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- 2016年07月22日 23:42
特集:前代未聞の2016年共和党大会
今週はオハイオ州クリーブランドで共和党大会が行われ、ドナルド・トランプ氏が正式に大統領候補に指名されました。副大統領候補には、マイク・ペンス知事(インディアナ州)が選ばれました。これで来週は、ペンシルバニア州ピッツバーグで民主党大会が開催され、ヒラリー・クリントン前国務長官が指名を受けることになる。その先は間もなくリオ五輪が始まるので、米大統領選挙はしばし中休み期間となるでしょう。
2016年は驚くことの多い年ですが、何と言っても今年の米共和党には驚かされっぱなしです。今回の共和党大会も、前代未聞の事態がいくつも起きています。クリーブランドの「トランプ劇場」を同時進行で描いてみました。
逆に共和党側は番狂わせが少ない。少なくとも20世紀まではそうであった。第42代ビル・クリントン大統領の選挙参謀を務めたディック・モリスは、回顧録『オーバル・オフィス』の中で、共和党王朝の「後継者決定ルール」をこんな風に説明している。
① 予備選で2人が激戦となったときは、勝った側が大統領選に挑む。
② それで失敗した時は、2位だった候補者が次の機会に挑戦する。
恐るべきことに、この2つの法則だけで過去の共和党の候補者選びのほとんど説明がついてしまうのである。
1976年:予備選でフォード大統領とレーガン知事(カリフォルニア州)が対立してフォードが勝利(法則①)。だがフォードはカーター元知事(ジョージア州)に負ける。
1980年:今度はレーガンが候補者になり(法則②)、大統領に当選して2期務める。
1988年:ブッシュSr.副大統領がドール上院議員(カンザス州)と争って指名を得る(法則①)。そのまま民主党のデュカキス知事(マサチューセッツ州)を破って大統領に。
1992年:ブッシュSr.大統領がクリントン知事(アーカンソー州)に敗北。
1996年:ドール上院議員が候補者になるが(法則②)、返り討ちに遭う。
2000年:ブッシュJr.知事(テキサス州)とマッケイン上院議員(アリゾナ州)の対決になり、ブッシュが勝つ(法則①)。本選ではゴア副大統領を破って大統領を2期務める
2008年:2000年にブッシュJr.に敗れたマッケインの出番(法則②)。ロムニー元知事(マサチューセッツ州)を破って候補者に。本選ではオバマ上院議員に敗れる。
2012年:前回敗れたロムニーの出番(法則②)。本選でオバマに敗れる。
2016年:今まで全く無関係だったトランプ氏が候補者に。
つまり共和党は、大統領候補者の「正統性」を重んじる伝統がある。端的に言えば、「前回の予備選における次点候補者」の地位が高い。それが多少、年を取っていても問題はなくて、現にレーガン(69歳)、ドール(72歳)、マッケイン(72歳)といった高齢者を本選挙に送り出している。
こうしてみると、2016年予備選の異常さがよくわかる。本来なら今年の共和党候補者は、2012年にロムニー候補を苦しめた相手であるべきだった。しかるに2012年予備選は候補者が乱立し、ギングリッチ元下院議長やロン・ポール下院議員、サントラム元上院議員などがいたとはいえ、皆が認めるような「ナンバーツー」が不在であった。ということは、2016年の共和党は最初から正統な「後継者」を欠いていたことなる。今日の異変は、実は長い時間をかけて用意されたものだったのかもしれない。
ドナルド・トランプ氏は過去の共和党予備選挙に出馬したことはなく、それどころか共和党員でさえなかった。なおかつ一切の公職に就いたことがない。政治経験皆無ということであれば、第34代のアイゼンハワー大統領の前例があるが、こちらは第2次世界大戦の英雄であって国民的な人気があった。
ところが2016年共和党予備選においては、経営者兼テレビタレントのトランプ氏が、ベテランから若手までのプロ政治家たちを相手に終始優勢に選挙戦を展開し、史上最高の得票数で勝利してしまった。いわば単身で歴史ある政党を乗っ取ってしまったわけである。今回の党大会は、トランプ氏の勝利を確定するセレモニーであった。
今週の共和党大会も、これと同じ名前を呈されるかもしれない。直前に公表されたスケジュールを見るだけでも、これがいかに異様な大会であるかが浮かび上がってくる。
○共和党大会のスピーカーたち
(*青色は予備選の対立候補、藍色は大物政治家、赤色はトランプ一家)
