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アプリをつくったことで、逆に本来の雑誌の立ち位置がわかった。

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電車でみんながスマホを見ているのに、マンガがその中に入らない手はない

山内:豊田夢太郎さん(本連載第4回「新人の発掘と育成」ゲスト)からは「今後、Webや電子媒体を、紙とどのように差別化していくのか」という質問をいただいています。リリース当時(2013年)、マンガを電子で有料化した初のアプリ『週刊Dモーニング[★1]にはどのような意気込みで取り組まれたのでしょうか。

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『モーニング』紙版(左)と『週刊Dモーニング』(右)表紙

★1:『モーニング』の電子版として講談社より配信されているアプリ。週刊コミック誌史上初の月額課金モデルによる定期購読サービスとして、2013年5月よりサービス開始。リリース当時、マンガ系アプリはまだ黎明期で、その後大きな存在感を示すことになる『マンガワン』(小学館)や『マンガボックス』(講談社)もまだリリースされておらず、『週刊Dモーニング』はその先陣を切る存在だった。紙版の『モーニング』(1号あたり330円)を大きく下回る月額500円という価格設定も、当時は価格破壊として話題を呼んだ。http://d.morningmanga.jp/

島田:あれは自分の中では新しいことをやったつもりは全然なかったんですね。当然やることをやったまでで。電車でみんながスマホを見てるのに、マンガがその中に入らなかったら勝負にならないし、それを実現する技術は既にある。じゃ、やるでしょ。歩いてたら川があったから橋をかけたってだけです。価格設定(月額500円/通常有料会員の場合)については社内でも擦った揉んだがあって、あの値段を通すのに苦労はしたけど……ただ、あれより高かったら絶対ダメだったよね。

山内:Webマンガも含め、今は他の媒体もどんどん変動していますが、今後はどうなると思いますか。

島田:電子の世界ってあまりに流れが速い。『週刊Dモーニング』の直後に『マンガボックス』[★2]ができて、その後『マンガワン』[★3]ができて。とにかくどんどん形が変わっていく。出版社の持っている資本で最新のものにキャッチアップしていくのは難しいじゃないですか。だからうちの『マンガボックス』みたいな形で、資本や技術を持っている企業のシステムにこちらがモノ(コンテンツ)を提供する、という形になりますよね。
 『週刊Dモーニング』の場合は、マンガアプリの中でも一番早いリリースだったことでそれなりの高い価値があったし、私の中では「こういうことを最初にするのが『モーニング』の存在価値だろ」みたいに思うところがあって。

★2:講談社とDeNAが共同運営するマンガアプリ。2013年12月にサービスを開始し、2016年4月時点で1,000万以上のダウンロード数を誇る。詳しくは本連載第3回「Webマンガと市場構造」(中編)を参照のこと。http://dotplace.jp/archives/22077
★3:小学館が運営するマンガアプリ。2014年12月よりサービス開始。2016年5月時点で500万ダウンロードを突破。http://manga-one.com/

雑誌を売る感覚が希薄になったこの15年

島田:ただ、『週刊Dモーニング』をつくったことによって、逆に雑誌というものが本来どういうものだったのかが少しわかった気もしたんです。電子は紙以上に読者の増減がわかるんだよね。毎週毎週、ちょっと増えたとか減ったとか。新しいことを常にやっていないと、すぐに客は離れる。それは紙もそうに違いなくて、「お祭り感」みたいなものがないから売上が落ちる。考えてみたら、紙の雑誌って昔は、単行本でなく、わざわざ雑誌を買う甲斐があった。連載が並んで載ってるのは自明のことなんだけど、それ以外にも特殊なことが雑誌の中でよく起きてたよね。

山内:確かに。

島田:無意識のうちに単行本の方に関心が行っちゃうと、「雑誌で買う意味ねえんじゃねーの」ということになる。雑誌ってやっぱり誘致みたいなものだからさ、紙面で何か面白い試みをやってなきゃダメでしょう。

山内:どこかで何かやってないと、楽しくないぞ、と。

島田:だからディズニーランドを見習わなきゃダメだよね。編集長時代に、「モーニングプレミアム読み切り劇場【REGALO(レガロ)】」という、1年間毎週読みきりを載せる企画を手掛けたことがあったんですよ。それも「(単行本化しない)雑誌でしか読めないものをつくれ」という意識で。考えてみれば雑誌の中の読み切りって減ったよね。

