東京都知事選挙では、鳥越俊太郎を勝たせたいと思う。野党統一の候補だからというのもあるが、以前から何度かナマの講演を聞いて、信頼できる人だと思っていた。都知事が変っただけで日本の政治が劇的に変ることもないだろうが、首都東京のトップが、安倍政権への批判的立場を明確にしている人物に変ることの意味は、決して小さくはないと思う。参議院選挙の延長戦として、東京から代表を選ぶと考えてもいい。
東京では1967年から1979年(昭和42~54年)まで、3期12年にわたって知事となった美濃部亮吉の例がある。社会党、共産党を支持基盤として「革新都政」の時代を築いた。戦前の憲法学者で「天皇機関説」による受難で知られる美濃部達吉博士の長男であり、美濃部亮吉も著名なマルクス経済学者だった。しかしなが、人がらも弁舌も柔和でわかりやすく、NHKで放送されていた対談形式の「やさしい経済教室」は、主婦にもわかるというので、異例の人気番組になっていた。このあたりも、鳥越俊太郎と共通するところがあるように感じられる。
美濃部時代の東京都は、老人医療の無料化、公営(都営)ギャンブルの廃止など、社会主義的政策を推進する一方で、道路建設などは凍結して圧縮した。また都の職員を増やし、人件費を増加させる傾向もあった。しかし全国に先がけて公害防止条例を作り、公害局を設置するといった先見性も持っていた。たまたま前知事から引き継いだ都電廃止の実行者となったため、都電に引導を渡した知事としても知られる結果になった。
後になって石原慎太郎が知事になったとき、美濃部都政のおかげで東京の近代化が遅れたと批判されることにはなるのだが、美濃部の退陣は選挙に負けたのではなく、自らが決めた任期満了だった。東京の都民は、保守政権の下でも12年間「革新都政」を支持したと言っていいだろう。
このように当時は、大都市圏の住民は「革新的」つまり社会・共産党支持者が多いという傾向があったと思う。労働組合の力が残っていたとも言えるだろう。それに対して農村の保守的傾向も、はっきりしていた。その基盤には農協の影響力があった。
今は「保守」対「革新」という単純な構図ではない。選挙制度も変っている。しかし知事選挙のような首長の選挙だけは、昔も今も住民の意思だけで決まる。東京都といえば中小の国よりも大きいとよく言われる。政権が何であろうと、東京都だけでもできることは小さくはない。政府べったりの都政では面白くないと思ったら、少しでも面白くなりそうな人を選んでおくのがいい。この都知事選挙では、ぜひ鳥越俊太郎を勝たせたいと思う。
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- 2016年07月23日 12:08