7/18 Monday—"Make America Safe Again": Duck Dynasty star Willie Robertson, former Texas governor Rick Perry, Navy SEAL Marcus Luttrell, actor Scott Baio, Pat Smith (mother of Benghazi victim Sean Smith), Battle of Benghazi veteran Mark Geist, Battle of Benghazi veteran John Tiegen, Kent Terry and Kelly Terry-Willis (siblings of Brian Terry, killed while patrolling the U.S. border), actor Antonio Sabato, Jr., immigration reform advocate Mary Ann Mendoza, immigration reform advocate Sabine Durden, immigration reform advocate Jamiel Shaw, Rep. Michael McCaul (R-TX), Sheriff David Clarke, Rep. Sean Duffy (R-WI), U.S. Senate candidate Darryl Glenn, Sen. Tom Cotton (R-AR), Karen Vaughn (mother of fallen U.S. Seal Aaron Carson Vaughn), Sen. Jeff Sessions (R-AL), former NYC mayor Rudy Giuliani, Melania Trump(妻), Lt. Gen. Michael Flynn (ret.), Sen. Joni Ernst (R-IA), veterans' advocate Jason Beardsley, Rep. Ryan Zinke (R-MT)
7/19 Tuesday—"Make America Work Again": RNC Co-Chair Sharon Day, UFC President Dana White, Gov. Asa Hutchison (R-AR), Arkansas Attorney General Leslie Rutledge (R), Former Attorney General Michael B. Mukasey, Businessman Andy Wist, Sen. Ron Johnson (R-WI), NRA Lobbyist Chris Cox, LPGA Golfer Natalie Gulbis, Senate Majority Leader Mitch McConnell (R-KY), Speaker Paul Ryan (R-WI), House Majority Leader Kevin McCarthy (R-CA), Gov. Chris Christie (R-NJ), Tiffany Trump(次女), Trump Winery GM Kerry Woolard, Donald Trump, Jr.(長男), Sen. Shelley Moore Capito (R-WV), Ben Carson, actress Kimberlin Brown
7/20 Wednesday—"Make America First Again": Radio host Laura Ingraham, businessman Phil Ruffin, Florida Attorney General Pam Bondi (R), astronaut Eileen Collins, businesswoman Michelle Van Etten, Kentucky State Senator Ralph Alvarado, Jr. (R), Pastor Darrell Scott, businessman Harold Hamm, Gov. Scott Walker (R-WI), Trump family personal assistant Lynne Patton, Sen. Marco Rubio (R-FL), Sen. Ted Cruz (R-TX), Eric Trump(次男), Former Speaker Newt Gingrich and his wife Callista, Gov. Mike Pence (R-IN)=副大統領候補
7/21 Thursday—"Make America One Again": Motivational speaker Brock Mealer, Rep. Marsha Blackburn (R-TN-7), Gov. Mary Fallin (R-OK), National Diversity Coalition for Trump member Dr. Lisa Shin, RNC Chairman Reince Priebus, Evangelical leader Jerry Falwell, Jr., businessman Peter Thiel, businessman Tom Barrack, Ivanka Trump(長女), Donald Trump =大統領候補
