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選挙は人を育てる。候補者だけでなく、有権者も-“無頼系独立候補”たちの戦い(3)-

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“無頼系独立候補”たちの戦い(1)-
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「初めての出馬」でも一定の支持を得る候補者たち

今回の都知事選が初めての選挙だという候補者もいた。高橋尚吾氏、桜井誠氏、鳥越俊太郎氏、山中雅明氏、岸本雅吉氏、上杉隆氏、宮崎正弘氏、今尾貞夫氏、望月義彦氏だ。

街頭演説する桜井氏(撮影:畠山理仁)

現在では在特会から離れているが、これまで十数年にわたって街頭での演説活動を続けてきた桜井誠氏は、内容への賛否はともかく演説慣れしていた。とくに聴衆の「そうだ!」というかけ声を引き出すのがうまかった。聴衆は桜井氏の主張に共鳴して集まった人も多く、演説終了後には桜井氏の著書にサインを求める人も多く見られた。

著者にサインする桜井氏(撮影:畠山理仁)

桜井候補が最終日に秋葉原で開いた「グランドフィナーレ」とする街頭演説会場には旭日旗や日の丸がはためき、独特の雰囲気が漂った。演説内容は在日コリアンに対して「日本から出て行け」などと訴える排外的な内容だ。

選挙戦前から「選挙運動の形をしたヘイトスピーチを行なうのではないか」との指摘もなされていたが、桜井氏は「むしろ反日ヘイトスピーチ禁止条例を制定すべきだ」と一歩も譲らなかった。

さらには選挙戦中に自身に向けられた「殺害予告」についても言及している。筆者が街頭演説を終えた桜井氏にその件を聞くと、

「殺害予告は来てますよ! こっちはいつでも来い、という覚悟でやっている。でも、奴らは来ないんだ!」と憤っていた。

演説会場に集まった聴衆は、街頭演説の動画をインターネット中継したり、撮影した動画をネット上に配信。テレビや新聞などの大手メディアがその選挙戦をほとんど伝えない中、21人中5番目となる11万4171票を獲得した。これはネット上での言論が影響力を持つ時代になってきたことの現れだろう。

撮影:畠山理仁

また、今回の都知事選では、初めての選挙ながら、岸本雅吉氏、今尾貞夫氏、山中雅明氏の3氏のポスターを目にした有権者も多かったのではないだろうか。筆者は選挙を取材して18年近くなるが、これはかなり珍しい。ほとんどの新人候補の場合は、掲示板にポスターを貼ることすらままならない。そのため「すべての候補者のポスターが揃った掲示板」というのは極めて珍しい。筆者は選挙のたびに情報提供を呼びかけているが、なかなか出現しない。

しかし、今回はそんな掲示板が奇跡的に出現した。新橋駅前SL広場前の掲示板だ。過去最高の21名の候補者が立候補したにも関わらず、全候補のポスターが揃ったのだ。

撮影:畠山理仁

これは「あと1枚揃えば全候補揃う」と気づいた有権者が、1枚だけ剥がれていたポスターの候補者(宮崎正弘氏)が演説している渋谷ハチ公前広場に駆けつけて宮崎氏のポスターを受け取り、SL広場に戻って貼るという力技をやってのけたことで実現した。

筆者はこうした無償の協力者たちを「民主主義応援団」と呼んでいる。候補者だけでなく、こうしたボランティアを買って出る人たちにより民主主義は支えられている。これは選挙中の動きがつかみにくかった、岸本、今尾、山中の3氏がポスター貼りを業者に依頼していたことも大きいだろう。

岸本氏もその選挙運動はほとんどメディアで報じられなかったが、「健康都市、東京」を訴える街頭演説をしていた。ただし、回数は少ない。演説場所は岸本氏が院長を務める銀座の歯科・矯正クリニックの近辺が中心で、時間も1か所につき約6分程度と短い。そのため街頭演説の様子をキャッチするのが非常に難しい候補の一人だった。

街頭演説する岸本候補(撮影:畠山理仁)

