- 2016年08月10日 16:01
種まく人が不在で共通する新旧の巨人 ビジュアルデータでソニーとアップルの今を読む - 川手恭輔 (コンセプトデザイン・サイエンティスト)
2/2ソニーの今
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ソニーのスマートフォンXperiaの販売台数は、普及価格帯モデルの絞り込みや不採算地域での事業規模を縮小したことによって、昨年同期に比べて57%減少した。310万台という数字は、世界市場で見れば1%にも満たない。
依然として大手キャリア3社による、通信料金との抱き合わせ商法でのスマートフォンの割引販売が続く日本のガラパゴス市場では、iPhoneのシェアが60%を超え、ソニーとシャープの端末が10%程度のシェアで2位の座を争っている。
ソニーは収益構造の改善によって通期での黒字化を目指すとしているが、すでにスマートフォンの所有率が70%を超え、今後、買い替えのサイクルも長くなることが予想される日本市場だけで黒字を維持していくことは難しそうだ。
2月にバルセロナで開催された携帯通信関連の見本市(MWC)でソニーは、スマートフォンと連動してメッセージを読み上げたりするイヤホン、投影した画面でタッチ操作が可能なプロジェクター、360度の半天球カメラ、そして監視やジェスチャー識別用のカメラや家電リモコン用のセンサーなどを搭載したAmazon Echoのような多機能デバイスの4つの製品を参考展示した。
これらはXperiaスマートプロダクトと呼ばれており、Xperiaブランドのグローバルな認知を担うための戦略的な商品だと思われたが、その後、具体的な進捗は公表されていない。個々の製品を他社の類似製品と差別化し、その商品価値を明確にすることも必要だろうが、Xperiaスマートフォンのグローバル戦略との連動がなければ、マーケティングコストをかける事業的な意義はないだろう。
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ソニーのデジタルカメラの販売台数は、170万台から80万台に半減している。CIPAの統計によると、メーカー全体からの出荷数量も780万台から480万台と41%落ち込んでいるが、ソニーは熊本大地震の影響によって部品調達ができなかったことが、市場を上回る落ち込みの原因となったと説明している。
レンズ交換のできないコンパクトカメラの市場は2008年の1.1億台をピークに急激に落ち込み、昨年は2234万台と1/5になってしまったが、今年に入っても市場縮小のスピードが減速する気配はない。一方で、一眼レフやミラーレスなどのレンズ交換が可能なデジタルカメラの市場は、どうやら昨年の1300万台で底が見えたようだ。
コンパクトカメラにしてもレンズ交換式のデジタルカメラにしても、今後の市場の(再)成長は期待できない。ソニーは製品のラインナップ(製品ミックス)を見直し、レンズ交換式などの高付加価値・高価格帯のデジタルカメラにシフトしつつあるが、そこではキヤノンとニコンの一眼レフとの、1000万台程度のパイの熾烈な奪い合いになる。
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2013年に発売されたPS4は順調に売り上げを伸ばし続けている。今年5月には、全世界累計販売台数が4000万台を突破したとの発表があった。PS4向けのゲームソフトの累計販売も2億7090万本を超えたという。4000万台の内の国内販売の割合は10%に満たないようだが、海外では本体の稼働台数が増えてゲームソフト開発会社にとっての魅力が増し、新しいゲームソフトの開発が進み、それによってユーザーにとっての本体の価値が拡大するという好循環が続いている。
ソニーは、3月にサンフランシスコで開催されたゲームソフト開発者向けのカンファレンスで、PS4用のVR(仮想現実)ゲームのためのヘッドセットPlayStation VR(以下PS VR)を10月に発売すると発表した。
すでにPCゲーム向けのハイエンドのVRヘッドセットは、HTCのVIVEと、2014年にフェースブックに買収されて話題になったオキュラスのOculus Riftが販売されている。どちらも4月頃から本格的な販売が始まったが、4~6月でVIVEが10万台、Oculus Riftが3万6000台販売されたとの推定がある。PCゲームソフトのダウンロード販売サイトのSteamで公表されているVRゲームソフトの販売数は、7月末の時点でVIVEに対応しているゲームソフト数が418本で、Oculus Riftに対応しているゲームソフト数は192本となっており、RoadtoVRがその販売数から2つのヘッドセットの販売台数を推定した。
これらのVRゲームソフトの開発会社は、4000万のユーザーベースを持つPS4への対応を始めていることだろう。さらにPS VRの発売に合わせて、4Kに対応したPS4の強化版(開発名 NEO)を発売することがリークされており、G&NSはソニーのコンスーマ・エレクトロニクス分野で唯一活気を感じる事業だ。
次に向けた動き
アップルは8月3日にAndroid OS向けのApple Musicアプリを正式にリリースした。Apple Musicは6月時点で1500万人の有料会員を獲得している。Android OS上でさらに有料会員を増やして「サービス」の売り上げを拡大する狙いもあるだろうが、AndroidスマートフォンのユーザーがApple IDを取得し、Apple Musicを体験することによって、iPhoneに乗り換えるきっかけを作るということも狙っているのだろう。
9月には新しいiPhoneの発売が予想されている。1997年にスティーブ・ジョブズが復帰した頃のアップルの売り上げは70億ドル強(純利益はマイナスの10億ドル弱)だった。これまでジョブズが撒(蒔)き散らした種のうち、芽を出して大きく育った木に水や肥料を与えて、多くのリンゴを収穫してきたアップルは、2015年度には2340億ドルの売り上げを記録した。iPhoneという大木の寿命はいつまでも続くのだろうか。
ソニーは6月29日に開催した経営方針説明会で「未来への布石」として、シード・アクセラレーション・プログラム(SAP)やフューチャー・ラボ・プログラムなどを実施しており、ロボティクス技術の家庭での用途を検討中で、事業化に向けた組織を4月に立ち上げたと説明した。実はソニーでは、2012年に新規事業創出のためのR&Dビジネスデザイン&イノベーションラボラトリという部署が設けられ、さらに、新サービスの開発につなげるためのクラウド専属の部署も新設されている。
ソニーやアップルのように、それまでになかった新しい価値を提供する製品を発明しその事業化に大きな成功を収めると、その事業を盤石なものにし、さらに規模を拡大するためのサプライチェーンの構築と最適化に力を注がなければならない。それには、いくつものアイデアを考えついて、そのなかから人々にとって価値のあるものを選び出し、それを形にして世の中に出すという仕事とはまったく異なったスキルが必要になる。その事業の成長が続けば続くほど、アイデアを形にできる人材は疎んじられ去って行く。新規事業創出を掲げた組織をつくることは簡単だが、その人材を集めることは容易なことではないだろう。
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