- 2016年07月29日 16:23
「日本名物?」お中元、お歳暮感覚株主 - パスカル・ヤン
2011年にオサマビンラーディンが、パキスタンのアジトで米国海軍特殊部隊の奇襲で殺害された。よその国に突然米軍の軍事行動がなされたことは驚きだが、襲撃の一部始終がホワイトハウスにライブで中継されていたと聞いてさらに驚いた。住処の特定を含めてITCの成果であろう。
同様なことが、ジミー・カーター時代の35年前に、ホメイニ革命下のテヘランでアメリカ大使館人質救出作戦として行われた。こちらの作戦は失敗。原因はヘリコプターの単純な部品の不備であったそうだ。さらに悪いことに、パーレビ時代の名残でアメリカ製の同型機を使っていたイラン軍は、米軍が乗り捨てた多数の軍用ヘリを長らく部品取りに供してしていたそうだ。ただの負けではなく、敵に塩まで送ってしまった。
ベトナムの失敗から自信を失った米国は進退窮まったのであろう。
同じころ第一、第二次オイルショックでのオイル高騰を逆手に取って、低燃費車の輸出を中心とした日本の成功は目を見張るものがあった。この成功は1980年代後半にバブルとなった。あのバブルはオンリーイエスタデーに思えるが既に四半世紀たっている。
成功と発展の過程で、日本の企業は、歴史観を持って自己分析をすることを忘れ、グローバルスタンダードを持ち込めばさらに高いステージに立てると思ったのであろう。80年代に日本企業が持っていた日本的経営をすべて捨て去ってしまった。列挙すれば、年功序列、生涯雇用、御用組合、保養所、社内運動会、社内結婚が一つ一つ消えていった。
MBAで日本も米国並みになれる?
これは多分にジョークだと思うが、米国は日本の成功を分析して曰く“米国にあって日本にないものを検証したらMBAと出たので、日本人にMBAを山ほど与えれば日本も米国並となろう。”結果は事実となった。グローバルスタンダードの美名で日本的経営を一つ一つ破壊し、すべて破壊が終わったころになってノーベル賞経済学者ゲーリー・ベッカーあたりまで生涯雇用など日本的経営礼賛をはじめた。しかし、既に時遅しで40%の非正規雇用でやっと回る経済となってしまい、もう戻らない。大企業にはMBAがあふれかえっている。
とはいえ幸か不幸か資本市場の方はいまだに日本的だ。たとえば、何かとお騒がせの東芝の株主総会は、国技館で行われている。その際参加者に焼き鳥弁当が振る舞われていて好人気であった。今回の決算操作問題発覚をうけて、弁当はなくなったが、この事実の周知徹底も大変であったようだ。なんせ、決算はどうでもいいが弁当がうれしい株主も多かったから。「弁当食いたい」資本主義なのだろうか。弁当無しの今年、会計不正問題があるにもかかわらず出席数は例年の半分となった。
日本も個人株主総数5000万人時代となったようだ。実際には、一人で何銘柄も保有しているので株式保有者数は1000万人程度だろう言われている。持ち株会に入っていて単元株保有者となったが、自分が株主になったことさえ気がつかない人もいれば、指折り数えて株主総会に参加する人もいる。総会そのものにやってくる株主は、大相撲をライブで見た人の数よりさらに少ないのでないだろうか。
参加へのプロモーションなのか、日本では株主総会の土産物リストが出まわっている。ほぼ同様のアプローチで株主優待に関してはさらに精密に分析されている。株主優待利回りなる言葉も発見した。投資信託の分配金利回り、総会屋と同様に直ちには英語にならない言葉だろう。英語になったとしても西洋人には見当がつかない。単元株優遇は株主の平等原則に反するし、分配金利回りと言えば、100万円の預金から1年後に10万円を引き下ろして、年率10%だと言い張っているようなものだ。
株主数拡大政策の結果
官民一体となって貯蓄から投資へのシフトを熱心に説いている我が国で、特異な現象が人気のこの株主優待制度だろう。世界中で類を見ないことだが、上場廃止対策で株主数拡大政策の結果なのだろう。
自転車を立ちこぎして街を走る、将棋の先生はその筋の専門家として大忙しだ。株主としての三つの権利ほかに、日本的な考え方として、お中元お歳暮感覚で株主なのだから会社のものを無料でまたは優先して利用してもらおうという考えが出ても違和感は少ない。例外的に現存する外国の株主優待制度は私鉄の株主に対するものがあるが、この外国の制度を模倣して、今から100年以上以前に株主割り当ての優待制度が1899年に導入されたようだ。現在の東武鉄道の前身で同社の優先株数300株以上で、全線無料年券が受けとれるという記録がある。
現在上場会社の3分の1程度が株主優待制度導入している。比率も件数も上昇している。特に、クオカード、飲食金券、が人気だ。株主になるのは優待で何か特典があるからで、株主総会に出るのは弁当がもらえるからとわかりやすい。日本的経営と同様に世界で類を見ない。ひょっとすると制度疲労している資本主義の新しい道かも知れない。焼き鳥弁当がそれとは思わないが。
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