まず、ブッシュ一家が誰一人顔を出していない。2008年の候補者であったマッケイン上院議員や2012年のロムニー元知事など、党の重鎮が姿を見せない。さらに全米から、ゲストを迎える立場である地元オハイオ州のケイシック知事も居ない。
事前には、「政治家が少ない分だけ、芸能人やスポーツ選手を招く」という噂も流れたが、それにしたって「大物」は呼べなかったようである(前回の2012年大会ではクリント・イーストウッド監督が演説している)。
逆に目立つのはトランプ一家である。大統領候補の妻が登場するのは、毎度おなじみの「お約束」だが、それも「演説の盗作疑惑」でミソを付けてしまった。子どもたちも総出演で、それも長男、長女、次男の3人はThe Trump Organization社の役員であるからいいとして、次女のティファニーなどは22歳のモデルである(美人だが)。加えて、トランプ関連企業の「使用人」と思しき人物までノミネートされている。これだけ「ファミリー優先」では、党の結束を強めることなどほとんど不可能ではないか。
案の定、3日目に壇上に立ったテッド・クルーズ上院議員は、最後まで「トランプ支持」を明確にしなかった2。そしてマルコ・ルビオ上院議員は欠席し、ビデオでの出演となった。討論会の席上などで、”Lying Ted”(嘘つきテッド)とか”Little Marco”(ちびマルコちゃん)などと何度も呼ばれた恨みは、簡単に消えるものではないのであろう。
共和党内の亀裂を修復することは、容易なことではないのである。
PDFファイル58ページを拾い読みすると、突っ込みどころが満載で面白い。以下、注目度の高い政策をピックアップしてみよう。
* 通商政策(A Winning Trade Policy―P2)
自由貿易反対、とか保護主義を、などとは言っておらず、国益に資するような通商交渉をしろ(We need better negotiated trade agreements that put America first)とだけ言っている。TPPという言葉は1回も使われていない。
ただし最後の1行に、”Significant trade agreements should not be rushed or undertaken in a Lame Duck Congress.”(重要な通商合意はレイムダック議会で性急に諮るべきではない)とある点は注意が必要だ。「大統領選終了後の12月に、サクッとTPP批准」という期待は、どうやら望み薄のようである。
* 移民政策(Immigration and the Rule of Law―P25-26)
前段部分でテロや麻薬、犯罪組織などのことを強調し、だから南の国境に壁を作ることを支持する(That is why we support building a wall along our southern border and protecting all ports of entry.)と言っている。「メキシコ」とは特定しておらず、もちろん「カネを払わせる」なんて下品なことはもちろん言及していない。
さらに後段の外交政策に関する部分では、妙にメキシコを持ち上げる部分があったりして面白い(The Mexican people deserve our assistance as they bravely resist the drug cartels that traffic in death on both sides of our border.)。さすがに気を遣っているのであろう。
* 規制政策(Regulation: The Quiet Tyranny—P27-28)
主に規制緩和の必要性を述べているのだが、環境規制、医療規制などに続いて、金融規制も槍玉にあげている(The Dodd-Frank law, the Democrats’ legislative Godzilla, is crushing small and community banks and other lenders.)ドッド‐フランク法は「民主党が作ったゴジラ」だそうである。ところがその後に突然、「われわれはグラス・スティーガル法を復活させる」と(We support reinstating the Glass-Steagall Act of 1933 which prohibits commercial banks from engaging in high-risk investment.)と来る。論理矛盾もいいところである。
おそらく、民主党内で金融規制強化の論陣を張っていたバーニー・サンダース候補の支持票を取り込むために、後から唐突に追加したのであろう。こうしておけば、本選挙では「ヒラリーはウォール街の手先だ!」と非難することができるという思惑である。
* アジア政策(U.S. Leadership in the Asian Pacific―P48-49 )
