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実話ベースの映画は本当に実話なのか?

最近、実話映画が日米を含む世界的に多く作られ傾向にある。
2016年アカデミー賞作品賞はボストンのカソリック教師児童虐待を描いた「スポットライト・世紀のスクープ」、ノミネートに東西冷戦期の複数の実話を重ねた「ブリッジ・オブ・スパイ」、リーマンショックを売り抜けた男たち「マネーショート・華麗なる大逆転」、2014年作品賞は奴隷体験を克明に描いた「それでも夜は明ける」、2013年は革命下のイランからの奇想天外な脱出劇「アルゴ」、2011年は吃音の英国王の克服物語「英国王のスピーチ」である。

ある人が奇跡の生還「アポロ13号」のロン・ハワード監督のF1レース実話「RUSH/プライドと友情」を見て「やはり実話は強い。」と言っていたが、CGモノやヒーローものに飽き飽きしている大人の観客には確かに「実話」は強く突き刺さるので、映画館に観客を呼び寄せるために益々増加傾向になるのだろうか。しかしそれも、実話の選び方のセンス一つでこの増加傾向も「良し悪し」だと思うのだが。私は作品選びの時に米国製作サイドはショッキングさだけを求めていない様な気がするが。

一方、もちろん日本にも、実話映画は多くある。桜田門外から二・二六事件まで暗殺事件を描きに描いた凄まじい「日本暗殺秘録」、カトリック信者の無差別殺人鬼「復讐するは我にあり」、戦前の津山30人殺しの「丑三つの村」「八つ墓村」、実録・政治の裏側「金環触」など傑作・怪作が目白押しだ。ただし、メジャー作品に近年タブーやアンタッチャブルや忌憚に触れる作品が減って来たのは、テレビ局や広告代理店や大企業が映画製作に参画してきたことによる「製作委員会方式」の弊害であろうか?飛行機でたまたま観たダメ女子高校生が慶応大に受かる「ビリギャル」はとても良く出来ていたが、私の様な中年のオッサンはなかなか映画館に行く気がしない。もっと、社会を抉る作品・実話の裏にある知られざる真実を見たいのだ。

そんな事を考えていた時、久々、一気読みの素晴らしい映画本を見つけた。
『衝撃の「実録映画」大全』(洋泉社)は誠に興味深い本だった。
要は「実話を元にした映画」の原作になった実話をノンフィクション作家・歴史研究家・ジャーナリスト・大学教授等、(映画専門家以外)の専門家が束になって本来の事実を掘りに掘ると言う企画が良い。

もちろん実話映画も虚々実々で脚色しているから面白くなる場合があるのが前提だが。

・・・専門家は大ヒット作「JFK」は実録で模したオリバー・ストーン監督の完全なるインチキ捏造映画と断定、愛犬家殺人事件の本物の犯人と園子温監督「冷たい熱帯魚」の主役『でんでん』の異常な類似性、199人死亡の真冬の大惨事軍事訓練の「八甲田山」の責任者隊長の人物造形は本物の隊長の人物像から何故大胆に変えられたのか、リリー・フランキーの「凶悪」の殺人鬼『先生』の著者が裁判傍聴で見た本当の姿とは、市川雷蔵の世界スパイ映画史上に残る隠れたリアルな傑作「陸軍中野学校」は元・陸軍中野学校の本物の鬼教官・K大尉の完全監修で製作され現在も北朝鮮でスパイ養成学校の正式教科書映画である、ロンドンの切り裂きジャック謎解き映画ジョニー・デップ主演「フロム・ヘル」は複数のでっち上げ原作に基づく超デタラメ映画だったが何故そうなったのか、戦後戦慄の毒物銀行殺人強盗の「帝銀事件」映画「死刑囚」の熊井啓監督の『冤罪晴らし』の為の鉛筆一本にまでこだわった執念のリアリティ、未解決の前代未聞劇場型連続大量殺人鬼「ゾディアック」が米国社会・映画に与えた多大な影響、ビン・ラディン補獲映画「ゼロ・ダークサーティ」のプロデューサーのキャスリーン・ビグローがCIAと密かに結んだ密約とは。

・・・その他「東電OL事件」「ひかりごけ・人肉食事件」「戦中。無人島に30数名の男達と妖艶なただ一人の女『アナタハン島』事件」戦後最大の闇「国鉄総裁怪死事件・下山事件」等、各専門家が事実を掘った視線から映画を様々な方向から解析する。徹底調査の上の映画化もあり信じられない剽窃もあり驚くべき捏造もあり作品裏話もあり映画界的裏事情もあり。実話映画が増えて来た昨今、鋭いアプローチの本を出版された。

もちろん、事実をそのまま映画化しても面白くないと言う場合ももちろんあるし、「事実は映画や小説より奇なり」と言う場合もある。本書では複眼の視点から映画を観れる。

アメリカでは切れ味のある「実録映画」が増加しているが、日本映画では製作資金が集まらないのか、何故か作品にキレと迫力が悪いのが残念である。もう、熊井啓監督の様な人は出ないのか?残虐でなくても良い。日本にも山ほどネタはあるでしょうに。(了)

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