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奇抜な候補者を生み出すほどに、世の中は政治に無関心-“無頼系独立候補”たちの戦い(4)-

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政見放送で「収入がありません!」と驚きのカミングアウト

撮影:畠山理仁

紹介するのが遅れたが、他の候補も選挙運動をしていないわけではない。望月義彦候補の街頭演説は、選挙戦中盤の京王多摩センター駅での演説と、選挙戦終盤の有楽町駅前、そして選挙戦最終日の王子駅前で見た。

最初は朴訥な街頭演説だと感じていたが、選挙戦後半になればなるほど演説に抑揚が出て、聞く者の心を打つ、力強い演説へと変わっていった。望月氏の肩書は「ソフトウェア会社社長」だ。しかし、政見放送にはとんでもないどんでん返しが待っていた。なんと望月氏は政見放送で、驚きのカミングアウトを行なったのだ。

「最後に、私はこれまで米国と日本で、実家の資産を使って一人で会社を経営してまいりました。現在もまだ収入がございません!」

目が点になった。街頭演説でも、取材での会話でも、そんなことは一言も言っていなかった。筆者は望月氏の政見放送を最後までかたずを飲んで見守った。

「このような私ですが、もし当選させていただければ、東京、日本、世界のために、真剣にがんばってまいります。 どうか私、望月を拾ってください! どうか、望月を育ててください! どうぞ、よろしくお願い申しあげます!」

筆者は選挙戦最終日を前に、改めて望月氏に聞いた。なぜ、「収入がない」と政見放送で告白したのでしょうか? 「やはり、正直なところを有権者のみなさんに知ってもらいたいと思ったからです」

最終日に聞く望月氏の演説、「どうか、望月を拾ってください! どうか、望月を育ててください!」

この言葉には胸を打たれるものがあった。

政策への言及ゼロで「放送禁止用語」を連発した理由

撮影:畠山理仁

2015年4月の統一地方選挙の際、東京の千代田区議会議員選挙に「全裸」のポスターで立候補した人物がいた。大事な部分には候補者の文字がかかっていたが、掲示板の前ではたくさんの人が「珍しい」「面白い」と写真を撮っていた。

この時、筆者はこの候補者の自宅を訪ね、何度もピンポンし、名刺の裏に手紙を書いてポストに入れた。しかし、その時に会うことはできなかった。

あれから苦節1年3か月。今回都知事選の立候補届出に、その人物はやってきた。候補者の名前は後藤輝樹氏だ。

やっと会えた。そして後藤氏は筆者が1年以上前にポストに入れた名刺のことを覚えていた。

今回、後藤氏はNHKの政見放送では、放送禁止用語を連発した。そのため「無音」状態が連続するという異例の政見放送となった。

公職選挙法第150条では「録音し若しくは録画した政見をそのまま放送しなければならない」と編集を禁じている。しかし、今回は150条の2の規定にある「公職の候補者は、その責任を自覚し、いやしくも政見放送としての品位を損なう言動をしてはならない」を踏まえて音声を一部削除された。

立候補届出の日にはすでにNHKの政見放送収録は終わっており、後藤氏は「NHKで放送されないかもしれない」と筆者に語っていた。そして、こうも続けた。

「命がけで出ているんで、政見放送が放送されないなら、表現の自由をかけて戦う、憲法違反で裁判に訴える」

しかし、結局NHKは放送しないのではなく、音声を一部編集して放送した。筆者は後藤氏の幻の政見放送のフルバージョンを聞いたが、音声を削除されたことで逆に面白くなっていた。フルバージョンだと、それほど面白くない。明らかに音声カットされたことで面白くなっていた。これは後藤氏本人も認めていたところだ。

実は政見放送はインパクト大中小の3バージョンある。NHKが大で音声がカットされたが、ラジオの政見放送は一番真面目だった。後藤氏も目立ちたがりとか、そういうことではない。彼の選挙公報や個人演説会での話を聞けばわかるが、ちゃんと「世の中をこうしたい」という希望や政策を持っている。

実際、選挙公報に書かれた政策の数は、どの候補よりも多かった。

「江戸城天守閣復元」「築地市場移転を中止、見直し」「東京五輪中止または超低コストでやります」「横田基地を変換させ横田空域を開放し、首都圏の空の主権を回復します」「排ガス税導入」「超高層ビル群を建設」「日本の漫画アニメ特撮などの純国産テーマパーク」「無修正ポルノを合法化します」「パチンコ店を減らします」「独身税、肥満税、海外旅行税、ペット税、外国文化税などの新税を導入します」「選挙の投票を義務化し、立候補の供託金を一律10万円にします」「東京都心の最低時給を1200円以上にします」

