- 2016年08月18日 10:12
クリントン陣営の地上戦戦略、サンダース支持者から協力得られず クリントン陣営のトレーニング(1) - 海野素央
現地レポートの1回目は、「クリントン陣営のトレーニング」です。
現在、研究の一環として激戦州バージニア州北部フェアファックス市にあるクリントン陣営に入り、戸別訪問、電話による支持要請及び有権者登録を行っています。これらの活動を実施する前に、クリントン陣営ではボランティアの運動員を対象にトレーニングをしています。そこで、本稿では、クリントン陣営の戸別訪問のトレーニングを紹介します。
画像を見るクリントン支持のボランティアの運動員(右が筆者@バージニア州フェアファックス)
激戦州バージニア州
首都ワシントンに隣接する南部バージニア州は、人口が約833万人(2014年)で、その内8.8%がヒスパニック系です。民主党全国党大会で指名を獲得した前国務長官のヒラリー・クリントン候補は、激戦州バージニア州選出のティム・ケイン上院議員を副大統領候補に起用し、同州の獲得に強い意欲を示しています。
08年及び12年米大統領選挙においてバージニア州では、北部、州都のリッチモンド市、南東バージニアビーチ市及びハンプトン市を抑えれば、たとえ他の地域を取られても勝利できると言われていました。08年オバマ候補(当時)は、上の地域に焦点を当てて、44年振りに共和党から同州を奪還することに成功しました。12年の再選の選挙では、オバマ大統領は、特に人口が多い北部フェアファックス郡に力を注ぎました。ちなみに、フェアファックス郡の人口は、約113万人(2013年)まで増加しています。
投票日が近づくと、オバマ大統領はフェアファックス郡にあるジョージ・メイソン大学を2回訪問し、若者に投票を呼びかけたのです。結局、同大統領はミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事を3.9ポイント差で破りました。本選に入りクリントン陣営はバージニア州フェアファックスに選対を開き、12年のオバマ陣営と同様、同州北部で票を稼ごうとしています。
クリントン陣営の5段階評価
クリントン陣営は、支持者の家にボランティアの運動員を集めて、週末にトレーニングを行っています。トレーニングの時間帯と回数は、土曜日が午前9時、12時並びに午後3時の3回、日曜日が12時及び午後3時の2回です。1回のトレーニングは質疑応答を含めて30分弱です。講師は、有給のスタッフないしボランティアのリーダーです。
ボランティアの運動員には、有権者名簿、コミットメントカード(約束カード)及び有権者登録の用紙が用意されています。以下では、有権者名簿とコミットメントカードについて述べます。
画像を見るコミットメントカード(表)
有権者名簿には、約40名の標的となっている有権者の名前、住所、性別及び年齢が掲載されており、彼らを以下の5段階評価で分類するように指示が出ています。
画像を見るコミットメントカード(裏)
①クリントンを強く支持している
②クリントンに傾いている
③決めかねている
④トランプに傾いている
⑤トランプを強く支持している
2012年米大統領選挙では、オバマ陣営は、①オバマを強く支持している、②オバマに傾いている、③決めかねている、④ロムニーに傾いている、⑤ロムニーを強く支持している、⑥第3党を支持している、⑦投票に出向かない、の7段階評価を使用していました。今後、リバタリアンや緑の党に対する支持率が上がると、クリントン陣営も7段階評価を導入する必要が出てきます。
コミットメントカード
英語のコミットメントには、「約束」「同意」及び「関与」という意味があります。12年米大統領選挙で、オバマ陣営が投票率を高めるために導入したのがコミットメントカードです。16年民主党候補指名争いにおいて、クリントン陣営は中西部アイオワ州並びに東部ニューハンプシャー州でコミットメントカードを活用していました。本選においても、南部バージニア州で使用しています。本選のコミットメントカードには、民主党全国大会でクリントン候補が呼びかけた「一緒になればもっと強くなれる」の「一緒に」が印刷されています。
戸別訪問のトレーニングで、有給のスタッフ及びボランティアのリーダーから署名入りのコミットメントカードを回収するように指示が出ています。まず「クリントンを強く支持している」と回答した有権者には、コミットメントカードに名前、住所、携帯番号及びメールアドレスを記入してもらいます。次に、ボランティアを希望するのか、メールを通じて定期的に情報を得たいのか、フェイスブックで近隣のクリントン支持者と交流を深めたいのか、質問をします。
その上で、「私はヒラリーに投票することに同意します」と印刷された欄に署名を求めます。署名をした有権者には、有給のスタッフ及びボランティアのリーダーの連絡先が入った半券を渡します。残りの署名した部分は、支持者の家ないし選対に持ち帰ります。通常ですと、投票日の1週間前に署名の入った部分を有権者に郵送し、「コミット」させ、投票率を高めるという仕組みになっています。
署名をしても法的拘束力はありませんが、心理的効果が高いため、12年米大統領選挙でオバマ陣営は署名入りのコミットメントカードの回収にエネルギーを注いでいました。同陣営は、9月下旬からコミットメントカードを導入しましたが、クリントン陣営は8月上旬の段階で、すでに使用しています。そこに、クリントン陣営の地上戦にかける意気込みを感じざるを得ません。
残る課題
さて、戸別訪問、電話による支持要請及び有権者登録のトレーニングには、サンダース陣営の若者は1人も参加していませんでした。民主党全国党大会で指名を獲得したクリントン候補は、彼らに協力を求めましたが、大会前と変わらずトレーニングを受けたボランティアの運動員はすべて中高年でした。民主党全国党大会が終了して2週間が経過しましたが、クリントン陣営とサンダース陣営の融合は、戸別訪問を見る限り進んでいるとは言えません。
筆者の有権者名簿には、ヒスパニック系、若者に加えて不動産王ドナルド・トランプ候補に強い不満を持っている共和党支持者が含まれていました。12年米大統領選挙でオバマ大統領は、出口調査で若者(18-29歳)の60%を獲得しました。クリントン候補は、「異文化連合軍」における若者のマイナスを、反トランプの共和党支持者を獲得することによって補おうとしているのです。
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