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尖閣に押し寄せる大量の中国船、東シナ海と南シナ海問題が連動する理由 - 小原凡司  

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2016年8月6日午前8時過ぎ、尖閣諸島の接続水域に中国海警局の巡視船6隻が侵入し、周辺海域に中国漁船約230隻が出現した。同日午後には、海警局の巡視船1隻が加わって7隻が接続水域に侵入し、8日に至って、海警局の巡視船及び他の公船の隻数は15隻、漁船の数は400隻にも上った。

 一体、これが、単なる漁業活動だと言えるだろうか? 日本政府の再三の抗議にも、中国は公船の活動を低下させるどころか、エスカレートさせている。後述するが、日本と中国は、互いに互いが自分をけん制していると考えているため、状況がより複雑になってしまっているのだ。

 今回の中国公船及び漁船の活動は、「軍事力ではなく法執行機関の船舶等を用いて尖閣諸島周辺海域における優勢を高め、日本の実効支配を崩す」という中国の戦略に沿ったものだ。しかし、これだけあからさまに日本を挑発するには、理由がなくてはならない。中国指導部は、「日本のことを不愉快に思っている」ということを示したのである。

 中国が不愉快に思うのは、日本が南シナ海問題への関与を強めていると考えるからだ。安倍政権の内閣改造も影響している可能性がある。日本が南シナ海問題から手を引くよう、東シナ海で緊張を高め、日本をけん制しているのだと言える。

「南シナ海問題において日本は無関係」という中国の考え

 しかし、これは日本の見方である。中国は、「日本が中国をけん制している」と捉える。中国では、「中国が東シナ海における行動を鎮静化するよう、南シナ海における中国の行動を日本が繰り返し批判し、国際社会における中国の立場を悪化させることで、中国をけん制している」と考えられているのだ。

 そのため、中国は、「日本が南シナ海問題を利用して中国をけん制しても、中国は東シナ海における行動を抑えることなどない」ということを示そうとしている。尖閣諸島周辺に、中国海警局を始めとする法執行機関の巡視船と漁船を大量に送り込み、中国は尖閣諸島を実効支配でき、またその意思があることを示そうというのだ。

中国は、「日本は南シナ海問題に全く無関係だ」と考えているということでもある。中国が南シナ海を領海化しようとするのは、米国が中国の発展を妨害するのを阻止するためである。中国は、米国の軍事攻撃を真剣に恐れている。

 南シナ海全体を中国のコントロール下におこうとすることで、周辺の東南アジア諸国と軋轢を生じていることは、中国も理解している。しかし、それは、中国にとってみれば、中国と当事者である東南アジアの国との間の領土紛争である。しかも、中国を防衛するために東南アジア諸国が「少々の」犠牲を払うことは「仕方がない」ことなのだ。

 そして、この中国のストーリーの中に、日本は出てこない。「無関係であるにもかかわらず、日本は米国の尻馬に乗って中国を叩いている」と考えるから、余計に日本に腹を立てるのだ。さらに、中国は、こうした日本の行動には、南シナ海問題以外に目的があるからだと考える。中国の認識では、その日本の目的が、尖閣諸島を巡る領有権争いにおいて、日本が有利に立つことなのである。

 つまり日本と中国は、双方とも、「相手が自分をけん制している」と考えている。そして、中国は、中国に対するけん制など効かないということを実力で証明しようとしているのだ。日本からすれば、それは中国の誤解である。日本は、南シナ海における状況に無関係な訳ではない。もちろん日本は、中国をけん制するために、南シナ海問題において中国に嫌がらせをしている訳でもない。単に、「国際的な問題を解決するのに軍事力等の暴力的手段を用いない」という最低限のルールを守って欲しいだけだ。

中国の「被害者意識」と「権利意識」

 日本と中国では、南シナ海問題の認識の仕方がまるで異なる。日本にとって、南シナ海は重要な民間海上輸送路である。「誰にでも開かれた海」という原則があって、初めて日本のシーレーンは安全に航行できる輸送路になる。日本は、「中国が軍事力や法執行機関という実力を行使する組織を用いてこの原則を変えようとしている」と受け止めている。そして、それは、「暴力的手段を用いれば国際的なルールを変えられる」という国際社会の出現につながるものだと考えるからこそ、中国がとる手段に反対するのである。

 一方の中国にすれば、南シナ海問題は、中国を防衛するために必要な安全保障上の問題に過ぎない。国際秩序に対する挑戦であるということを、中国は認めようとしない。そもそも、中国にしてみれば、現在の国際秩序は欧米諸国が勝手に決めたものに過ぎない。それを中国が守る必要などない、というわけだ。中国の認識によれば、国際秩序や国際社会のルールは、大国が決めるものなのだ。中国がプレイすべきは、大国間のゲームだと認識しているのである。「認識している」というより、「信じている」といった方が正しいかも知れない。

