- 2016年07月29日 12:05
控訴審で一層明白となった贈賄虚偽証言と藤井美濃加茂市長の無実
1/2一昨日(7月27日)、藤井浩人美濃加茂市長の事件の控訴審第4回公判期日が開かれ、検察官・弁護人の最終弁論が行われて結審した。判決は11月28日に言い渡される。
この事件は、全国最年少市長が、市議会議員時代の受託収賄等の容疑で逮捕・起訴され、一貫して、潔白を訴え続け、全面否認のまま保釈されて現職市長のまま公判を戦い続けて一審無罪を勝ち取った事件である。
検察が控訴を申立てたことで、市長が引き続き被告人の立場に立たされることになった美濃加茂市民にとって、控訴審がどのような展開となり、いつ、どのような形で決着がつくのかは最大の関心事だったはずだ。
控訴から結審まで1年4ヶ月と、一審での起訴から結審までの期間は5ヶ月でありその3倍近くもの期間を要したわけだが、その間、控訴審では、この事件の特異性を踏まえた充実した審理が行われた結果、藤井市長が潔白であることは、一審の段階より、一層明白になったと主任弁護人として確信している。
1 控訴審の審理経過と争点
本件は、唯一の直接証拠である中林の贈賄証言の信用性が否定されて原審で無罪が言い渡された事件である。
しかも、原判決は、中林証言の不自然性、不合理性を指摘したことに加えて、「贈賄供述をすることで、捜査機関の関心を他の重大な事件に向けて融資詐欺の捜査を止めることが、自己の量刑上有利に働くとの期待が、意図的な虚偽供述の動機となった可能性」を指摘した。一方で、自己の裁判では全面的に公訴事実を認めていた中林に対しては、本件一審判決に先立って実刑の有罪判決が言い渡されて確定していた。
このような事件で、控訴を申立てた検察官にとって、上記のような理由で中林証言の信用性を否定した判決に対する最も有効な反論・反証の方法は、既に実刑判決が確定し、贈賄証言を維持することによる量刑上のメリットがなくなっている中林の控訴審での証人尋問を請求し「贈賄が真実である」旨証言させて、「意図的な虚偽供述」を否定させることだ。
しかも、中林の立場からすれば、贈賄を証言した結果、自らは贈賄も含めて実刑の有罪判決が確定し、他方で、藤井市長に対しては、中林が意図的な虚偽供述を行った可能性を指摘する一審判決が言い渡されたことを知れば、到底承服できないと考えるはずであり、自己の証言が偽証の疑いを受けることを避けるためにも、検察官に積極的に協力を申し出て、無罪判決に対する控訴を希望するのが当然である。
ところが、検察官は、なぜか中林の証人尋問請求は行わず、控訴趣意書で、①「中林証言を離れて、間接証拠によって認定できる間接事実から現金の授受の存在が推認される」、②「捜査段階において、中林供述がなされ順次その後裏付けがとれるという経過から虚偽供述の可能性が否定される」と主張するなど、「中林証言とは離れた主張立証」を行ってきた。
なぜ、中林証人尋問請求という、検察官にとって最も有効な反論・立証を行おうとしなかったのか(その事情は、後に、控訴審の審理の中で明らかになる)。
その代わりに主張してきた①、②は、控訴趣意書が、一審の論告などと較べると、文章の質も高く、論理的で説得力があったので、読んだ者の多くが「逆転有罪の可能性がある」と思うものだったが、その内容を精査してみると、そこには多くの「ごまかし」「すり替え」「事実の歪曲」があった。
①について言えば、そもそも、贈収賄事件というのは密室の犯罪であり、収賄側が否認している場合には、贈賄供述が唯一の直接証拠となり、その公判証言の信用性が最大の問題になるのは当然である。それとは離れて「間接証拠・間接事実」だけで現金授受が推認できるなどということは、常識的に考えてもあり得ない。
もしそのようなことが可能なのであれば、全国の都道府県警察の「捜査2課」は、贈収賄事件を山ほど摘発できるであろう。
「中林証言を離れて、間接証拠・間接事実から現金の授受が推認できる」という検察官の控訴趣意書での主張の多くが、証拠に基づいていない、或いは、事実を歪曲している。一見して、論理的で説得力があるように見えるのは、事実や証拠を勝手に作り上げているからだということは【検察控訴趣意書と東芝不適切会計に共通する「偽装の構図」】で詳述した。
検察官は、供述経過とその裏付けの関係について、「虚偽供述の可能性」を3類型に分類し、中林の供述と裏付けの関係から、経験則上それらがすべて否定されるとした。このような巧みな手法によって、控訴趣意書の文面上は、原判決が指摘した「中林の虚偽供述の可能性」が完璧に否定されたかのように思わせるものであったが、実は、そのうちの2類型は、ほとんど現実的にあり得ないものだった。必要なことは、現実的に可能性のある類型について、さらに可能性を細分化して、その有無を論じることであるのに、常識的にも可能性が考えにくい類型をわざわざ設定して、その可能性を否定することで、「虚偽供述の可能性がないこと」を殊更に印象づけようとするのである。このような検察官の論法にも、もともと無理があった。
