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乃木坂46が求めた「コンセプト」 - 乃木坂46論 第7回

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ファッション・舞台・映像――乃木坂46が育む3本柱

 実質的な指針になりうるコンセプトが見えないまま発進した乃木坂46は、それでもアイドルグループのキャリアとして見るならば、順調にすぎる速度で歩みを進めている。デビューからリリースを追ってCD売り上げを伸ばし、この4年あまりを通じて右肩上がりを継続、今年3月リリースの14枚目シングル「ハルジオンが咲く頃」は80万枚を超えるセールスを記録した。そうした乃木坂46の快進撃を支えたのは、前述してきたような当初の「コンセプト」にまつわるすっきりしなさとは、ほとんど関係のない次元での施策だった。

 とりわけ、ここ1、2年の乃木坂46に特徴的なのは、ほかのアイドルグループとの差異化戦略を各方面で花開かせていることだ。まずマスに向けた方策として、特に2015年頃から目立っているのが、女性向けファッション誌のモデルにメンバーが相次いで登用されていることである。15年序盤に、齋藤飛鳥が「CUTiE」専属モデルに(同誌休刊にともない、同じ宝島社刊の「sweet」モデルへ異動)、西野七瀬が「non-no」(集英社)専属モデルに、橋本奈々未と松村沙友理が「CanCam」(小学館)専属モデルにそれぞれ起用された。これらの専属モデルラッシュは、この年の乃木坂46の社会的な認知度の上昇と相まった、ファッション方面での勢いを象徴する出来事だった。

 ただ、こうしたファッション方面との関わりは乃木坂46の知名度上昇に応じて急造的に用意されたものではない。メンバーの白石麻衣がファッション誌「LARME」(徳間書店)創刊に際してモデルに起用されたのは乃木坂46デビューの2012年のこと。そのあと、特有の世界観で比類ないポジションを獲得した「LARME」の躍進とともに、白石は同誌の代表的なモデルの一人になり、また13年からは「Ray」(主婦の友社)のモデルも兼ねながら、グループのファッション面をリードするメンバーになった。乃木坂46運営委員会委員長の今野義雄がかねてから語るように、結成前、すでにオーディションの時点で、メンバー選びはファッション方面との関わりを意識してなされている。そうした結成以降の種まきの成果が、デビューから3年を経過した15年の専属モデルラッシュにつながり、また同年秋冬には齋藤飛鳥・斉藤優里・北野日奈子のファッションブランドANNA SUIのアジア圏ビジュアルモデル起用へと展開していく。近年、グループアイドルシーンの活況継続を受けて、アイドルグループのメンバーがファッション雑誌に多数起用される流れが生まれているが、乃木坂46がその中心に立つことができているのは、こうした一貫した方策の実りといえる。

 あるいは、本連載が継続的に考察してきた舞台演劇への傾斜についていえば、デビューから3年間継続した実験的な演劇企画「16人のプリンシパル」(「第2回 乃木坂46の奇妙な演劇」を参照)を経て、2015年には本格的な舞台公演へと発展、漫画原作の2.5次元舞台『じょしらく』と、ケラリーノ・サンドロヴィッチ作の『すべての犬は天国へ行く』を上演し、独自のステップを積み重ねている(「第4回 乃木坂46が「内と外」をつなぐ最新舞台公演」を参照)。

 そうした舞台公演への継続的な志向は、メンバー個人の外部舞台参加にあたっても、出演作品の幅広さとなって現れる。大規模な商業劇場のミュージカルから2.5次元舞台、あるいは小劇場系作品のマスターピースまで、生田絵梨花や若月佑美、桜井玲香、井上小百合らのメンバーを筆頭に、乃木坂46は数年がかりで多方面の演劇作品とのリンクをはかっている。

 さらに、前回考察したように、乃木坂46特有のコンテンツである個人PVを代表として、映像作品に対する志の高さも、デビューシングルから今日まで変わらず継続してきたことによって、アイドルグループとしては卓越的な評価を得るに至っている(「第6回 乃木坂46が紡ぐ「個人PV」という織物」を参照)。

 ファッション、舞台演劇、映像コンテンツ。現在、乃木坂46が独自の強みとしてもつこれらに共通するのは、知名度の上昇につれて急ごしらえでセッティングされたものではなく、グループ発足当初から一貫した方針をもって育まれてきたということだ。であるならば、グループの基調を形成するという意味で、それは実質的に「コンセプト」と変わらない。しかし、この各側面はグループのこだわりとして言及されたことはあっても、「AKB48の公式ライバル」のような明快な旗印のもとでおこなわれてきたことではなかった。それらはあまりに自然に、そしてあまりに着実に歩みが積み重ねられたその結果として、いわばあとから姿を現したコンセプトのように乃木坂46の現在を支えている。

それでも求め続けた「らしさ」

 特に2015年以降、こうした各方面での飛躍的な成果は、グループのカラーを明確にし、乃木坂46のブランディングを確固たるものにした。初めから大々的に与えられたコンセプトに主導されるという道のりではなくとも、一貫したクリエーションによってあとから導かれたグループの特性は、もはや揺るがないものになりつつある。