共和党のプラットフォームでは、アジア太平洋地域の同盟国の名を挙げて謝意を述べるのが「吉例」となっている。今年は”treaty alliances with Japan, South Korea, Australia, the Philippines, and Thailand.”という順序で、いつも通り日本が先頭に来ている。もちろん、「駐留経費をもっと払え!」などとは書いていない。
その後の部分では、台湾に関する記述が23行も続いている。中国との衝突があった際には、「米国は台湾関係法に基づいて、自衛する台湾を助ける」(the United States in accordance with the Taiwan Relations Act, will help Taiwan defend itself.)など、こういうときのお決まりの文句(ただし最近はあまり聞かなかった)が並んでいる。
その後の部分で中国について触れているが、言葉遣いが非常に厳しい。”the cult of Mao revived.”「毛沢東のカルトが復活した」とか、”The complacency of the Obama regime has emboldened the Chinese government and military to issue threats of intimidation throughout the South China Sea”「オバマ政権の怠慢さにより、中国政府と軍は南シナ海全体を恫喝している」などと喧嘩を売っている。こういう過激な文言が最終稿に残っているということは、たぶん十分な時間がなくて推敲の機会が少なかったのであろう。
トランプ氏という型破りな人物が、歴史あるリンカーンとレーガンの政党の候補者に収まるためには、ほかにもさまざまな努力が必要であった。
マイク・ペンス知事を副大統領に指名したこともそのひとつであろう。トランプ氏自身は戦友(?)であるクリスティー知事に傾いていたようだが、それでは共和党本流派とのパイプが作れなくなってしまう。ここは是非、下院議員12年の経歴があり、ライアン下院議長との関係が良く、さらに共和党への大口献金者であるコッチ兄弟ともつながりを持つペンス氏である必要があった。年齢バランス(トランプ氏70歳に対して58歳)、地域バランス(中西部の製造業州であるインディアナ出身)なども申し分ない。ついでに言えば、あらゆる面でユニークな選挙戦を展開してきたトランプ氏が、「意外とまっとうな副大統領候補選びをした」ことも、党内を安心させる効果があったことだろう。
もっとも、党大会の最終日である21日に行われた肝心の大統領候補受諾演説を、ユーチューブで実際に聞いてみると、「グローバリズムからアメリカニズムへ」「TPPで米国は外国政府の支配下に置かれる」「米国が防衛する国々に対して相応の負担を求める」「国境に巨大な壁を建設する」などと、いつもの通りの言いたい放題であった4。党との折り合いをつけるために、持論を曲げるつもりはさらさらなさそうだ。そしてまた、彼自身はこの路線で人気を得てきたのであるから、今さら党に遠慮する理由はないのである。
こうしてみると、今の共和党を結束させることができるのは、唯一、「ヒラリーには勝たせたくない」という共通点だけであろう。序盤戦で予備選挙をリタイアしたスコット・ウォーカー知事(ウィスコンシン州)が3日目の演説で述べたように、「トランプ氏以外への投票は、ヒラリー・クリントンへの投票だ」という理屈である。同じ理屈は民主党側にもあって、つくづく2016年は嫌われ者同士の対決なのである。
とはいえ、2016年選挙が終わった(たぶん民主党が勝った)後は、共和党は分裂が避けられないのではないだろうか。①共和党主流派はライアン下院議長などを中心に党の再生を図ろうとするが、②トランプ支持者たちはなおも勢力を維持し、どうかすると長女イヴァンカ・トランプを次の候補者に担ごうとし、③保守派テッド・クルーズは2020年に向けて我が道をゆく…といった未来図が浮かんでくる。
「トランプ劇場」は、そう簡単には終わってくれそうには思えない。
1 クリーブランド市の名誉のために付け加えると、近年では都市再生の努力が成果を挙げて”Comeback City”とも呼ばれるようになっている。ちなみに来週、民主党大会が開催されるペンシルバニア州ピッツバーグも、ほとんど同じような歴史と評価をたどっている。
2 “Cruz Control”は失敗したが、トランプ氏は”No big deal!!”(構わん!)と大人のツィートをしている。
3 https://www.gop.com/the-2016-republican-party-platform/
4 https://www.youtube.com/watch?v=BXmqiESZYp0
2016年は驚くことの多い年ですが、何と言っても今年の米共和党には驚かされっぱなしです。今回の共和党大会も、前代未聞の事態がいくつも起きています。クリーブランドの「トランプ劇場」を同時進行で描いてみました。
●共和党「後継者決定ルール」の変容
