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ICカードの悪夢、解決のカギはスマホ決済

By Joanna Stern

 最近の米国の店での支払いはこんな感じだ。

1. 決済カードを読み取り機に差し込み、スライドさせる 。

2. 店員になぜICチップ読み取り機を使わないのかと怒られる。

3. ICチップ読み取り機に挿入し、処理に時間がかかる場合に備えて間近の予定は全てキャンセルする。

4. 待つ。

5. さらに待つ。

6. 処理の終わりを告げる音を聞き、大喜びする(音声を聴く)

 次にこれを経験したら、思い出してほしい。この悪夢のような事態を生み出しているのはあなたではなく、銀行やクレジットカード会社、加盟店、決済処理会社、端末メーカー、その他大勢であることを。しかし、一筋の希望の光が差し込んでいる。スマートフォンだ。

 ここ最近さまざまな店で支払いをする際に、処理にかかる時間をストップウオッチで計ってみた。50回以上計測した結果、ICチップ搭載カード(ICカード)の処理時間は13秒、磁気ストライプカードやモバイル決済は6秒と、ICカードは処理に約2倍の時間かかることが分かった。

 しかし、ICカードには重要なセキュリティー上のメリットがあり、筆者が見たところ処理時間も将来、大幅に短縮する見通しだ。それだけではない。ICカードを支えるテクノロジーは、あらゆるプラスチックカードに終わりを告げるための基礎作りになり、いずれはスマホが財布に完全に取って代わるだろう。

小売店はさまざまな方法でICカードを受け付けていないことを知らせている
小売店はさまざまな方法でICカードを受け付けていないことを知らせている
Photo: Joanna Stern/The Wall Street Journal


ICカードVS磁気テープカード

 磁気ストライプを使用したカードで支払うのは、玄関のドアをマスキングテープで施錠するようなものだ。

 磁気ストライプを読み取り機でスライドさせると、カード口座番号や有効期限などの情報を確認するために金融機関にコードが送信される。コードは毎回変わらないため、犯罪者の手にこのコードが渡った場合、カードが偽造され、カードを取り消さない限り繰り返し買い物に使用される恐れがある。

 ICカードならもっと安全だ。ICカードは、最初にこの技術を開発したユーロペイ、マスターカード、ビザの3社の頭文字を取って「EMVカード」とも呼ばれている。ICカードを読み取り機に差し込むと、カードに埋め込まれた小さな四角い金属チップから、顧客情報を認証するための固有のコードが金融機関に送信される。コードは毎回変更されるため、たとえ犯罪者が盗んでも、それを再度使用することはできない。

 問題は、ICカードを利用できるようにするには、小売店が専用のハイテク端末の購入やソフトウエアのアップグレードを行い、提携している全決済会社(ビザ、マスターカード、アメリカン・エキスプレスなど)をはじめとする各当事者から認証を受ける必要があることだ。これにはコストがかかるだけでなく、複雑なシステムを持つ大規模チェーン店の場合、最大半年という長い期間を要する可能性がある。

ICカードはそれに対応した端末を使用する必要がある
ICカードはそれに対応した端末を使用する必要がある Photo: Drew Evans/The Wall Street Journal

 決済処理自体もそうだ。ICカードは磁気ストライプカードよりも生成するデータが多いため、時間がかかる。

 ビザによると、米国の全加盟店のうちICカードに対応しているのはわずか28%だ。ただし、昨年10月以降、ICカード非対応の小売店が偽造カードによる決済を受け付け、銀行からの支払いが行われた場合、その被害の補償責任は小売店が負うことになった。

 この「ライアビリティーシフト(債務責任の移行)」を受け、一部加盟店は行動を起こしている。ターゲットやホームデポ、ウォルマート・ストアーズなどの大規模小売店は既にICカードに対応しているが、スターバックスやダンキンドーナツ、サブウエイなどは対応が遅れている。

 販売時点情報管理(POS)端末向けのソフトウエアを手掛けるインデックスのテクノロジーマネジャー、ジョセフ・ケーニグ氏は「多くの店がまだEMVカードを受け付けていない。不正被害の補償をするよりも、支払いの列が長くなることの方が店にとって痛手になる場合が多いためだ」と指摘する。