山内:そうですね。減ったのは、やはり他の連載の単行本売り上げを考えてということですよね。

島田:だと思うね。「雑誌を売る」って感覚がすごく希薄になった15年間だと思うよ、この15年は。もちろんこれからは従来の紙メインの雑誌の時代とは違うけど、雑誌が担っていた本質的な機能を代替する何かを発想できるかどうかが重要なポイントになってくると思う。

山内:僕はこのシリーズの中で若手の編集者の方にお話を聞くこともあったんですけど、「単行本の発売=お祭りのイメージ」だという方もいらしたので[★4]、雑誌というものの捉え方が年代によって全然違ってきているのかなとは感じますね。

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★4:本連載の前シリーズ「マンガは拡張する[対話編]」第5回、小学館『スピリッツ』編集部の山内菜緖子さんがゲストの回(中編)より。http://dotplace.jp/archives/14088

島田:うん、そう思いますよ。確かに今言われたとおり、単行本がお祭りになっちゃってますよね。出すときにオマケを付けたりね。だから、ねじれというか、ある意味では単行本が雑誌的な機能を担ってきているのかな、とも思います。でも、あくまでほんの一部の機能だね。雑誌がなくなると、編集部の存在意義以外の面でもすごく大きな影響があるはずなんですよね。
 もちろん、今までのスタンダードな意味での雑誌は成立しなくなっているに決まってて、紙の雑誌を毎週毎月買い続ける人はそりゃ減りますよ。だけど、そのときに「部数が減ったとしても雑誌的な機能は失っちゃいけないものなんだ」と思い続けるとか、そういうスタンスがとても大事なんだけど、日本人はどこか時の風に身を任せることが好きで。それはつまり、「思想」的なものがすごく嫌いってこと。「こうあるべきだ」みたいなものの考え方がとても苦手。「こうあるべきだ」みたいなことを言うと、すぐに「そんな理想論どうでもいいから」という空気になる。でも、実は出版社に限らず、一流のメーカー・製造業って製品を売ってるんじゃなくて、思想を売ってるものなんですよ。トヨタもソニーもアップルもユニクロも、ダメになるんだとしたら「思想」がなくなったときでしょうね。

増刊をつくるなら、本誌と違わぬ熱量でやるべき

山内:2006年に島田さんが創刊された『モーニング・ツー』はどのような思いでつくられたんですか?

島田:『モーニング・ツー』というのは、とにかく楽にできた媒体ですね。今の状況からは信じられないけど、当時は「増刊市場」がまったくなかったんだからさ。
 当時講談社では「もうマンガ誌の増刊はつくっちゃいかん!」という内規があって……なぜなら増刊は商売にならないから。それまでの増刊って、本誌の2軍、3軍的な存在だったんですよ。それこそ、そこで新人を試して、見込みがあったら本誌に移籍させるみたいな。新人を載せるのに雑誌に余裕がいるのと同じで、増刊も出すのに余裕が必要だった。もうそんなことしてる場合じゃない、ってわけ。でも、2軍をつくるんじゃなくて、本誌をつくるのとまったく同じ力を掛けてまったく違う発想のものをやったら、本誌とは全然違う可能性が生まれてくる。編集者が編集的な意味で頭を良くするには、今やっている仕事を倍にすればいいんですよ。10の力でやってるときに、2軍的な増刊をつくろうとすると、その力を7:3とかに分けるんだろうけど、そうでなくて、ぱっと10の力を20にしてみる。
 うまい具合に「あなたとは仕事したいけど、『モーニング』に自分が載っている状態を想像できない」という作家さんを、周りの若手編集者がいっぱい抱えていて、「それ載っけようや」となったらすぐに『モーニング・ツー』ができちゃって。そういう発想の増刊というのは当時一つもなかったから、つくって良かったですね。

山内:『モーニング・ツー』を読ませてもらったときに、『モーニング』の流れは感じるんですけど、「この作家さんも連れてくるんだ」みたいな方が多くて。編集に掛ける熱は一緒だけれども、作家さんは狙ってここに嵌めてきたんだ、という印象がありました。

島田:本当にそうですね。ただ、私は大したことしてない(笑)。旗振って騒いでただけ。部員がみんな偉かったんです。本当、よくやってくれました。

山内:現場の編集者の方々も、雑誌がこれまで背負ってきたものの中で考えてつくる場合と、本当にゼロからつくっていく場合のプロセスって違うと思うんです。でもそれが両方合わさると良い相乗効果を生むんですね。

島田:そうですね。それに、単純に30年も同じ雑誌をつくっているとある種のストレスも溜まるし、「もっと全然違うものがやれるんじゃないの」って、みんな潜在的に思っていたわけです。

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