予備選挙で意外な大統領候補者を指名するのは、普通は民主党の専売特許である。史上初のカトリック信者大統領(ケネディ)も、史上初の黒人大統領(オバマ)も、それから州知事を1期やっただけのピーナッツ畑の農夫さん(カーター)という例もあった。逆に共和党側は番狂わせが少ない。少なくとも20世紀まではそうであった。第42代ビル・クリントン大統領の選挙参謀を務めたディック・モリスは、回顧録『オーバル・オフィス』の中で、共和党王朝の「後継者決定ルール」をこんな風に説明している。
① 予備選で2人が激戦となったときは、勝った側が大統領選に挑む。
② それで失敗した時は、2位だった候補者が次の機会に挑戦する。
恐るべきことに、この2つの法則だけで過去の共和党の候補者選びのほとんど説明がついてしまうのである。
1976年:予備選でフォード大統領とレーガン知事(カリフォルニア州)が対立してフォードが勝利(法則①)。だがフォードはカーター元知事(ジョージア州)に負ける。
1980年:今度はレーガンが候補者になり(法則②)、大統領に当選して2期務める。
1988年:ブッシュSr.副大統領がドール上院議員(カンザス州)と争って指名を得る(法則①)。そのまま民主党のデュカキス知事(マサチューセッツ州)を破って大統領に。
1992年:ブッシュSr.大統領がクリントン知事(アーカンソー州)に敗北。
1996年:ドール上院議員が候補者になるが(法則②)、返り討ちに遭う。
2000年:ブッシュJr.知事(テキサス州)とマッケイン上院議員(アリゾナ州)の対決になり、ブッシュが勝つ(法則①)。本選ではゴア副大統領を破って大統領を2期務める
2008年:2000年にブッシュJr.に敗れたマッケインの出番(法則②)。ロムニー元知事(マサチューセッツ州)を破って候補者に。本選ではオバマ上院議員に敗れる。
2012年:前回敗れたロムニーの出番(法則②)。本選でオバマに敗れる。
2016年:今まで全く無関係だったトランプ氏が候補者に。
つまり共和党は、大統領候補者の「正統性」を重んじる伝統がある。端的に言えば、「前回の予備選における次点候補者」の地位が高い。それが多少、年を取っていても問題はなくて、現にレーガン(69歳)、ドール(72歳)、マッケイン(72歳)といった高齢者を本選挙に送り出している。
こうしてみると、2016年予備選の異常さがよくわかる。本来なら今年の共和党候補者は、2012年にロムニー候補を苦しめた相手であるべきだった。しかるに2012年予備選は候補者が乱立し、ギングリッチ元下院議長やロン・ポール下院議員、サントラム元上院議員などがいたとはいえ、皆が認めるような「ナンバーツー」が不在であった。ということは、2016年の共和党は最初から正統な「後継者」を欠いていたことなる。今日の異変は、実は長い時間をかけて用意されたものだったのかもしれない。
ドナルド・トランプ氏は過去の共和党予備選挙に出馬したことはなく、それどころか共和党員でさえなかった。なおかつ一切の公職に就いたことがない。政治経験皆無ということであれば、第34代のアイゼンハワー大統領の前例があるが、こちらは第2次世界大戦の英雄であって国民的な人気があった。
ところが2016年共和党予備選においては、経営者兼テレビタレントのトランプ氏が、ベテランから若手までのプロ政治家たちを相手に終始優勢に選挙戦を展開し、史上最高の得票数で勝利してしまった。いわば単身で歴史ある政党を乗っ取ってしまったわけである。今回の党大会は、トランプ氏の勝利を確定するセレモニーであった。
●クリーブランドの異様な党大会
共和党大会が開催されたのはオハイオ州クリーブランド市である。エリー湖ほとりの水運で街が開け、ミネソタの鉄鉱石とアパラチア炭田を結びつけて製造業が繁栄し、かつては全米第5位の都市であったこともある。それが1960年代以降は重工業の退潮とともに衰退し、”The Mistake on the Lake”(湖上の過ち)などと呼ばれるようになる1。今週の共和党大会も、これと同じ名前を呈されるかもしれない。直前に公表されたスケジュールを見るだけでも、これがいかに異様な大会であるかが浮かび上がってくる。
○共和党大会のスピーカーたち
(*青色は予備選の対立候補、藍色は大物政治家、赤色はトランプ一家)
7/18 Monday—"Make America Safe Again": Duck Dynasty star Willie Robertson, former Texas governor Rick Perry, Navy SEAL Marcus Luttrell, actor Scott Baio, Pat Smith (mother of Benghazi victim Sean Smith), Battle of Benghazi veteran Mark Geist, Battle of Benghazi veteran John Tiegen, Kent Terry and Kelly Terry-Willis (siblings of Brian Terry, killed while patrolling the