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日独伊はなぜ脱原発に向かうのか - 馬場正博

奇妙な歴史の附合が繰り返されています。第二次世界大戦で連合国側と戦った枢軸国側の中心だった日本、ドイツ、イタリアが今度は脱原発に向かおうとしています。

福島第一原発の事故を契機に、いったんは脱原発路線から転換したドイツは再び2020年までの原発完全廃止に向かうことが政府決定されました。イタリアは主要先進国の中で唯一原発の稼働していない国でしたが、国民投票で原発建設を行うことを改めて否決しました。

日本は政府レベルの決定が何も行われていないものの、定期点検で停止された原発の再開が認められなければ来年中には全ての原発が停止状態となります。現在でも54基の原子炉のうち事故を起こした4基を含め3分の2は停止しています。政策決定のないまま日本の全原発が停止する可能性は小さくはありません。

原発を停止する代償は小さくはありません。原発を持たないイタリアの電力料金はヨーロッパでも最高の水準で、しかも停電の頻発など安定性でも問題があります。ドイツは大量の電力を原発大国のフランスから輸入していますが、輸入量の一層の増大や石炭火力への移行で対応していくことになるでしょう。

自然エネルギーを脱原発の切り札のように考える人も多いのですが、控え目な言い方でも短期的には不可能、中長期的にも極めて困難と言わざるえません。

日本の年間の発電量は約1兆キロワット時(kWh)です。1kWhの発電コストは5‐10円くらいなのですが、太陽光発電は夜間発電ができないことを無視しても、kWhあたり30−40円程度です。1兆kWh全てを太陽光で置き換えればコスト増は年間で20兆円以上になります。

原発に対して放射性廃棄物の処理費用が廃炉を含めれば何十兆円にもなるとの指摘がありますが、これは50年、60年という単位の話です。1年20兆円で50年分は1千兆円にもなります。自然エネルギーは原発を含め既存電力の代替の主役には到底成りえないのは明らかです。

日本もドイツもイタリアも経済人は脱原発には反対しています。コスト増を招き、産業の競争力を弱め、国民の負担を増大させるからです。それでも脱原発に日独伊三国が向かうのは何か歴史の附合以上意味があるのでしょうか。

単なる偶然ではなく日独伊三国に共通する脱原発に向かう要因はあるでしょうか。まず、当然ですが三カ国とも枢軸国として第二次世界大戦で敗れたという事実があります。この結果、国連(英語では連合国と同じUnited Nations)の中では常任理事国として特別の地位を与えられることはなく、核兵器も保有していません。

原発なしで原爆は考えられませんし、原発を作る技術を原爆に転嫁することは日本やドイツのような高度の工業国にとっては極めて容易と考えられます。原発と原爆は表裏一体と言うのは、必ずしもは反原発派のプロパガンダとばかりは言えません。

核保有国の国民は核兵器に反対しているのでしょうか。民主主義国家は多様な意見を許容しますが、自国の核兵器を廃絶しようとした政党が政権を取ったことはありません。核保有国の国民は少なくとも自国だけ核兵器を放棄しようとは考えていません。

核兵器との連関性が原発反対の理由になるのと逆で、核保有国の国民は原発に反対しにくい面があります。「核反対」は国民の多数を束ねるスローガンにはならないのです。

とは言っても、原発の危険性は核保有国であろうとなかろうと同じはずですし、実際雨エリカやフランスにでも根強く原発に反対する意見はあります。アメリカでもスリーマイル島の事故以来新しい原発の建設認可は与えられていません(誤解されることが多いのですが、事故後も建設は既に与えられた認可に基づき行われ続けています)。

しかし、核保有国は自国の防衛の要が核兵器だと国民が思っている間は原発全廃に国民全体が向かうことはないでしょう。オバマ大統領が提唱した「核廃絶も」も実態は核保有国の「これ以上核保有国を増やすな」という核保有国の利己主義を言い変えただけとも言えます。

第二次大戦から66年を経て、世界は再び戦勝国だった核保有国と脱原発に向かう敗戦国の二色に分かれようとしているようです。

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