 ハードウエアメーカーやクレジットカード会社も、このカード問題の責任の一端を担っていることを自覚し、決済時間の短縮に取り組んでいる。例えば、決済処理が終わるまでカードを端末に差し込んでおかなくても、2秒たったら抜き取れるようにするなどの措置を新たに講じている。

 カリフォルニア州サンタクルーズを拠点とする小規模スーパーマーケット「ニュー・リーフ・コミュニティー・マーケッツ」は今週、米国で初めてレジを高速決済に対応させる見通しだ。生中継動画のデモでは問題なく機能しており、2、3秒で完了音が鳴っていた。

 全ての店がすぐに高速決済に対応してくれれば素晴らしいのだが、ICカードの最初の対応時同様、そのプロセスには多くの手順や当事者が関わっている。この取り組みを主導するビザとマスターカードは高速決済対応の店を年内にもっと増やす見通しだ。

 一方、端末メーカーは決済処理を高速化できるようソフトウエアをアップデートし始めている。

対面決済の方法は現在、磁気ストライプカード、ICカード、スマホが混在している 対面決済の方法は現在、磁気ストライプカード、ICカード、スマホが混在している

ICカードVSスマホ

 とはいえ、高速処理のICカードとスマホいずれかを決済で選べるとすれば、筆者はスマホを毎回選ぶだろう。

 筆者のテストでは、アップルペイ、サムスンペイ、アンドロイドペイのいずれも現行のICカードより処理が速かった。スマホを端末にかざし、指紋センサーを押して本人であること確認すると、6~7秒後には完了音が聞こえた。4秒しかかからない時もあった。デビットカードで支払う場合は、PIN番号の入力が必要なため、クレジットカードよりも時間がかかる。

 これらサービスがICカードよりも処理が高速なのは、同じEMVプロセスを使用していても手順が少ないためだ。また、本人確認のための認証処理にもう1段階(指紋またはPIN番号)要するため、安全性も高い。米国以外の国では、ICカードを使用した場合もPIN番号の入力が必要になることがある。米国では銀行が加盟店やカード保有者にICカードへの移行を促すのがさらに難しくなることを恐れ、ICカードにはPIN番号は不要と決めたためだ。

アップルペイ、アンドロイドペイ、サムスンペイでの支払いはICカードよりも2倍速い
アップルペイ、アンドロイドペイ、サムスンペイでの支払いはICカードよりも2倍速い
Photo: Drew Evans/The Wall Street Journal


 スマホで支払いをしたいが、どの店がモバイル決済を受け付けているか分からないと言う人もいるだろう。この問題に対処したのがサムスンペイのMST(磁気セキュア伝送)技術だ。MSTなら、どの店にもある旧式の磁気ストライプ対応の決済端末で処理が可能だ。NFC(近距離無線通信)技術のみに依存したアップルペイとアンドロイドペイは数百万店が受け付けている。対応しているかどうかは端末のロゴが目印だ(アップル、グーグル、サムスンいずれも、買い物行動に関するユーザー情報は収集しないことを約束している)。

 朗報なのは、EMV仕様の端末の設置を機に加盟店がモバイル決済を受け付け始めていることだ。

 EMVへの移行を推進する「USペイメンツ・フォーラム」のディレクター、ランディ・バンダーフーフ氏は「新型のEMV端末にアップグレードする大きなメリットは、ハードウエアがモバイル決済に対応できるようになることだ」と話す。

 ただし、残念ながら「多くの加盟店がまずICカードのEMV認証を得なければならず、モバイル対応が後回しにされている」という。

 この問題で本当に進捗(しんちょく)が見られるまでには、まだ時間がかかる。しかし、事態は思うほど悪くない。業界がプラスチックのカードをめぐって奔走し続ける間、われわれがモバイル決済の進化を推進していけばいいのだ。

 そのためには、次にICカード端末を目にしたら、こう尋ねてみてほしい。「スマホで決済できますか?」

(筆者のジョアンナ・スターンはWSJパーソナルテクノロジー担当コラム二スト)

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