U.S. border), actor Antonio Sabato, Jr., immigration reform advocate Mary Ann Mendoza, immigration reform advocate Sabine Durden, immigration reform advocate Jamiel Shaw, Rep. Michael McCaul (R-TX), Sheriff David Clarke, Rep. Sean Duffy (R-WI), U.S. Senate candidate Darryl Glenn, Sen. Tom Cotton (R-AR), Karen Vaughn (mother of fallen U.S. Seal Aaron Carson Vaughn), Sen. Jeff Sessions (R-AL), former NYC mayor Rudy Giuliani, Melania Trump(妻), Lt. Gen. Michael Flynn (ret.), Sen. Joni Ernst (R-IA), veterans' advocate Jason Beardsley, Rep. Ryan Zinke (R-MT)
7/19 Tuesday—"Make America Work Again": RNC Co-Chair Sharon Day, UFC President Dana White, Gov. Asa Hutchison (R-AR), Arkansas Attorney General Leslie Rutledge (R), Former Attorney General Michael B. Mukasey, Businessman Andy Wist, Sen. Ron Johnson (R-WI), NRA Lobbyist Chris Cox, LPGA Golfer Natalie Gulbis, Senate Majority Leader Mitch McConnell (R-KY), Speaker Paul Ryan (R-WI), House Majority Leader Kevin McCarthy (R-CA), Gov. Chris Christie (R-NJ), Tiffany Trump(次女), Trump Winery GM Kerry Woolard, Donald Trump, Jr.(長男), Sen. Shelley Moore Capito (R-WV), Ben Carson, actress Kimberlin Brown
7/20 Wednesday—"Make America First Again": Radio host Laura Ingraham, businessman Phil Ruffin, Florida Attorney General Pam Bondi (R), astronaut Eileen Collins, businesswoman Michelle Van Etten, Kentucky State Senator Ralph Alvarado, Jr. (R), Pastor Darrell Scott, businessman Harold Hamm, Gov. Scott Walker (R-WI), Trump family personal assistant Lynne Patton, Sen. Marco Rubio (R-FL), Sen. Ted Cruz (R-TX), Eric Trump(次男), Former Speaker Newt Gingrich and his wife Callista, Gov. Mike Pence (R-IN)=副大統領候補
7/21 Thursday—"Make America One Again": Motivational speaker Brock Mealer, Rep. Marsha Blackburn (R-TN-7), Gov. Mary Fallin (R-OK), National Diversity Coalition for Trump member Dr. Lisa Shin, RNC Chairman Reince Priebus, Evangelical leader Jerry Falwell, Jr., businessman Peter Thiel, businessman Tom Barrack, Ivanka Trump(長女), Donald Trump =大統領候補
まず、ブッシュ一家が誰一人顔を出していない。2008年の候補者であったマッケイン上院議員や2012年のロムニー元知事など、党の重鎮が姿を見せない。さらに全米から、ゲストを迎える立場である地元オハイオ州のケイシック知事も居ない。
