- 2016年08月01日 20:06
“5桁クラブ”に振り回される、日経平均の不都合な真実 - 宮川公男
1/2日経平均株価は日本の経済状況を写す鏡としての歪みが大きくなっており、その信頼性が揺らいでいることはよく知られている。
最近では6月3日の『週刊ポスト』が「おかしなおかしな日経平均」という大見出しの特集記事で、日経平均の過度の重視は「国の舵取りさえ誤ることになりかねない」と結論しており、4月18日にも『PRESIDENT』が「なぜ、海外投資家は日経平均を信用しないか」と題し、「ユニクロばかりが影響を与えている」という見出しをつけ、日経平均が歪んだ指数であるという、フィスコ・リサーチアナリスト飯村真由氏による見方を紹介している。また、現在の日経平均の動きが、『週刊ポスト』や飯村氏がともに指摘するように、ユニクロを経営するファーストリテイリングの株価の上下動に大きく左右されており、日経平均はユニクロ指数とまでささやかれている。
「5桁クラブ」が引っ張る日経平均
日経平均を構成する225銘柄のうち、現在僅か5銘柄から成るものを私は「5桁クラブ」と名づけて注目している。それは株価(日経平均算入株価)が5桁(1万円以上)の銘柄群であり、株価の高い順(7月末日)に、ファーストリテイリング、KDDI、ファナック、ソフトバンク、京セラの5銘柄である。
「5桁クラブ」の持つ影響力
ここではまず「5桁クラブ」の大きな影響力を私が数値的に計算した具体的なケースを2つ紹介しておこう。
2012年12月に第2次安倍内閣が出現してアベノミクスがスタートし、翌13年3月の黒田新総裁による金融緩和もあって、日経平均は12年末の1万395円から13年末の1万6291円まで年間57%という史上2位(1位は72年の列島改造ブームの92%)の驚異的な上昇率を記録した。この上昇への225銘柄中わずか5銘柄の「5桁クラブ」の寄与度は実に35%に達しており、その内訳はファーストリテイリングの14%をはじめ、ソフトバンク12%、KDDI 5%、ファナック2%、京セラ2%であった。
また日経平均は、00年3月にアメリカのITバブルがはじけた直後に、4月14日の問題含みの30銘柄入れ替え発表によって17日に2万円台を割った。以後15年余り一度も2万円を回復したことはなく、15年4月22日にようやく終り値で2万円台を回復し、同年6月24日に2万868円の高値に達したが、その後チャイナ・ショック、円高、原油安などにより下降局面に入り、ちょうど1年後の16年6月24日にはBREXITショックで1万4864円の安値をつけた。
このピークからボトムまでの期間について同じように日経平均の下落幅6004円に対する5桁クラブの貢献度を計算したところ、ファーストリテイリング 19%、ファナック 7%、ソフトバンク 4%、京セラ 3%、KDDI 0.4%で、全体では33%という大きさであった。ここでも5桁クラブの貢献度の大きさには驚くべきものがある。要するに、日経平均は上昇も下落も僅か5銘柄の5桁クラブの力によって大きく決まっているのである。なお、これら5銘柄はすべて00年4月の30銘柄入れ替え以後、日経平均に採用されたものである。
価格ウェイト問題に無頓着な日経平均
この5桁クラブ問題は価格ウェイト問題と呼ばれているものであるが、この問題をきわめて注意深く扱っているダウ・ジョーンズ工業株価平均(DJIA、以下NYダウと記す)と、それに全く無頓着としか思われない日経平均とでは雲泥の差があり、それが両者の間での信頼性の差の主要な原因の一つである。
一例をあげると、NYダウでは15年3月7日にアップル社をAT&Tと入れ替えに30銘柄に採用したが、それは700ドルをこえる高株価だった同社が1対7の株式分割を行った後であった。採用銘柄の大部分の株価が2桁である中にとび抜けて高株価の銘柄を採用すると価格ウェイト問題が大きく悪化することをおそれ、NYダウはアップル社が14年4月23日にアナウンスして6月9日に実施した株式分割で同社の株価が下がるのを待っていたのであり、30銘柄入りを希望していた同社もそれに応じたと考えられるのである。
「みなし額面」方式で株価6倍になったKDDI
これに対して日本では高株価=優良会社という見方が強いこともあって株式分割があまり盛んでなかった特殊事情により、もともと価格ウェイト問題が大きい日経平均では、05年6月7日に時代錯誤的ともいえる「みなし額面」方式という株式の額面概念を持ち出し、株式分割があっても分割銘柄の日経平均算入株価は下げられなくなった。
「みなし額面」方式では、大幅な株式分割の際に分子の株価合計において分割銘柄の株価を分割前のものに換算する方法が採られる。例えばかりにファーストリテイリングが今後株式分割を行ってもその算入株価は分割倍率を乗じて分割前の1株に換算されたものになり、その影響力は大きいままで残る。
「みなし額面」方式によってその後2回の分割で現在算入株価が株価の6倍になっているKDDIの場合を見れば、分割の効果もあって株価が堅調で、5桁クラブの中での同社の順位は最下位5位から2位に上昇しており、そのことが最もはっきりと示されている。そしてこの問題は、後に述べるETFの問題にも関連して、日経平均に対してきわめて悩ましくかつ解決の難しいジレンマとして今後注目されねばならないものである。
なぜ日経平均は歪んだ平均になってしまったのか
日経平均のベースは120年前からのNYダウと同じく最も常識的な算術平均であり、複雑な式とか難しい数学などとは一切無縁である。両者の違いはNYダウが1928年10月1日から、それまで用いていた株式分割に際しての分子修正方式から現在の分母(除数)修正方式に改め、それをダウ方式と呼んでいるのに対して、2005年6月までNYダウと同じダウ方式を採っていた日経平均は、その歴史に逆行してダウ方式以前の分子修正方式に、しかも中途半端な新旧混合方式に戻ってしまったのである(詳しくは宮川公男著『日経平均と「失われた20年」』東洋経済新報社を参照)。
ちなみに、120年前に誕生したNYダウ30銘柄の中で今日唯一残っている銘柄はGEであるが、GEはその後の成長によって株式分割を8回くり返し、1株が1152株になっている。したがって、日経平均のように分子修正方式を採用するとNY株価指数の分子に株価が1152倍されて算入されることになる。そんな株価指数が全く用をなさないことは明らかである。要するに日経の「みなし額面」方式は、株式の額面発行方式時代の一株当り払い込み資本50円という時価発行時代の現在全く無意味な数字にしがみついたものであり、それは単純平均方式の株価指数の価格ウェイト問題を悪化させ平均株価指数としての意味を失わせるばかりの代物なのである。
さらに重大なことは、これを悪用した投機筋の巨額なマネー投入によって日経平均が操作される危険性が高まるということである。
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