- 2016年07月26日 13:26
沖縄県知事の馬毛島視察が新たな火ダネに - 織田重明 (ジャーナリスト)
参議院選挙が終わるのを待ち構えていたかのように、沖縄の基地問題で政府が攻勢に出ている。
米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設問題をめぐって、7月22日、政府は埋め立て承認を取り消した沖縄県の翁長雄志知事に対し、撤回を求める政府の是正指示に従わないのは違法だとの確認を求める訴訟を福岡高裁那覇支部に起こした。政府と沖縄県は今年3月にいったん和解したが、再び法廷闘争へと突入したことになる。
さらに、同じく22日の早朝、沖縄本島北部の東村高江地区周辺で、ヘリパッドの着工に踏み切った。このヘリパッドは米軍北部訓練場内に設置されるもの。北部訓練場は7500haという広大な面積を持つ、沖縄最大の米軍施設だが、すでに過半にあたる4000ha近くが返還されることが決まっている。ただし、その条件がヘリパッドの完成だ。これまでにも、沖縄防衛局では工事を進めようとしてきたが、反対派によって道路が塞がれ資材の搬入ができないため、これまで中断していた。
政府は、22日以降、沖縄だけでなく全国から機動隊を投入。反対派を排除した上で、工事を進めている。参院選の沖縄県選挙区で自民党候補が敗れたということもあり、もはや遠慮は無用ということなのであろう。
翁長知事が訪問した「馬毛島」
動きをみせたのは、政府側だけではない。今月18日、沖縄県の翁長知事が鹿児島県にある無人島を視察した。種子島の沖、12キロにある馬毛島である。
翁長知事の視察の様子について触れる前に、まずこの島についてざっと説明しよう。馬毛島は、在日米軍の再編計画に基づき、米海軍の空母の艦載機F/A-18の部隊が神奈川県の厚木基地から山口県の岩国基地に移転するのに合わせて、離着陸訓練を実施する場所として、地権者である都内の建設会社の会長と防衛省が長年にわたり交渉を続けてきた島である。
2011年6月に行われた日米の外相・防衛相による2+2協議で発表された共同声明でも、「米軍の空母艦載機離発着訓練の恒久的な施設として使用される」と明記。この島を訓練場とすることは、アメリカ政府に対する公約となっている。
ただ、地権者と防衛省の交渉はうまく進んでいない。地権者は島を基地として利用することには同意しているものの、賃貸とするのか、一括で売買とするのかなど、条件面をめぐり双方の立場が噛み合わず、いたずらに時間ばかりかかって交渉は暗礁に乗り上げてしまっていた。
おおさか維新の主張
この島が再び騒がしくなったのは、今年の参院選前の5月。おおさか維新が、「普天間の5年以内の閉鎖状態」を実現するために、馬毛島を活用すべきだと主張したからだ。
「普天間の5年以内の閉鎖状態」とは、2013年12月に当時の仲井真知事が辺野古の埋め立ての承認の直前に、政府に提出した要望書のなかに盛り込まれたもので、安倍晋三首相はこれに「最大限実現するよう努力したい」と答えている。
いわば、政府と沖縄県の約束にあたる。
ただし、ご存知のとおり、辺野古の工事をめぐっては、国と県が裁判、和解、裁判という手順を踏むなどして時間がかかっており、とても「5年以内」にあたる2018年までの完成に間に合わない。
そのため、普天間のオスプレイ部隊の訓練を馬毛島で行えば、負担軽減につながり、閉鎖に近い状態とできるのではないか、というわけだ。おおさか維新の下地幹郎衆議院議員らは、この案を5月には沖縄県の安慶田光男副知事らに伝え、県からも政府に対して要望するよう求めていた経緯がある。
それを受けて行われたのが、19日の翁長知事による視察である。
知事と県職員合計4人の一行は、チャーターしたヘリで馬毛島に到着。取材した記者によると、翁長知事が案内役の地権者とともに島内を見てまわり、馬毛島から近い有人島である種子島や屋久島までの距離や、何メートルぐらいの滑走路をひくことができるのか、などを質問するなどしていたという。
百聞は一見に如かず
馬毛島がある鹿児島県側では、知事の急な視察に対して、沖縄の負担をこちらに押しつけるのかと不安や反発も広がっていることもあって、記者らは視察の目的や知事の真意を質問しようとするが、なかなか答えようとしない。島の印象を聞いても、「百聞は一見に如かずですね」と繰り返すばかりだったという。
それでも、1時間半の視察を終え、ヘリに乗って帰る直前に、「2、3問だけ答える」と取材に応じ、地元自治体が知事の視察に不快感を示しているがどうかとの質問に、「それは十二分に理解できるが、沖縄に基地負担を押しつけていいのか」と答え、さらに「政府は『辺野古移設が普天間の唯一の解決策』というが、本当にそうなのか。他には可能性がないのか。これからも見るところがあれば、全国いろんなところに見に行きたい」と述べたという。
これから分かることは、翁長知事は、馬毛島を普天間のオスプレイの部隊の訓練の分散先として考えているのではなく、普天間の部隊そのものの移設先として辺野古に代わる案として馬毛島を提起しようという意図を持っているということである。
これは、翁長知事が那覇空港に戻り、沖縄のメディアの記者に取り囲まれると、よりいっそう鮮明に述べている。
記者「これまで沖縄県は移設先については国が決めるべきという立場だったが、今後は県側からも移設先を提案していくということか」
知事「『辺野古が唯一』ということは、その経過から含めて私どもからすると納得のできないことであります。(中略)地元への配慮を抜きにすれば、辺野古を160ヘクタール埋め立てることと比べ、(馬毛島は)どうかということがある。他の都道府県にもそのような場所はあると思う。辺野古が唯一という言葉は外してほしい」
翁長知事の馬毛島視察と、その後の発言を受けて、早速、沖縄の地元紙では、普天間の移設先は他にも選択肢があるのではないかとの報道が相次いだ。例えば、『琉球新報』の7月20日付社説では、「(知事の視察は)政府が『唯一の解決策』とする名護市辺野古以外にも、移設候補地は国内にあるとの問題提起である。辺野古が『唯一』ではないことを政府に突き付け、撤回させる手段の一つとみるべきだ」としている。http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-319544.html
議論のすり替え
これまでに述べてきたように、おおさか維新が提案したのは、普天間のオスプレイの訓練を馬毛島に分散させてはどうか、との考え方だったが、もはや沖縄では、「馬毛島で訓練ができるのであれば、部隊そのものも辺野古ではなく馬毛島に移せばいいのではないか」といったぐあいに、議論がすり替わっているのだ。
この状況を防衛省幹部はこう見る。
「『辺野古移設を絶対に阻止する』と主張する知事に対しては、『対案を出さずに反対と叫んでいるだけ。知事の主張どおりにすれば、普天間の固定化につながる』との批判が少なくありません。今回の知事の馬毛島視察は、辺野古以外の可能性、とりわけ県外移設に向けて取り組んでいるんだというアリバイ作りの思惑があるのではないでしょうか。議論のすり替えは意図的なものではないかと勘繰りたくなります。
現実には馬毛島に普天間のオスプレイ部隊を移転させることは、部隊運用上の問題などから米軍が同意するとは到底思えず、実現可能性はないに等しく、知事もそこは分かっているはずなのですが……。」
民主党政権時代に鳩山由紀夫元首相の『最低でも県外』発言が、沖縄の県民世論を県外移設に向けて沸騰させたように、翁長知事による馬毛島視察が新たな火ダネとなってしまうかもしれない。
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