事前には、「政治家が少ない分だけ、芸能人やスポーツ選手を招く」という噂も流れたが、それにしたって「大物」は呼べなかったようである(前回の2012年大会ではクリント・イーストウッド監督が演説している)。
逆に目立つのはトランプ一家である。大統領候補の妻が登場するのは、毎度おなじみの「お約束」だが、それも「演説の盗作疑惑」でミソを付けてしまった。子どもたちも総出演で、それも長男、長女、次男の3人はThe Trump Organization社の役員であるからいいとして、次女のティファニーなどは22歳のモデルである(美人だが)。加えて、トランプ関連企業の「使用人」と思しき人物までノミネートされている。これだけ「ファミリー優先」では、党の結束を強めることなどほとんど不可能ではないか。
案の定、3日目に壇上に立ったテッド・クルーズ上院議員は、最後まで「トランプ支持」を明確にしなかった2。そしてマルコ・ルビオ上院議員は欠席し、ビデオでの出演となった。討論会の席上などで、”Lying Ted”(嘘つきテッド)とか”Little Marco”(ちびマルコちゃん)などと何度も呼ばれた恨みは、簡単に消えるものではないのであろう。
共和党内の亀裂を修復することは、容易なことではないのである。
●プラットフォームも苦心の調整作
トランプ候補があまりに無茶な公約を乱発したために(そしてそれらがウケてしまったために)、党としての政策綱領(Platform)をどうまとめるかが至難の業となった3。PDFファイル58ページを拾い読みすると、突っ込みどころが満載で面白い。以下、注目度の高い政策をピックアップしてみよう。
* 通商政策(A Winning Trade Policy―P2)
自由貿易反対、とか保護主義を、などとは言っておらず、国益に資するような通商交渉をしろ(We need better negotiated trade agreements that put America first)とだけ言っている。TPPという言葉は1回も使われていない。
ただし最後の1行に、”Significant trade agreements should not be rushed or undertaken in a Lame Duck Congress.”(重要な通商合意はレイムダック議会で性急に諮るべきではない)とある点は注意が必要だ。「大統領選終了後の12月に、サクッとTPP批准」という期待は、どうやら望み薄のようである。
* 移民政策(Immigration and the Rule of Law―P25-26)
前段部分でテロや麻薬、犯罪組織などのことを強調し、だから南の国境に壁を作ることを支持する(That is why we support building a wall along our southern border and protecting all ports of entry.)と言っている。「メキシコ」とは特定しておらず、もちろん「カネを払わせる」なんて下品なことはもちろん言及していない。
さらに後段の外交政策に関する部分では、妙にメキシコを持ち上げる部分があったりして面白い(The Mexican people deserve our assistance as they bravely resist the drug cartels that traffic in death on both sides of our border.)。さすがに気を遣っているのであろう。
* 規制政策(Regulation: The Quiet Tyranny—P27-28)
主に規制緩和の必要性を述べているのだが、環境規制、医療規制などに続いて、金融規制も槍玉にあげている(The Dodd-Frank law, the Democrats’ legislative Godzilla, is crushing small and community banks and other lenders.)ドッド‐フランク法は「民主党が作ったゴジラ」だそうである。ところがその後に突然、「われわれはグラス・スティーガル法を復活させる」と(We support reinstating the Glass-Steagall Act of 1933 which prohibits commercial banks from engaging in high-risk investment.)と来る。論理矛盾もいいところである。
おそらく、民主党内で金融規制強化の論陣を張っていたバーニー・サンダース候補の支持票を取り込むために、後から唐突に追加したのであろう。こうしておけば、本選挙では「ヒラリーはウォール街の手先だ!」と非難することができるという思惑である。
* アジア政策(U.S. Leadership in the Asian Pacific―P48-49 )
共和党のプラットフォームでは、アジア太平洋地域の同盟国の名を挙げて謝意を述べるのが「吉例」となっている。今年は”treaty alliances with Japan, South Korea, Australia, the Philippines, and Thailand.”という順序で、いつも通り日本が先頭に来ている。もちろん、「駐留経費をもっと払え!」などとは書いていない。