ちょうど都知事選の最中に日本でも「ポケモンGO」が配信されはじめたが、今回の都知事選では、もっと「レア」な候補者が何人もいた。選挙に出るのも大変だが、候補者に会うのも大変。それでも岸本氏は21人中12番目の8056票を獲得している。この得票数は業者に一切頼まず、モノクロコピーしたポスターを自分一人で貼って行った関口安弘氏よりも多い。やはり、掲示板にくまなくポスターを貼れる資金力があるかないかも選挙では大きなポイントだ。

実際、有権者からは、「ポスターも貼っていない人は本気で立候補しているのか」という声もよく耳にする。

筆者は声を大にして言いたい。選挙期間中の17日間で、約1万4千か所もの掲示板にすべてポスターを貼れる候補者はほんの一握りしかいない。ふだんは「政治には金がかかりすぎている」と批判する人が多いのに、選挙ポスター掲示に膨大なお金がかかることを問題視する人はあまりにも少ない。

ポスター貼りの費用は200万!?

今回、唯一、街頭演説を一度も行なわなかった今尾貞夫候補もこう言っていた。

「ポスターは4000枚刷って、都内8区の掲示は金で業者に頼んだ。でも、業者に頼むと金かかるんだ。高いとこだと1枚500円。高いんだよ。それを4000枚だから、200万円だよ!」

医師免許を見せる今尾氏(撮影:畠山理仁)

今尾貞夫氏は今回、「子育て・教育」「老後・介護」を中心に政策を訴えていた。立候補のきっかけは、川崎であった中学生の殺人事件、そして広島県府中市で中学生が自殺した事件だ。

「この事件で私は学校に失望した。とにかく、死んでいった子どもたちは『チクショー!』という悔しい気持ちで死んでいったと思うんだ。その子たちの気持ちを考えると、もう、悔しくて悔しくて。自分の家族には反対されたけど、どうしてもこのことを訴えたくて立候補したんだ」(今尾氏)

ちなみに今尾氏が街頭演説をしなかった理由の一つは、現職の医師であるからだ。舛添前知事の辞任で急に選挙が決まったため、医師としての仕事の予定をすでに入れていた。そのため街頭演説に時間を割けなかったのだ。

そんな今尾氏だが、出馬会見時にはちょっとした騒動が起きた。会見の席上、新聞記者からこんな質問が飛んだのだ。

「今尾さんは医師ということですが、厚生労働省のデータベースにお名前がありません。なにかお医者さんであることを証明する手立てはありますか?」

この質問を受け、会見場にいた他の記者たちは一様に驚いた。しかし、一番驚いていたのは今尾氏本人だった。

今尾氏は出馬表明会見翌日に再び記者クラブを訪れ、国家試験の免状の原本を記者クラブの幹事社に提示した。これにより医師であることは証明された。

しかし、話はここで終わらない。今度は「本当に東大を卒業したのでしょうか?」と記者に問われたのだ。

「いやぁ、まいったな(笑)」。今尾氏はそう苦笑しながらも、翌日また記者クラブを訪れた。今度は東大の卒業証書の原本を持参していた。

記者たちの名誉のためにも言っておく。彼らは取材をしていないわけではない。立候補の可能性がある人たちには必ず接触し、「調査票」と呼ばれる用紙への記入も依頼している。

調査票には、名前、職業、生年月日、本籍地、最終学歴、職歴、主な政策、親族に政治家がいるかいないか、支持政党、推薦政党などの項目が所狭しと並ぶ。ただし、その内容が報じられるかどうかは各社の判断による。

ちなみに「調査票」の様式は各社で微妙に異なるため、初めて選挙に立候補する無頼系独立候補たちはこの調査票の記入にかなりの時間を取られる。

その上、この調査票の他にも候補者たちは各団体からのアンケートにも答えなければならない。多くの無頼系独立候補たちが選挙戦前半に街頭演説をすぐに始められないのは、組織があればスタッフが記入するような事務処理に候補者自身が追われてしまうからだ。しかも、無頼系独立候補の場合、苦労して記入した情報がメディアで詳細に報じられることはほとんどない。

結果として、今尾氏は21人中19番目となる3105票を獲得した。このうちの何票かには、ポスターが貢献していると考えられる。

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