧困という視聴者が厳しい目で見がちなテーマの撮影・編集が相当に甘かったのでは?と思わずにはいられない。その甘さはせっかく勇気を持って取材に協力してくれた当事者本人への刃となって返ってくる。

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