この中のいくつかは、今回都知事選に立候補した他の候補者とも重なるものがある。これだけの政策を「思いつき」で並べるのは至難の業だ。実際、後藤氏は20歳の頃から政治家を目指して政治について考えてきたという。

それでは、なぜ、後藤氏はあえて政策を言わず、「放送禁止用語だらけの政見放送」を敢行したのか。

「もともと自分が立候補したのは、『なんだこいつは』『なんでこんなやつが立候補しているんだ』と驚きを与えることで、政治に関心を持ってほしいと思っているからです。『政治に関心を持たないのはなぜなんだ!』という怒りがある。政治家を目指そうと思ったのは20前後ぐらいで、その時から立候補を目指してお金をためてきた。アルバイトもしたし、株とかもやってコツコツ貯めてきた。お金は使わないでためていく。舛添さんよりもセコい自信がある」

撮影:畠山理仁
今回の選挙戦では、街頭演説はしなかったものの、個人演説会を複数回やっていた。

「有権者を驚かせようと思ったのも、ビラを配っていたら、ゴミとかクズを見るような目で見られて耐えられなかったからです。  自分は『世の中を良くしたい、暮らしを良くしたい、世の中を変えたい、日本を良くしたい』と思っていたのだが、なんでシカトされているんだろう。みんなの代わりに政治家になってがんばろうと思っているのに、なんでみんな他人事なんだ。投票率も低くてやる気を無くす。無関心に腹が立っていた。だから『こんなやつが出るより、おれが出てやろう』と思ってほしかった」

後藤氏のその言葉を聞いて、筆者は反省した。後藤氏は33歳。筆者よりも10歳ほど若い。そうした若い世代が6分間、誰も声を発しないスタジオで、あえて放送禁止用語だけを連発する政見放送をしなければならない。今の日本の政治状況は、ここまで病んでいるのだ。若い世代がこんな奇抜なことをしなければならないと思うほど、世の中は政治に無関心なのだ。

もし、世の中の人たちが普通に政治に関心を持っていれば、後藤氏が放送禁止用語を叫び続けるような政見放送をする必要はなかっただろう。スマイルダンスを10年近く続けることもなかっただろう。

政策があるのに誰も振り向かない。投票理由は「政策」と言っているのに、実は誰も政策をしっかり見ていない。そんな現状に危機感と苛立ちを覚えたからこそ、無頼系独立候補たちは思い切った行動に出ているのだ。

普通にしていたら「主要3候補」しか注目されない世の中を作ってきたことを、筆者は社会を構成する一員として深く反省している。 次の選挙からはぜひ、無頼系候補者を最初から切り捨てることなく、彼、彼女らの主張にも耳を傾けてほしい。

誰に投票するかは、自分が決める。誰にも冒されることのない権利だ。だからこそ、投票前に知る情報は、多ければ多いほうがいい。

そしてできれば、我々立候補できない有権者に代わって多様な選択肢を提供してくれる候補者たちには一定の敬意を払ってほしいと心から願っている。

【東京都知事選開票結果】

順位    得票数  届出 名  前     党派
01 2912628 (11)小池百合子(64) 無新
02 1793453 (05)増田 寛也(64) 無新
03 1346103 (04)鳥越俊太郎(76) 無新
04  179631 (12)上杉  隆(48) 無新
05  114171 (03)桜井  誠(44) 無新
06   51056 (06)マック赤坂(67) 無新
07   28809 (13)七海ひろこ(32) 諸新
08   27241 (16)立花 孝志(48) 諸新
09   16664 (01)高橋 尚吾(32) 無新
10   16584 (14)中川 暢三(60) 無新
11   15986 (07)山口 敏夫(75) 諸新
12    8056 (10)岸本 雅吉(63) 無新
13    7031 (09)後藤 輝樹(33) 無新
14    6759 (02)谷山雄二朗(43) 無新
15    4605 (20)武井 直子(51) 無新
16    4010 (17)宮崎 正弘(61) 無新
17    3332 (19)望月 義彦(51) 無新
18    3116 (08)山中 雅明(52) 諸新
19    3105 (18)今尾 貞夫(76) 無新
20    2695 (21)内藤 久遠(59) 無新
21    1326 (15)関口 安弘(64) 無新

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