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- 2016年07月28日 11:15
情報技術革命に思う-第二のマイクロソフトはどこに - 清水 勘
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今から遡ること27年前、私が駆け出しの社会人時代、研修先のニューヨークにある投資銀行で新しい表計算ソフトが試験的に導入された。今では信じられないが、当時のパソコン端末は1台9000ドル(当時の為替レートで120万円)。日本では4~50人の職場に1台しかなかったコンピュータであったが、その職場では従業員全員に与えられていたことが今でも思い出として残る。
導入されたソフトウェアは、マイクロソフト社「エクセル2.0」というものだった。当時、市場を席巻していた「ロータス1-2-3」は、白黒画面のシート1枚に縦横で行列が並ぶ2D(二次元)。財務諸表を作るにしても複数のシートを同時に開けないので、閉じたファイルを頭で覚えながら開いているファイルを作業するという職人技が必要であった。マウスもまだ市民権を得ていない。
これに対し「エクセル」は複数のファイルをマウスの操作ひとつで自在に操りながら演算ができる画期的なものであった。当時、これを3D(三次元)と称した。今となっては当たり前なこの仕様が、金融エンジニアリングのワークスタンダードを変え生産性を飛躍的に向上させた。米国のオフィススィートの市場シェアも、瞬く間に逆転した。その後、90年代半ばから米国はIT革命の波に乗り生産性を伸ばし、長期にわたる景気拡大期を迎えることとなる。
そのマイクロソフト社が86年に上場してから今年で30年目を迎えた。86年の公募価格は1株21ドル。その後、9回の株式分割を経て当時の1株は今や288株まで増え、株価も2倍以上に上昇した。当時の為替168円で同社株100株を買うと35万円であったが、今では、これが配当を除いても1.5億円にまで増えたという計算になる。
この間、米国の民間設備投資も大きく変容した。総務省の「ICT の経済分析に関する調査報告書」1 によれば、1986年から2013年までの米国の情報化投資は、実質ベースで14倍、民間設備投資にしめる情報化投資の比率も11.4%から38.6%と3倍以上上昇している。
資本には必ずコストが伴うことから、設備投資ではより高い生産力や収益力につながるプロジェクトが選好される。この経済計算の理屈に従うと、情報化投資が数多ある設備投資機会の中でも特に高い生産力、収益力を有していたことは、この約30年間の急激な伸びを見ても容易に想像できる。
では、情報化投資がどれだけの経済の成長に寄与したのか。パソコン、スマホ等機器やソフトの製造・販売で生み出された付加価値はGDPにも反映される。だが、情報化投資の波及効果を直接図ることは難しい。成長会計における全要素生産性がもっとも近い概念であるが、これはあくまで資本、労働の投入量の増加で説明できない残差であり情報化投資の効用を直接計測するものではない。
ただ、我々はこうした技術進歩の経済、ビジネスへの寄与を直感的に理解している。それは、テクノロジーという手段を通じて得たこれまでにない利便性である。モバイルバンキングは、利用者にとり銀行の支店に行く煩わしさを軽減し、銀行にとっては支店維持コスト削減、収益向上に繋がる。情報インフラの普及でオンラインを活用したPeer to Peer型ビジネスが生まれ、Uber、Airbnb などの所謂シェアリングエコノミー/オンデマンドエコノミーは休眠動産・不動産の有効活用という新たな価値を創造する。
反面、テクノロジーを介した新しい経済活動やビジネスが、今までにない利便性や高い生産性を発揮すると、既存ビジネスや雇用に影響が及ぶ。IT導入によってITが最も代替し易いとされる定型業務職種(中間スキル層)の減少や、アマゾンの台頭による有店舗型の家電量販店・書店の減少などはその一例である。事実、米国ではこれまでほぼ一緒に連動していた生産性と労働者数の伸びが2000年以降連動しなくなった。生産性が伸びる一方で雇用者数が伸び悩む「グレート・デカップリング 」2という現象である。ほぼ同時期に進行した経済のグローバル化とテクノロジーの浸透が背景にあるといわれている。
