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移民100万人受け入れ後のドイツで教えられた中小企業の果たすべき役割

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■イラク系難民の若者に期待する工場経営者の採用戦略

こうしてやっと空港の外に出た私は、辛抱強く待っていてくれた取引先の機械メーカー社長と出会うことができました。

数か月にわたりメールで何度もやり取りしていましたが、彼と会うのは今回が初めて。私と同年配の50代の社長です。普段のメールのやり取りから土日、早朝深夜関係なく仕事をしている様子がわかっていましたのでそれを聞いたところ「うちみたいな小規模の工場では専任の営業マンを置くわけにもいかないし、社長が全てやらなければいけないんだよ。今年は忙しくて夏休みも取れないので、今日は半日だけ夏休みをとったつもりでアテンドするから、どこでも行きたいところを行ってね」と笑顔で言ってくれました。そしてその言葉通り、工場見学から機械の仕様詳細を詰めた後、ヴッパータールというドイツ有数の繊維工業都市の街や、デュッセルドルフの街を数時間にわたりアテンドしてくれました。

この工場は前述の工場と違い、家族を含めて従業員が10人。30坪程度の工場の中にぎっしりと工作機械が詰め込まれ、2F以上は社長家族の自宅兼事務所と、いわゆる「町の鉄工場」です。現社長は3代目で、73歳になる前社長は今でも朝から夜遅くまで工場で働き、この会社の目玉である機械の心臓部を作る根っからの職人。社長の弟は設計がメインで製図から材料選定までの技術面を担当し、社長の妻が別の仕事をしながら経理を担当しています。

今回会った社長はきさくな人柄と英語・フランス語の語学力を活かし、ヨーロッパのみならずアジア、アフリカ、アメリカ、南米と世界各地の顧客を相手に営業し、日本と同じく製造業の空洞化で同業他社が次々と倒産していく中、ドイツで生き残ってきました。この会社だけにしかできないオンリーワン技術ももっており、取引先の台湾材料メーカーから「この工場の機械だったら信用できる」と紹介してもらったお墨付きです。

国は違えど小企業の社長の悩みはどこでも同じ。予算をかけないで宣伝しようとYou Tubeに画像をアップしてもすぐに中国の競合相手にマネされるとか、せっかく受注しても人でが足りなくて納期がかかってしまう、新人を採用したが今日で3日も休んでいる、来週になってもこれが続くようだったら何とかしなくては・・・等々。商談後、こんなよもやま話で盛り上がっていたところ、またもや移民の話になりました。

彼はメルケル首相の移民政策の支持者で、「先進国は中東や北アフリカの戦乱に責任がある。だから僕は移民政策を支持する。日本とは正反対だけどね」と少し皮肉をこめて語ってくれました。その中で彼が話してくれたのが、入社して1年ほどになるイラクからの難民の若者のことです。「彼は真面目で非常に頑張ってやってくれている。将来にとても期待している」と。

同時に私たち日本の小工場と同じく、採用がなかなか難しい現状も教えてくれました。「僕は職業訓練校の担当者にいつも、とにかく成績が一番悪い子を紹介してくれ、と頼んでいるんだ。この工業地帯でうちみたいな小さい工場に就職したいと考える若者はいない。だからどこにも行けない、という若者を採用して時間をかけてゆっくり育てる。それがうちの会社の採用戦略なんだ」と。

■中小企業での安定した仕事こそが国の未来を創る。

私たちが仕事の話をしている最中、会議室の隣にあるシャワー室に勤務を終えた工員たちが一人、また一人と入っていってはコロンの匂いをぷんぷんさせながら「お先に」と社長に声をかけて工場を出ていきました。これからデートの約束でもあるのでしょう。ブレーメンの通りでぼんやりと座っていた若者たちとは目の輝きが違い、どの若者も仕事にも生活にも十分に満足している様子がうかがわれました。

そうして彼らはこの町で恋人を作り、結婚して所帯を構え、子供を産み育てていくのでしょう。社長の営業手腕を信頼し、社長の父や弟から技術を学びながら少しずつ職人としての腕を磨き、前社長のように年老いても「この技術だけは絶対にどこにも負けない」という職人になり、引退する年になってもずっと仕事を続けたいと思うかもしれません。冒頭に紹介したブレーメン近郊の中堅メーカーもそうですが、この会社もまた終身雇用を守っています。「どうしても辞めたいというなら別だけれど、不況だからリストラするなんてことは考えたこともないよ。そんなことをしたら誰も働いてくれる人がいなくなってしまう」と、社長は笑いました。

大企業に比べたら確かに給料は低いかもしれませんが、毎日社員が誇りをもち、安心して働ける仕事の場を提供することこそ、100万人移民のこれからに怯えるドイツに必要であり、この会社のような中小企業にこそそれが可能ではないのかと思いました。

そして、貧困問題や少子高齢化に悩み、これから本格的に外国人移民の検討に入る日本においても、中小企業の経営者への啓蒙活動も含めて考えていくべき問題なのではないかと思います。

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