その後の部分では、台湾に関する記述が23行も続いている。中国との衝突があった際には、「米国は台湾関係法に基づいて、自衛する台湾を助ける」(the United States in accordance with the Taiwan Relations Act, will help Taiwan defend itself.)など、こういうときのお決まりの文句(ただし最近はあまり聞かなかった)が並んでいる。
その後の部分で中国について触れているが、言葉遣いが非常に厳しい。”the cult of Mao revived.”「毛沢東のカルトが復活した」とか、”The complacency of the Obama regime has emboldened the Chinese government and military to issue threats of intimidation throughout the South China Sea”「オバマ政権の怠慢さにより、中国政府と軍は南シナ海全体を恫喝している」などと喧嘩を売っている。こういう過激な文言が最終稿に残っているということは、たぶん十分な時間がなくて推敲の機会が少なかったのであろう。
●共和党とトランプは折り合えるのか
以上、トランプ候補の無理目な公約に対し、政策綱領はギリギリのところで現実と折り合いを付けようとしている。おそらくは党主流派が目を光らせていて、プラットフォーム起草チームが調整に汗を流したのであろう。そしてトランプ氏自身は、たぶんこんな文書にはいちいち目を通していないに違いない。トランプ氏という型破りな人物が、歴史あるリンカーンとレーガンの政党の候補者に収まるためには、ほかにもさまざまな努力が必要であった。
マイク・ペンス知事を副大統領に指名したこともそのひとつであろう。トランプ氏自身は戦友(?)であるクリスティー知事に傾いていたようだが、それでは共和党本流派とのパイプが作れなくなってしまう。ここは是非、下院議員12年の経歴があり、ライアン下院議長との関係が良く、さらに共和党への大口献金者であるコッチ兄弟ともつながりを持つペンス氏である必要があった。年齢バランス(トランプ氏70歳に対して58歳)、地域バランス(中西部の製造業州であるインディアナ出身)なども申し分ない。ついでに言えば、あらゆる面でユニークな選挙戦を展開してきたトランプ氏が、「意外とまっとうな副大統領候補選びをした」ことも、党内を安心させる効果があったことだろう。
もっとも、党大会の最終日である21日に行われた肝心の大統領候補受諾演説を、ユーチューブで実際に聞いてみると、「グローバリズムからアメリカニズムへ」「TPPで米国は外国政府の支配下に置かれる」「米国が防衛する国々に対して相応の負担を求める」「国境に巨大な壁を建設する」などと、いつもの通りの言いたい放題であった4。党との折り合いをつけるために、持論を曲げるつもりはさらさらなさそうだ。そしてまた、彼自身はこの路線で人気を得てきたのであるから、今さら党に遠慮する理由はないのである。
こうしてみると、今の共和党を結束させることができるのは、唯一、「ヒラリーには勝たせたくない」という共通点だけであろう。序盤戦で予備選挙をリタイアしたスコット・ウォーカー知事(ウィスコンシン州)が3日目の演説で述べたように、「トランプ氏以外への投票は、ヒラリー・クリントンへの投票だ」という理屈である。同じ理屈は民主党側にもあって、つくづく2016年は嫌われ者同士の対決なのである。
とはいえ、2016年選挙が終わった(たぶん民主党が勝った)後は、共和党は分裂が避けられないのではないだろうか。①共和党主流派はライアン下院議長などを中心に党の再生を図ろうとするが、②トランプ支持者たちはなおも勢力を維持し、どうかすると長女イヴァンカ・トランプを次の候補者に担ごうとし、③保守派テッド・クルーズは2020年に向けて我が道をゆく…といった未来図が浮かんでくる。
「トランプ劇場」は、そう簡単には終わってくれそうには思えない。
1 クリーブランド市の名誉のために付け加えると、近年では都市再生の努力が成果を挙げて”Comeback City”とも呼ばれるようになっている。ちなみに来週、民主党大会が開催されるペンシルバニア州ピッツバーグも、ほとんど同じような歴史と評価をたどっている。
2 “Cruz Control”は失敗したが、トランプ氏は”No big deal!!”(構わん!)と大人のツィートをしている。
3 https://www.gop.com/the-2016-republican-party-platform/
4 https://www.youtube.com/watch?v=BXmqiESZYp0
- 吉崎達彦(かんべえ)
- 双日総合研究所取締役副所長・同主任エコノミスト。