新技術が職を奪うという考えは、ケインズも「技術的失業」3 として指摘していた。技術革新により生産性があがれば、必要とする労働力は減る。余った労働力は労働移動で解消されるが、技術革新のペースが速すぎると一時的に失業が増える。ただ、技術革新による生産性向上は、いずれ賃金の上昇につながり新たな需要と雇用を生むことから、失業もいつかは解消される。産業革命の時は、機械の台頭で失業を恐れたイギリスの労働者がラッダイド運動という機械破壊運動を起こしたり、社会主義運動が生まれたりしたが、長期的な趨勢でみれば雇用も拡大し賃金も上昇し社会の富は増えた。
導入されたソフトウェアは、マイクロソフト社「エクセル2.0」というものだった。当時、市場を席巻していた「ロータス1-2-3」は、白黒画面のシート1枚に縦横で行列が並ぶ2D(二次元)。財務諸表を作るにしても複数のシートを同時に開けないので、閉じたファイルを頭で覚えながら開いているファイルを作業するという職人技が必要であった。マウスもまだ市民権を得ていない。
これに対し「エクセル」は複数のファイルをマウスの操作ひとつで自在に操りながら演算ができる画期的なものであった。当時、これを3D(三次元)と称した。今となっては当たり前なこの仕様が、金融エンジニアリングのワークスタンダードを変え生産性を飛躍的に向上させた。米国のオフィススィートの市場シェアも、瞬く間に逆転した。その後、90年代半ばから米国はIT革命の波に乗り生産性を伸ばし、長期にわたる景気拡大期を迎えることとなる。
そのマイクロソフト社が86年に上場してから今年で30年目を迎えた。86年の公募価格は1株21ドル。その後、9回の株式分割を経て当時の1株は今や288株まで増え、株価も2倍以上に上昇した。当時の為替168円で同社株100株を買うと35万円であったが、今では、これが配当を除いても1.5億円にまで増えたという計算になる。
この間、米国の民間設備投資も大きく変容した。総務省の「ICT の経済分析に関する調査報告書」1 によれば、1986年から2013年までの米国の情報化投資は、実質ベースで14倍、民間設備投資にしめる情報化投資の比率も11.4%から38.6%と3倍以上上昇している。
資本には必ずコストが伴うことから、設備投資ではより高い生産力や収益力につながるプロジェクトが選好される。この経済計算の理屈に従うと、情報化投資が数多ある設備投資機会の中でも特に高い生産力、収益力を有していたことは、この約30年間の急激な伸びを見ても容易に想像できる。
では、情報化投資がどれだけの経済の成長に寄与したのか。パソコン、スマホ等機器やソフトの製造・販売で生み出された付加価値はGDPにも反映される。だが、情報化投資の波及効果を直接図ることは難しい。成長会計における全要素生産性がもっとも近い概念であるが、これはあくまで資本、労働の投入量の増加で説明できない残差であり情報化投資の効用を直接計測するものではない。
ただ、我々はこうした技術進歩の経済、ビジネスへの寄与を直感的に理解している。それは、テクノロジーという手段を通じて得たこれまでにない利便性である。モバイルバンキングは、利用者にとり銀行の支店に行く煩わしさを軽減し、銀行にとっては支店維持コスト削減、収益向上に繋がる。情報インフラの普及でオンラインを活用したPeer to Peer型ビジネスが生まれ、Uber、Airbnb などの所謂シェアリングエコノミー/オンデマンドエコノミーは休眠動産・不動産の有効活用という新たな価値を創造する。
反面、テクノロジーを介した新しい経済活動やビジネスが、今までにない利便性や高い生産性を発揮すると、既存ビジネスや雇用に影響が及ぶ。IT導入によってITが最も代替し易いとされる定型業務職種(中間スキル層)の減少や、アマゾンの台頭による有店舗型の家電量販店・書店の減少などはその一例である。事実、米国ではこれまでほぼ一緒に連動していた生産性と労働者数の伸びが2000年以降連動しなくなった。生産性が伸びる一方で雇用者数が伸び悩む「グレート・デカップリング 」2という現象である。ほぼ同時期に進行した経済のグローバル化とテクノロジーの浸透が背景にあるといわれている。
新技術が職を奪うという考えは、ケインズも「技術的失業」3 として指摘していた。技術革新により生産性があがれば、必要とする労働力は減る。余った労働力は労働移動で解消されるが、技術革新のペースが速すぎると一時的に失業が増える。ただ、技術革新による生産性向上は、いずれ賃金の上昇につながり新たな需要と雇用を生むことから、失業もいつかは解消される。産業革命の時は、機械の台頭で失業を恐れたイギリスの労働者がラッダイド運動という機械破壊運動を起こしたり、社会主義運動が生まれたりしたが、長期的な趨勢でみれば雇用も拡大し賃金も上昇し社会の富は増えた。



