- 2016年08月03日 19:30
日本の音楽人が魅了される「リオデジャネイロという生き方」 音楽・放送プロデューサー/選曲家 中原仁氏インタビュー - 本多カツヒロ
2/2――カフェやレストランで音楽が流れるとお客さんが歌い出したり、踊ったりすることもあるんですか?
中原:場所によります。アッパーミドルクラスが多いイパネマだとそうはならないと思います。ブラジルのカフェレストランや日本の居酒屋のような「ブチキン」には、日本とは違い基本的にBGMが流れていません。そこでの人々のざわめきやテーブルの音、グラスが触れる音がBGM。これは、とてもリオらしいですね。日本でもBGMが全てなくなると、選曲家を仕事にしている僕としては困るんですが(笑)。
中原:ただ、ブチキンなどの中には、テーブルを囲んで行なわれるサンバや生演奏に合わせお客さんが歌うことを売りにしている店もあります。また有名人が集うようなブチキンであっても客を選ぶようなこともなく、平等さが根付いています。
リオの中心部にサンバや夜遊びカルチャーの中心地であるラパという街があります。そこにライブ終わりのミュージシャンたちがよく集まる居酒屋があり、そこでは出来かけのオリジナルの楽曲をミュージシャンたちが互いにセッションするうちに、1つの楽曲が誕生するという伝統が80~90年前からありますね。
――リオといえばサンバが有名ですが、幼い頃から始めるものなんですか?
中原:サンバカーニバルに出場するチームの本拠地はファベーラと呼ばれる貧しい人たちの居住区にあり、それぞれ地域コミュニティに深く根ざしています。そうした場所で育った人たちは幼い頃から、下手をしたらお母さんのお腹の中にいる頃から慣れ親しんでいて、3~4歳の女の子でもカッコイイステップを踊れますし、ちゃんとしたステップが踊れなくてもテーブルやお皿を叩いたりしてリズムを表現できますね。
――ファベーラ以外の地域で育つとサンバには参加しないのでしょうか?
中原:確かにコパカパーナやイパネマのようなアッパーミドルクラスの人たちが多く住む地域の子供たちはそういう環境で育っていません。ですが、だからといってサンバと縁がないわけではない。リオは街中にサンバと接する機会がありますから、自分も踊ってみたいとなる。ただ、そういう子供たちがファベーラまで行って、チームの門を叩くのは敷居が高いですよね。自宅のメイドさんの実家がファベーラであれば、チームに入ることも出来ますし、そうでない人たちのためにサンバのワークショップも開かれています。そういったところは時代とともに変わってきている。
実は僕が初めてブラジルを訪れた85年頃はサンバが低迷し、英米の影響を受けたロックの全盛期でした。その後、パゴーヂと言う、ビールを飲みながら、テーブルを囲んで気軽に歌うサンバのスタイルが一気に浮上し、00年代に入りラパという中心部の復興と共に新しい世代が出てきたんです。
――最近日本でもブラジルの肉料理「シュハスコ」(ブラジル・ポルトガル語読み。日本では一般的に「シュラスコ))のレストランが増えました。本場と日本での大きな違いはありますか?
中原:肉そのものの違いもありますし、日本のシュハスコレストランにもあるようなサラダバーの種類と量は日本の倍以上。サラダバーだけでお腹いっぱいになるくらいです。
中原:シュハスコというのは本来BBQなので、日本にあるようなシュハスコレストランに行くのは、誰かの誕生日など特別な日だけで、普段は休みの日に、家の庭やマンションのベランダや共用スペースにシュハスコを炭火で焼ける窯などがあることも多いので、そこで家族や近所の人たちと楽しむものなんです。
先日、『クレイジージャーニー』(TBS系)にも出演していたファベーラ在住の写真家、伊藤大輔さんの家に遊びに行きました。近所の見晴らしの良いバーで飲んでいたら、そこら中からシュハスコの煙が上がってくるわけです。肉の部位は限られているかもしれませんが、ファベーラでも日常的に楽しまれている。
――ファベーラは知り合いがいないとなかなか入れない場所なのでしょうか?
中原:最近はホテルから出発しているファベーラ観光ツアーもあります。ただ、一口にファベーラと言っても千差万別で、UPPという警察が介入し浄化作戦を行い、ギャングを追い出して非常に安全になった地域もあれば、警察介入後は治安が回復したけれども再び悪化したところ、さらには全く警察も介入できない一般市民からは完全に隔絶された地域もあります。
伊藤さんが住んでいるバビロニアは、浄化作戦のモデル地区で治安がわりと良いところです。
――ここまでリオのスポーツ、音楽、食と色々とお話を聞きましたが、最後に中原さんを掴んで離さないリオっ子の気質や、日本人との共通点について教えて頂けますか?
中原:全員ではありませんが、基本的にカリオカはお喋りが好きで、皮肉屋でユーモアのセンスがあり、とにかく前向きなところが特徴ですね。喋ることでストレスを発散しているようにも見えます。
またリオという街自体が、少し歩けばビーチや森と言った自然があるので、日常的に気分をリセット出来る環境にあるのではないでしょうか。
カリオカに限らずブラジル人は、一見楽天的で大雑把に見えますが繊細なところがあるように思いますね。
ブラジルには「サウダージ」という様々な感情を表す言葉があり、日本語では「郷愁」とも訳されます。この感覚は日本で言うところの「もののあはれ」に似ていて、日本的な複雑な情緒の感覚が意外とブラジル人にもあるんじゃないかと。全く一緒の感覚というわけではなく、相似形のような感じで、ですね。
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