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円高の足音

夏休みモードということもあるのか金融市場からはあまり声が聞こえてこないのですが、円高の足音がひたひたと聞こえてきました。榊原英資氏(元財務官、現青山学院大学教授)はドル円が100円を割ればテンポを速める可能性を指摘しています。また複数国による協調為替介入はこの水準ではないとみているようです。今週も一時100円台に突入していますが、市場参加者が少ないこの時期は逆にポンポン為替が動きやすい時期でもあります。

私が懸念するのは日米欧それぞれの不安であります。不安ばかりならば円安になりそうなものですが、為替はシーソー関係ですので不安要因が大きい方が弱くなり、ちょっとでも安心材料があれば強くなってしまいます。

まず、欧州の不安ですが7月29日に発表された欧州51行ののストレステストの結果であります。2018年までに一時的にマイナス成長になるという前提のストレスをかけた場合、中核自己資本が30兆円減るという結果が出ました。相対的なコメントはイタリアの一部の銀行を除き、健全であるとされたのですが、市場は不安視しています。理由はマイナス金利による銀行経営への影響と英国EU離脱のリスクを勘案していないためであります。また経済のマイナス成長が一時的なものに留まるのか、根本的疑問もあるでしょう。つまり、EUの傘下である欧州銀行監督機構が行ったこのテストの結果を市場は素直に受け止めていないということになります。

英国についても今後、EUとの離脱交渉の内容が見えてこない限り企業もその動きを決めることができません。大手企業や金融機関はいくつかのシナリオを作ったうえでその準備や下調べを進めているかとは思いますが、何一つ表立っていません。が、交渉が進むにつれ必ず尾ひれがついた話が出てくるわけでその間、英国と欧州は振り回され続けます。こうなれば積極的にユーロを買えるポジションにはありません。

では、アメリカ。7月のFRBの会合を受けて市場では見方が分かれています。ややポジティブに理解し9月に利上げの検討もありうるという見解と早くてもせいぜい12月だろうという見方であります。個人的には先日のアメリカのGDPが弱々しい結果となっていること、仮に秋以降に英国と欧州の離脱交渉が進めばその噂で世界は混乱しやすくなり、アメリカだけが安泰ということはありえないとみています。

更にデッドヒートを繰り広げるアメリカの大統領選挙が11月に控えていることから刺激がある対策は取りにくいとするのが正論かと思います。となればクリントン氏が大統領に選ばれたならば12月の利上げの可能性は残り、トランプ氏なら利上げは当面無しではないでしょうか?

欧州がガタガタし、アメリカの利上げが見込めないのならば中途半端な世界通貨である円はシーソーの関係で買われるように見えてしまいます。榊原教授のポイントもここにあると思っています。

円がドルに対してどの水準なら正しいのか、という答えはありません。購買力平価などいくつかの考え方はありますが、企業業績への影響が政府を動かし、国家間の力関係や地政学的問題でふらつくのが為替の特徴であります。個人的には現在の100円前後というのは2013年に異次元の緩和をした際にいったん落ち着いた水準であり、心理面からしてもギリギリ妥協できるところではないかと思います。

ところが欧州やアメリカの事情で通貨のセーフヘイブンを求める動きが出るとドルやユーロという横綱に対して円という子供が相撲をとるようなものでピンポン玉のように値が飛びやすくなり、リスクファクターとして目先90円程度も覚悟しなくてはいけない状況にあるとみています。但し、それは投機マネーなどがエキストリームな展開をするケースで乱高下しやすくそこで安定するかどうかはわかりません。

永守重信日本電産社長は円高は必ずしも悪いわけではなく、企業買収には好都合になると述べています。事実同社は8月2日にアメリカ企業から産業用モーター事業を買収しています。孫正義氏も英国のアーム社を買収したのは英国ポンドが崩落した時でした。円高は輸出が伸びなくなるので日本には不利だという主張を今でも正々堂々と述べるのは時代錯誤だという意見すらあります。

もちろん円高は輸出企業のみならず訪日外国人の財布にも影響します。私も日本に行くたびにカナダドルから円に両替すると「あれ、また減った」と思わずつぶやいてしまいます。しかし、日本にいる方すれば海外旅行に行くのに「あれ、また増えた」になるわけで、ものは考えようであります。

世界情勢を俯瞰すると夏を過ぎれば一波乱ありそうな気配です。今から少し身構えた方がよさそうな気がいたします。

では今日はこのぐらいで。

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