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溶けることと結晶になること:日本人が世界で生きるための知恵 − 大石幹夫

福島第一原発事故による汚染の広がりもあって、これから海外に出ていく日本人は多くなるかもしれない。そうすると世界での日本人の生き方が問われることになるだろう。「日本人は品行方正だし、信頼がおける」という国際的な評判があるので、日本人として恥ずかしくない振る舞いとかいうような、いわば外的ことは多分問題にならない。問題になるのは日本人個人の内的なことだ。
1980年代から90年代半ばくらいまでは、企業人として世界に出ていく日本人が多かった。その場合、日本企業の現地法人という「日本の飛び地」を作りそこに出ていく感じだったから、日本人が生きるための環境や文脈はそこにあり、個人としては海外で生きることからさほど大きなストレスは感じなくてすんだのかも知れない。

これからの日本脱出組は、企業の海外移転とは別のパターンが増えそうだ。一つは「難民型」だ。文字通り、日本で住む場所を失った人々が、住む場所を求めて世界各地に出ていく形だ。たとえば、日中間の政府協定により、広大な中国大陸のどこかが東部日本の人々を地域共同体ごと受け入れるということもあり得る(その前に、九州や沖縄への移住が増えるだろうが、国内で提供できる土地には限りがあるだろうし)。その場合は、企業の海外移転と同じくあるいはそれ以上に、日本の生活環境をそのままもっていけそうだから、個人へのストレスはさほど大きくないだろう。

一方、かなりの数の日本人が、個人としてあるいは家族単位で海外に出るかもしれない。その場合、現地の生活環境に直接身をさらして生きていかなければならない、言葉や就職それに現地の人たちと意思疎通することが大きな課題となる。

さらに、根本的に問われることになるのは、社会や職場や地域共同体に「溶け込む」ことを奨励されてきた日本人が、個人として角を突き合わせながら生きていくことを前提にできている社会の中でどう生きていくかだろう。日本人は溶けやすい。そして溶けるということは、主体がなくなるということで、それでは「角突き合わせ社会」では相手にされないことになる(相手にしようにも、その相手が溶けているのだから、いわば「暖簾に腕押し」のようなもので、先方は当惑する)。

それで、個人あるいは家族として海外に出ていく日本人にとっておそらく最大の課題は、明確な輪郭を備えた自分を持つということだ。あたかも結晶のように。

さいわい、世界は「角突き合わせ社会」ばかりではない。米国はこの社会の典型だが、その対極の「溶け込み社会」としての日本があり、この両極端の間には、他のさまざまな社会がある。それらは両方の要素を多かれ少なかれもっている。私が長く住んだニュージーランドや東南アジアがそうだ。しかし、これらの国々でさえ、角突き合わせの程度は日本よりずっと高い。

一方、溶けることにも大きな効用がある。それは、自分を無にして他に尽くす姿勢だ。自分が溶けて、角突き合わせている個人同士や組織同士のに間に入り、そのギャップや違いを埋めるということもできる。

状況よっては、溶けるここともできれば、結晶体となることもできる。このことをマスターした日本人は、もしかしたら世界で最も求められる人々になるかもしれない。

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