控訴審の事実審理での検察官の立証は、②の前提としての、「中林供述がなされ順次その後裏付けがとれるという経過」の立証に主眼が置かれたが、重要な証拠は伝聞証拠であることを理由に請求却下され、中林の取調べ警察官の証言や、取調べメモなどから、検察官が設定した類型の一つの「警察官から出入金状況等の間接事実に関する情報提供を受け、中林がこれを利用して虚偽の第1・第2授受を供述した場合」について、中林の虚偽供述の現実的経過が想定できるに至った。
つまり、①②の検察官の主張から現金授受を立証することは難しい状況になり、結局のところ、「中林証言の信用性」の問題に帰着することになった。
2 中林証人尋問実施検討の示唆と検察官の対応
検察官の主張に関する事実審理が概ね終了した段階の裁判所、検察官、弁護人の三者打合せの場で、村山浩昭裁判長から、職権で中林の証人尋問を実施することを検討している旨の意向が示された。
その時の検察官側の反応は異様だった。起訴検事で、公判前整理手続、一審公判すべてを主任検察官として公判対応を行い、控訴審でもすべての公判、打合せに出席していた(野球で言えば、本件捜査・公判に全イニングフル出場していた)関口検事は、裁判長が証人尋問の実施を検討しているとの発言があった瞬間、見る見る顔が真っ赤になっていったことを、弁護人は見過ごさなかった(関口検事の顔色が変わった理由は、後に中林証言から概ね明らかになる)。担当検察官の一人である名古屋高検刑事部長は、すぐさま、「時間もかなり経過し、記憶の減退等もある」として反対する姿勢を見せた。
しかし、中林が原審の証人尋問で記憶通りに証言したのであれば、一審判決が、中林の証言の信用性を否定して藤井市長に無罪を言い渡したことは、中林にとって受け入れ難いものだったはずであり、また、それによって、中林自身が偽証の嫌疑をかけられる可能性もあるのであるから、服役中も、贈賄事件のことは決して頭から離れることはないはずである。
そのような中林にとって、もし、記憶が減退しているのだとすれば、そのこと自体が、中林の原審での証言が虚構であったことを示すものと言わざるを得ない。それなのに、殊更に「記憶の減退」を問題にする検察官の姿勢は、弁護人には理解し難いものであった。
検察官は、中林の証人尋問が実施される場合には、「証人テスト」を行うことに徹底してこだわっており、意見書でも、「裁判所が再尋問の必要があると判断する場合には検察官からも証人尋問請求する意向である」などとして、何とかして証人テストを行おうとしていた。
これに対して、弁護人は、中林の証人尋問は、既に、原審において検察官の請求によって実施されており、その際、検察官が、膨大な回数、長時間にわたる証人テストを行って、記憶の整理・喚起をした上で証人尋問が行われていること、原判決も、中林証言の信用性の評価に関して、中林と検察官との間で「相当入念な打合せ」が行われたことを指摘していることなどを理由に、検察官に証人テストを行わせるべきではないとの意見を述べた。
その後、裁判所の職権で中林の証人尋問を実施することが決定されたが、裁判所から、検察官に、証人テストは控えるよう要請があり、検察官は、これを受け入れ、証人テストを行わないことになった。中林に対しては、尋問項目のみ示した尋問事項書、尋問実施の趣旨についての説明する書面等を送付するにとどめることとなった。
この間に検察官が提出した意見書で、一審判決後、検察官が中林に接触している事実が明らかになった。中林に、一審判決の内容を伝え、控訴審での証人出廷等への協力を求めたのであろう。検察官が、控訴審で中林の証人尋問を請求しなかったことからすると、中林に協力を拒否された可能性が高い。そうなると、証人テストなしに、いきなり中林が控訴審での証人として出てきた場合、どのような証言を行うのか全く予想がつかない。検察官は、確実に追い込まれていた。
しかし、藤井市長の事件の控訴審で贈賄供述書の証人尋問が行われることになったというのは、詳しい事情を知らない人には、中林の証言の信用性を否定した一審判決を見直す方向での審理が行われているようにも思える話である。実際に、新聞記事等を見た美濃加茂市民から不安の声が上がったことを聞き、無用の不安を招くことがないよう、証人尋問は裁判所の適切な判断によるもので、中林の虚偽供述に関する真相解明のために極めて重要であること等をブログに書いたのが【検察にとって「泥沼」と化した美濃加茂市長事件控訴審】である。
ところが、5月23日に予定された証人尋問の約1ヶ月前、中林自身の裁判で弁護人を務めた弁護士が、証人尋問の1ヶ月前に、中林の供述調書・判決書等の資料を送付し、受刑中の中林と面会まで行ったという、信じられない事実が明らかになった。しかも、中林の証言内容から、中林が手に入れた「判決書」は、中林の事件のものではなく、中林の捜査段階での供述や、公判供述等が詳細に記載された、美濃加茂市長の一審判決であったのだ。