これまで、自分たちの利益のためなら軍事力でも用いてきた欧米諸国、特に米国が、ひとたび自分たちの権益が満足するレベルに達したら、自分たちの権益を守れるように作ったのが、現在の国際秩序であり国際的なルールだと考えるのだ。そのストーリー中では、中国は「欧米諸国に不当に抑圧される被害者」である。「戦勝国であり大国である中国が、本来、国際秩序を形成すべきであるにもかかわらず」という前提が付くことによって、被害者意識はさらに高まり、鬱憤が溜まることになる。

 中国は、このような強い被害者意識と権利意識を背景に、「強くならなければ、いつまでも不当に抑圧される」と考える。実際に、中国の研究者たちは、「中国が軍備を増強して強くなったからこそ、米国が中国に対する態度を変えた。米国は、中国と衝突を避けなければならないと考えるようになったので、事態をエスカレートさせないように慎重に対応するようになった」と主張する。中国の軍事力増強が地域を安定させ、中国の安全を保障していると言うのである。

尖閣問題において「対等」を狙う中国

 この考え方は、東シナ海にも適用されている。中国は、「これまで、尖閣諸島周辺海域で日本の海上保安庁が圧倒的に優勢を保っていたために、尖閣諸島領有に関する議論は常に日本有利に進められてきた」としている。そして、中国が海警局を強化し、大量の漁船による漁業活動を展開するようになって、日中の勢力が対等になった今、尖閣諸島の領有について日中が対等な立場で議論できるようになったと言うのだ。

 問題は、中国が言う「対等」とは何かである。現状が不公平だと言う認識では、現状を変えることができて初めて公平だということになる。「対等」であるという意味は、中国が勝てる状態のことを言っているに等しい。

 一方で、中国の研究者等は、日本の対応を非常に気にかけている。会って話をすると、必ず、「日本はどう対応するのか?」と質問してくる。しかも、表現を変えつつ、何度も質問されるのだ。例え、挑発的な行動に出たとしても、中国の本音は、日本と軍事衝突したくないのである。日本と軍事衝突すれば、米中戦争にエスカレートする可能性がある。そして、米中戦争になれば、中国は敗北する。

 中国が狙うのは、日本が海上警備行動を発令しない範囲において、尖閣諸島の実効支配を奪うことである。日本が手を出しにくいように、少しずつエスカレートさせてきたのだ。しかし、今回の事案で、中国側が日本の出方に神経質になっているのは、自分たちでも「エスカレーションの度合いが強かった」と認識しているからに他ならない。

背景にあるのは権力闘争か

 それにもかかわらず、なぜ中国は、大量の漁船と公船を送り込むという行動に出たのだろうか? そこには、中国の内政、特に権力闘争が関係している可能性がある。習近平主席とその周辺、或いは習主席の「やり方」に反対するグループのいずれかにとって、日本を怒らせ騒がせることが、有利に働くということだ。

 そのどちらが仕掛けているのか断定することはできないが、状況からは、習主席の「やり方」に反対するグループが、習主席に外交上の失点を上積みするために、日本に危機感を抱かせ、国際社会に働きかけさせようと企図したように見える。今、日本が国際社会に「中国の悪行」を吹聴して中国が困るのは、G20の直前だからだ。

 2016年のG20サミットは、中国の杭州で、9月4日及び5日の2日間の日程で開催される。議長国である中国は、この場で他の参加国の首脳から非難の集中砲火を浴びるようなことになれば、完全に面子を失う。外交の大失態どころか、習主席の権威さえ脅かしかねない。

 中国の研究者たちによれば、中国国内で、王毅外交部長(日本で言う外務大臣)がG20前に訪日するという噂が囁かれているという。中国は、自分で日本を怒らせるようなことをしておきながら、G20の場で中国を非難しないように日本に働きかける、という訳だ。同じ人間が指示しているとしたら、おかしな話だ。

 さらに今回の事案が中国国内の権力闘争に関係していると考えさせるのは、中国が大量の漁船と公船を尖閣周辺海域に送り込んできたのが、中国で北戴河会議が開かれている時期だからである。北戴河会議とは、毎年夏に共産党の高級幹部が北戴河という避暑地に集まり、5年に1度の党大会に向けて、党の方針や人事等の調整を行う会議である。

 現地では、自らの保身・出世のために、家族ぐるみで様々な工作が行われると言う。2000年代半ばころから「北戴河会議はなくなった」とも言われるが、自分だけが行かなかった場合のリスクを考えれば、恐ろしくて「行かない」という選択をすることは難しい。結局のところ、現在でも、夏の北戴河には、党の指導者たちが集まっている。

 今年の北戴河は熱いだろう。習主席とその「やり方」に反対するグループの闘争がし烈になっているだろうからだ。大量の漁船や公船が尖閣諸島周辺海域にやって来たのは、まさにこの時期なのである。本来であれば、中国の指導者たちは、権力闘争以外の問題にかまっている余裕などないはずである。その時期に起こった事案は、権力闘争に利用するために起こされた可能性があるのだ。

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