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応援演説で、歌手が歌を歌ったら、候補者は懲役刑になる!?

 湘南平塚事務所弁護士の最所です。

 鳥越俊太郎氏の応援演説で、森進一氏が同氏の代表曲である「襟裳岬」のサビの部分を歌ったことが、公職選挙法に違反するのではないかとの指摘がなされています。また、この件について、肯定的な意見を述べている弁護士もいますが、果たしてそうでしょうか。

 刑事事件として捜査をするのかという点については、捜査機関の判断によるところもありますので、可能性が100%ないとまでは断定はできませんが、少なくとも、これだけで検察官が立件する可能性は極めてゼロに近いと思いますし、また、そうでなければならないと思っています。

 別件にはなりますが、今回の選挙に関連して、鳥越氏が刑事告訴を行ったことについては、非常に違和感がありますし、私自身、鳥越氏の「抽象的な」政策に同調するところは全くないのですが、候補者に対する感覚と公職選挙法における取り扱いは、厳に分けて考えなければならないと考えています。

 公職選挙法に違反するとの主張は、①森進一氏の歌は、経済的価値が認められる無形の財産である、②候補者が、無償で経済的価値のある歌を聴く機会を聴衆に与えることは、聴衆に物品を提供する行為と実質的に同義である、③したがって、公職選挙法が禁止する『寄附』や『財産上の利益の供与』に該当しうる、概ね、そのような主張がなされているようです。

 このような主張をされている方の根底には、公正な選挙の要請がまずあって、公正な選挙を害しない限りにおいて、政治活動が許される、すなわち、政治活動は、原則としてしてはいけないが、公正な選挙を害しない限度で、例外的に許される、そのように考えているのではないでしょうか。

 しかしながら、憲法上、政治活動の自由、表現の自由は、民主制において非常に重要な権利として保障されています。そのことを前提に、完全に自由な活動に委ねてしまうと、貧富の差等によって、公正な選挙を害してしまう可能性があることから、例外的に、ルールを決めて制限しましょう、そのルールが公職選挙法に規定された禁止規定であるというのが素直な解釈です。

 政治活動は原則自由、例外的に制限、これが基本的な憲法解釈の姿勢で、多くの弁護士の感覚だと思います。

 有名人の応援演説、例えば、石原軍団による応援演説、松山千春氏の応援しかり、これは、従前から行われてきました。  有名人の応援演説が、多くの聴衆を集める為の手段として行われてきた、このこと自体は否定はできないでしょう。

 ただ、そのことが選挙の公正を害すると、直ちにいえるのでしょうか。

 有名人の応援演説は、その候補者を有名人が支持していることを広くアピールすることで、それだけ広く支持してくれる人がいる、あるいは、候補者が幅広い人脈を有する人物である、また、有名人がその人の人格を評価してくれている、そういった点を広く候補者に訴えるための、選挙活動の一環として行われているのは事実でしょう。

 逆に、有名人の側に立った場合、これは、有名人自身の表現活動、政治活動という側面も当然に有しています。

 有名人、特に芸能人の場合、候補者の応援をするということは、それによって政治的な「色」がつくことになります。

 その意味では、芸能人自身にとって、応援演説は、重大な決断の場であるとともに、重要な表現活動の場であるともいえます。

 そのような重大な表現活動の場において、自身の才覚を発揮することを一律に禁止することが果たして妥当でしょうか。

 仮に、歌手が、応援の場において一切歌は歌ってはならないと言うのであれば、お笑い芸人が応援演説を行った場合、真面目な話をするのであれば良いが、笑いを取ってしまったらいけないとでも言うのでしょうか。

 結局のところ、応援演説を制限しようとすれば、許される範囲の線引きが非常に難しくなります。広く規制するのであれば、政党、政治家以外の応援演説自体についても禁止されなければならないということになるでしょうし、それを、国家権力の側である捜査機関が捜査の対象として摘発するというのもいかがなものかと思います。

 仮に、事前に、「森進一、応援記念リサイタル」と銘打って、人集めを行い、その場で、ほんの少しだけ、候補者が演説を行って、その後、森進一氏のリサイタルが無料で行われたというのであれば、問題視することもわからなくはありませんが、一般に広く公開された公の場で、森進一氏自身による自らの応援演説の中で、聴衆からの求めに応じ、曲の一部であるサビの部分のみを披露した、このことのみをもって、公職選挙法が禁止する『寄附』や『財産上の利益の供与』に該当するというのは、解釈としも行き過ぎでしょう。

 憲法上保障された政治活動の自由、表現の自由を、刑事罰をもって規制する、それが許容される為には、刑事罰をもってしなければ、選挙の公正が著しく害されるという特別な事情がない限り、認められるべきではありません。

 曖昧かつ抽象的な判断基準で、また、世論が求めているからという理由で、刑事罰をもって臨むということは、権力者の側による濫用の危険が常に伴います。政治的に受け入れられない主張を行っている者であるからといって、専門家が、安易に「懲役の可能性」などと主張してしまうことには、違和感を覚えます。

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