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焦点:米利上げに壁、市場金利上昇で引締め効果 景気下降の兆し

[東京 9日 ロイター] - 強めの7月米雇用統計の発表以降、市場では年内米利上げを意識する声が再び高まってきているが、米連邦準備理事会(FRB)の前には利上げに立ちふさがる壁が見えてきた。ドルの指標金利が急上昇し、すでに引き締めと同じ効果が表面化しつつあり、最近のドル高も相まって、FRBの判断に大きく影響を与えそうだ。

米景気サイクルが下降トレンドに入ったとの指摘もあり、ゼロ金利制約からの脱出を試みるFRBに逆風となっている。

<ドルLIBOR、7年ぶり高水準>

直近の市場で参加者の注目を集めているのが、世界で300兆ドル以上の金融商品のベンチマークである3カ月物ドルLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)<USD3MFSR=>の急伸ぶりだ。

8日には0.80650%と2009年5月15日以来、7年3カ月ぶりの高水準に達した。上昇のピッチも速く、約1カ月間で計15.3ベーシスポイント(bp)とFRBが初回利上げを実施した昨年12月以来で最大の上げ幅となった。

LIBOR上昇の一因は、残高2.6兆ドルのマネー・マーケット・ファンド(MMF)に対する規制強化にあると複数の市場関係者は指摘する。施行日が迫る新規制では、元本保証が廃止され、基準価格への変動制導入と解約手数料の賦課・解約制限が設けられる。

このため規制対象となる「プライムMMF」から規制対象外の「政府債MMF」(主に米国債で運用)へと資金シフト(過去1年間で2000億ドル)が起きている。

プライムMMFは、日米欧などの金融機関が発行するCPやCDを運用対象としてきたが、残高減少により金融機関はこれまでのようにMMF経由で潤沢なドル資金を調達できず、結果的に、LIBORなどインターバンク市場での資金調達に頼らざるを得なくなっている。

<ドル・クランチ現象>

また、欧州金融機関の財務の健全性が懸念される中で、資金調達のしやすさの目安となる指標として意識されているLIBOR―OISスプレッドにも変化が表れている。

ある外資系銀行のマネー担当者は「LIBOR―OISは、米国の初回利上げを挟んで10bp程度拡大したあと安定していたが、7月以降さらに15bp以上拡大して需給がタイト化している」と指摘。

さらに「米国が利上げすればドル・クランチ(流動性不足)が一気に悪化するだろう」との見通しを示した。主要4通貨のLIBOR―OISでは、ユーロは年初から、円は4月から低下基調。英ポンドは6月の英EU離脱決定まで急伸したあと低下した。

他方、ドルは昨年12月から上昇基調で、目下0.386%と欧州債務危機下の2012年2月以来の高水準で推移している。

複数の市場関係者は、金融機関同士でカウンターパーティリスクが強く意識されている可能性があるほか、何らかの理由でドル資金の抱え込みが発生している可能性があるとの見方を示している。

<ドル高効果も>

こうした市場における金融引き締め的な動きとして、ドル高の効果も無視できない。

FRBのパウエル理事は6月28日、金融の状況はドル高などを通じて2014年以降引き締まっており、複数回の利上げに相当するとの認識を示した。

同理事は「経済に重要なのは金融全般の状況だ。ドルは上昇しており、信用スプレッドは拡大している。これは緩やかな引き締めに相当する」と述べ、これ以上の利上げは不要であることを示唆した。

主要6通貨に対するICEフューチャーズのドル指数<.DXY>は、9日に96.50と、2014年5月の安値(78.906)から22%高の水準にある。ニューヨーク連銀の試算では15%のドル高は0.6%ポイントのGDP押し下げ効果がある。

<米利上げサイクル>

一方、市場ではFRBの利上げサイクルと景気サイクルについて、すでにそごが生じているとの見方が出ている。

三井住友銀行・チーフストラテジストの宇野大介氏は「米国は複数回の利上げ実施のタイミングを既に逸している」と指摘。

米景気のピークは2014年に迎えており、利上げするのであれば早期に実施するべきだったが、ベースとしての景気回復力が弱いため、中国要因や英国のEU離脱などの外部環境に配慮せざるを得ない状況となった。

ただ「利上げを先延ばしにすればするほど、世界経済の先行き不透明感が強まり、利上げの機会が遠のくという悪循環に陥っている」(同)と分析する。

また、直近2カ月の強めの米雇用統計に関連し「季節調整の掛け方に疑問が残るうえ、雇用者の年間増加数のピークは2014年だった。俯瞰して見れば、米GDPは昨年第4・四半期から低迷している」と指摘。FRBの利上げ未遂と景気後退の可能性が高まるとみている。

*記事の体裁を整えました。

(森佳子 編集:田巻一彦)

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