 興味深いのは、社会的な知名度も上昇しグループとしての強みも特徴も定めることができたこの2015年にあって、乃木坂46自身はなお、己を見つけられずにいるような振る舞いを見せていたことだ。その迷いは、しばしば用いられた「乃木坂らしさ」というフレーズに象徴されていた。この「乃木坂らしさ」というフレーズが現れるとき、それは常に、その内実が不明なものとして存在した。己の個性を誇るためではなく、正解が定かでない問いを自らに投じるために繰り返される「乃木坂らしさ」という言葉は、やがて手垢がついた語句になり、ついには15年夏の全国ツアー全体のテーマにも据えられる。この年の全国ツアーでは、公演の最中にメンバーが「乃木坂らしさ」を問い、模索する言葉を紡ぐ時間も設けられていた。「らしさ」について執拗に問い続けるさまを受け、公演を終えたタイミングでおこなわれたメンバーインタビューで、乃木坂46を追い続けてきたライターの大貫真之介は、「今回のツアーでは「乃木坂らしさ」がテーマになっていましたけど、「らしさ」を求められるグループは決して多くないと思うんですよ」と投げかける。これに対してメンバーの生田絵梨花と西野七瀬は、

 生田 取材でも「乃木坂らしさ」をよく聞かれるんですけど、それはAKBさんが先に存在するから、じゃあ乃木坂は何が違うんだろうと思われているわけで。どう答えていいのかわからない部分があったけど、4年目に入った私たちが考える「乃木坂らしさ」を表現していこうというのが今年のツアーの目的でした。

西野 「乃木坂らしさ」に明確な答えはないと思うんですけど、いまの乃木坂メンバーは一生懸命やっていることを観た人が「乃木坂らしい」と感じてくれたらいいんじゃないかなと思います。(「月刊エンタメ」2015年11月号、徳間書店)

と返している。これほどに巨大なグループになり、複数の分野に明確な武器をもつことでブランディングを獲得した段階であるにもかかわらず、「乃木坂らしさ」という言葉はいまだ、揺るぎない矜持をもって積極的に提示するというよりは、ためらいがちに受け手に委ねるものとして位置づけられている。

 ただし、それはおそらく、無自覚や自信の欠落を意味するものではない。あらかじめ内容をもたない「AKB48の公式ライバル」というコンセプトを背負わされてスタートした乃木坂46は、何ももたない段階からオリジナルの「らしさ」(≒コンセプト)を問われ続けるほかなかった。そして、「AKB48の公式ライバル」に具体的な道筋が用意されていないだけに、ライバルの根拠として何を代入しても、正解めいたものになりようがなかった。だからこそ、今日のアイドルシーンのなかでも最も順調といえる現状をもってなお、乃木坂46が手にしているのは、大々的に喧伝される一大コンセプトという意味での「らしさ」ではないのだろう。各方面の活動にあたって地道に種をまき、花開いた結果としてのアウトプットの充実度がいつしかブランドとして定着した彼女たちの場合、題目としてのコンセプトはもはや不要なのかもしれない。

乃木坂46が姉妹グループに宿したコンセプト

 しかし、乃木坂46が4年以上をかけて積み上げてきたその足跡は、やがて別の場所に新たなコンセプトを植え付けた。冒頭でその鮮烈なインパクトについて語った、欅坂46がそれである。もちろん、ここで植え付けられたものとは、乃木坂46が培ってきたブランディングの方法論を下敷きにしてスタートできるという、欅坂46の環境そのものを指してもいる。たとえば、乃木坂46が模索しながら築いてきたファッション方面との相性のよさを、欅坂46は姉妹グループとして踏襲しながら進むことができるだろう。あるいは、乃木坂46同様にシングル発売に際してはメンバー全員分の個人PVが制作され、新たな映像作品の実験場を生み出している。

 そしてまた、グループとしてのパフォーマンスレベルで考えたとき、欅坂46の振り付けに宿されているのは、乃木坂46が切り拓いてきた演劇的志向である。すでにみた「サイレントマジョリティー」では、隊列を思わせる統制的な動きで、センターの平手友梨奈が隊列をコントロールする権威者のように立ち振る舞い、サビに向かうほどに個々が自我の胎動を示す動きをもって統制を打破していく、ストーリー性を色濃く感じさせる振りを採用している。このようなドラマ的な振り付けは、デビューシングルのほかの全員参加曲「キミガイナイ」「手を繋いで帰ろうか」でも貫かれている。歌詞に現れるグスタフ・マーラーのイメージに導かれて、前奏でメンバーが渡辺梨加を水平に担ぎ葬送をイメージさせる図を形成する「キミガイナイ」にせよ、菅井友香と守屋茜の2人がカップルのストーリーをコミカルに演じながら、ほかのメンバーがときに物語を補助するコロスのように立ち回る「手を繋いで帰ろうか」にせよ、そこに見られるのはきわめて演劇的な振り付けの数々である。デビューシングルの楽曲群を貫くそれらのドラマチックな振り付けは、欅坂46が表現しようとする世界観を立体的なものにしている。振り返れば、こうした演劇的表現は、乃木坂46が模索しながら開拓し、舞台演劇への強い志向やドラマを作り込むスタイルのMV群など、グループ独自の武器に落とし込んできたものだ。そのエッセンスは欅坂46のクリエーションにフィードバックされ、デビューシングルにして乃木坂46が重ねてきた試行の応用篇を上演して見せているのだ。

 コンセプトなき道を歩いた乃木坂46の足跡は、それ自体がグループの基調となる、「遅れてきたコンセプト」へと昇華されていった。そして、乃木坂46が築いたこの財産は、後進グループである欅坂46の出色のクリエーションに確かに受け継がれている。

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