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バブル後の長期停滞は、日本人の勤勉と倹約が原因だった 黄金時代(2) - 塚崎公義 (久留米大学商学部教授)

 皆が正しいことをすると、皆が酷い目に遭うことがあります。銀行破綻の噂を聞いた人にとって、正しい行動は直ちに預金を引き出すことですが、皆が預金を引き出そうとすると、銀行は本当に破綻してしまい、ほとんどの預金者は損をします。こうしたことを「合成の誤謬」と呼びますが、バブル崩壊後の日本経済の長期停滞も、合成の誤謬が原因だったのです。今回は、これについて考えてみましょう。

日本人は勤勉に働き、倹約に努める素晴らしい人々

 日本人は勤勉です。かつて日本製品が世界を席巻していた頃、妬んだ外国人から「日本人はウサギ小屋に住む働き中毒だ」と揶揄されていたものですが、勤勉が素晴らしいものであることは、言うまでもありません。倹約家であることも、素晴らしいことです。浪費より倹約の方が良いに決まっています。

 江戸時代までの日本では、勤勉に働き倹約に努めることが、生きていくための条件でしたから、「正しい事が良い結果につながった」わけです。明治以降、バブル崩壊までは、人々が勤勉に働いて多くの物を作り、倹約に努めて消費を控えたから設備投資機械が数多く作られて経済が発展したのです。資金面から見ると、人々が勤勉に働いて倹約をして貯金をしたから、銀行が人々から預かった資金を設備投資資金として融資することが出来たのです。ここでも「正しい事が良い結果につながった」わけです。

皆が勤勉と倹約に努めると、売れ残りが発生し、失業が増える

 しかし、バブルが崩壊してみると、設備投資需要は小さくなってしまいました。そうなると、物が余るようになったのです。皆が勤勉に働いて大量の物を作り、皆が倹約に努めて物を買わないのですから、当然のことです。そこで、売れ残った物を外国に売ろうとしましたが、それには限度がありました。

 日本が巨額の輸出をすると、まずは貿易摩擦として外国政府の怒りを買ったのです。加えて、輸出企業が持ち帰ったドルを売りに出すため、ドル安円高になり、輸出採算が悪化しました。つまり、売れ残った物を無限に外国に売り続ける事は出来ないのです。

 そうなると、企業は生産を減らしますから、雇用も減らします。そうなると、失業が増えます。この失業の増加こそが、バブル崩壊後の日本経済の諸悪の根源だったのです。

デフレスパイラルの原因は失業だった

 バブル崩壊後の日本経済は、デフレスパイラルに陥っていたと言われています。消費者物価統計を見ると、それほど下がっているわけではありませんが、「消費者物価統計というものが、統計作成上の諸問題によって物価上昇率が高めに出る傾向がある」という事を考慮すれば、たしかにデフレスパイラルだったと言えるでしょう。

 失業者が多いと、彼等は消費を抑えますから物が売れなくなり、物の需給が緩んで物価が下がります。ディマンド・プル・インフレの反対ですね。また、失業者が多いと、労働力需給の緩みによって賃金が下がります。そうなると、サービス産業などで値下げ競争が起こります。コスト・プッシュ・インフレの反対ですね。要するに、失業はデフレの源なのです。

 デフレになると、物が売れなくなります。人々が更なる値下がりを予想して買い控えを行なうようになるからです。設備投資も手控えられるでしょう。借金をして工場を建てたとして、製品価格はデフレで下がっていくのに借金は減って行かないのでは、採算を採るのが難しいからです。要するに、デフレになると景気が悪くなるのです。そうなると失業が増えて、さらなるデフレを招くことになります。スパイラル(悪循環)ですね。

 これは、「実質金利が高くなるから」という説明も可能です。実質金利というのは、金利から物価上昇率(厳密には予想物価上昇率)を差し引いた値のことです。これが設備投資などを考える際に重要なのです。物価が20%上昇している国で金利が10%であれば、人々は喜んで借金をして投資を行うでしょうし、買い急ぎも行うでしょう。一方で、金利がゼロでも物価が下がっている国では、人々は買い控えをして貯金に励むでしょう。要するに、金利を見る際には物価上昇率との対比で見ないと、景気への影響はわからない、という事なのです。

財政赤字の元凶も失業だった

 失業が増えると、失業対策として公共事業が行われるので、財政赤字が増えます。それだけではありません。増税しようとすると、「増税をしたら景気が悪化して失業が増える。失業対策として公共投資が増えるから、財政赤字がかえって増えてしまう」といった反対論が高まります。

 これは、増税が嫌だから言い訳として言っている論者もいるでしょうが、本当に財政赤字を心配している論者もいるでしょう。実際、増税で景気が悪化して、財政がかえって悪化したと考えられる事例も見られているのです。行政コストの削減も同様です。行政コストの削減は、失業に直結する場合もあるので、増税以上に抵抗が強い場合もあるでしょう。

少子化の一因も失業だった

 失業者が多いので、企業は正社員として労働者を囲い込まなくても、何時でも安い非正規労働者が確保出来ました。そこで、企業は正社員を非正規社員で置き換えて行ったのです。非正規労働というのは、従来は主婦や学生の小遣い稼ぎが中心でしたから、時給が低くても社会問題にはなりませんでしたが、これで生計を立てようとする人が増えてくると、「ワーキング・プア」の問題が出てきます。

 ワーキング・プアは、自分の生活が苦しいだけでなく、結婚相手を見つける事が難しかったり、子供を産む事を諦めたりするケースが少なくないのです。こうして考えると、少子化が進んだ一因は失業者が多かったことだ、と言えるわけです。

 子どもが減ると、育児用品などの需要が落ち込みますから、景気が悪化します。したがって、これも少子化と不景気のスパイラルになっていた、というわけなのです。

【参考記事】

 本稿によって、勤勉と倹約によって物が余ったことが、長期停滞の原因であることが御理解いただけたと思います。しかし今後は、少子高齢化により労働力が不足し、物が余らなくなります。そうなると日本経済の様々な問題が一気に解決して黄金時代が来るかも知れません。そのあたりは下記の拙稿を御覧いただければ幸いです。

 また、勤勉と倹約が問題を引き起こすことを御子様にも御理解いただくため、アリ国とキリギリス国の物語にしてみましたので、よろしければ御子様たちに下記の拙稿を御紹介いただければ幸いです。

少子高齢化で日本経済が迎える黄金時代

アリとキリギリスで読み解く日本経済

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