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- 2011年06月12日 08:30
危機管理 - 馬場正博
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「危機管理」という言葉が最近よく聞かれます。経営者に自社の問題点を聞くと、戦略と危機管理の欠如があげられたりします。それでは危機管理とは何なのか、何をすべきなのかと聞くと答えは必ずしも一様ではありません。危機管理について少し考えてみましょう。
危機管理とよく似た言葉でリスクマネージメントがあります。危機管理を英語に訳しただけのようにも思えますが、危機管理の英訳はクライシスマネージメント(crisis management)です。
リスクマネージメントとは将来起こる可能性のあるリスクを予想し対策を予め立てておくことです。もし、完全なリスクマネージメントというものがあれば、危機は発生しないか、発生しても整然と決められた手順で完結することができます。
リスクマネージメントで大切なことは、可能性のあるリスクをできるだけ網羅的に予想し、リスクの影響、確率、対策を見極めることです。リスクマネージメントでは客観的で分析的な能力が重要です。リスクマネージメントでリーダーのするべきことは、リスクを無視せずきちんと対応策をつくる組織文化と仕組を作ることです。
これに対し、危機管理はリスクと想定されたこと、あるいは想定もされなかった事態が発生したとき、どのように問題を解決するかということです。危機管理では分析的な態度だけでは状況に対応できません。リーダーは決断力とリーダーシップが要求されます。
管理上の手法やリーダー、マネージメントの資質という観点から考えると、危機管理とリスクマネージメントは正反対とは言わないまでも、非常に異なったものだということができます。
危機管理は、企業、国家などの組織の存亡に関わる重大事件に対処することだと言われています。しかし、重大な事態だからと言って必ず危機管理の対象にはなりません。
日本では1年で交通事故で7千人程度の人が亡くなっています。膨大な人的損失があるわけですが、だからと言って交通事故対策は国家としての危機管理の対象にはなっていません。これは交通事故では日本という国家が崩壊しないから、というわけではありません。
もし高速道路のトンネルで大火災が起きて、300人の犠牲者が発生するようなことが起きれば、これは危機管理の対象でしょう。7千人という数は大変大きな数なのですが、1日平均20人程度の交通事故の死者は、通常のプロセスで処理するものだということになっているのです。
地球温暖化も危機管理の対象ではありません。地球温暖化は最悪のシナリオだと人類文明全体が崩壊してしまう危険があるのですが、短期的に解決できるものではなく、長期的な視点と粘り強い努力によって対応すべきものです。危機管理に解決を求めるようなものではないのです。
それでは危機管理とはどのようなときに必要になるのでしょうか。企業でも国家でも組織は、目的を達成するためは膨大な業務プロセスがあり、そこで無数の意思決定が行われています。危機管理が必要になるのは、既存の業務プロセスで行われる意思決定に任せることができない問題に対処しなければいけないときです。
1982年、アメリカのシカゴでジョンソン・エンド・ジョンソンの主力商品の一つの鎮痛剤タイレノールを服用した7人が青酸カリ中毒で死亡するという事件が発生しました。
ジョンソン・エンド・ジョンソンは直ちに3,100万個におよぶタイレノールを市場から回収し、タイレノールの広告宣伝も全て中止しました。この時点で、青酸カリがタイレノールのカプセルに混入されたのは確かでしたが、犯人はもちろん、どの程度の範囲でこのような犯罪行為が行われているかは全くわかりませんでした。
ジョンソン・エンド・ジョンソンの損害は直接の製品の処理だけで1億ドルに達しました。その後ジョンソン・エンド・ジョンソンはタイレノールのパッケージを一新し青酸カリの混入を行うことを事実上不可能にした上で、タイレノールの販売を再開しました。
タイレノールに青酸カリを混入した犯人はついに捕まりませんでしたが、タイレノールは市場の信頼を取り戻し、ジョンソン・エンド・ジョンソンの対応策は危機管理の模範的な事例として記憶されることになりました。
もし、ジョンソン・エンド・ジョンソンがタイレノールの回収、販売、流通の一切の停止という決断をトップダウンで行わなければ、どうなっていたでしょうか。
タイレノールの生産、出荷、在庫管理などの業務は通常通り行われていたでしょう。個々の業務の担当者はそれが決められた仕事で、それ以外の個別に事件に対応することは不可能だったはずです。
ジョンソン・エンド・ジョンソンは全製品の回収を決定することで、通常の業務プロセスで行われる意思決定を停止し、すべての判断をトップダウンで行えるように業務プロセスを変えてしまったのです。
危機管理とリスクマネージメントは違う
危機管理とよく似た言葉でリスクマネージメントがあります。危機管理を英語に訳しただけのようにも思えますが、危機管理の英訳はクライシスマネージメント(crisis management)です。
リスクマネージメントとは将来起こる可能性のあるリスクを予想し対策を予め立てておくことです。もし、完全なリスクマネージメントというものがあれば、危機は発生しないか、発生しても整然と決められた手順で完結することができます。
リスクマネージメントで大切なことは、可能性のあるリスクをできるだけ網羅的に予想し、リスクの影響、確率、対策を見極めることです。リスクマネージメントでは客観的で分析的な能力が重要です。リスクマネージメントでリーダーのするべきことは、リスクを無視せずきちんと対応策をつくる組織文化と仕組を作ることです。
これに対し、危機管理はリスクと想定されたこと、あるいは想定もされなかった事態が発生したとき、どのように問題を解決するかということです。危機管理では分析的な態度だけでは状況に対応できません。リーダーは決断力とリーダーシップが要求されます。
管理上の手法やリーダー、マネージメントの資質という観点から考えると、危機管理とリスクマネージメントは正反対とは言わないまでも、非常に異なったものだということができます。
重大な事態だから危機管理が有効とは限らない
危機管理は、企業、国家などの組織の存亡に関わる重大事件に対処することだと言われています。しかし、重大な事態だからと言って必ず危機管理の対象にはなりません。
日本では1年で交通事故で7千人程度の人が亡くなっています。膨大な人的損失があるわけですが、だからと言って交通事故対策は国家としての危機管理の対象にはなっていません。これは交通事故では日本という国家が崩壊しないから、というわけではありません。
もし高速道路のトンネルで大火災が起きて、300人の犠牲者が発生するようなことが起きれば、これは危機管理の対象でしょう。7千人という数は大変大きな数なのですが、1日平均20人程度の交通事故の死者は、通常のプロセスで処理するものだということになっているのです。
地球温暖化も危機管理の対象ではありません。地球温暖化は最悪のシナリオだと人類文明全体が崩壊してしまう危険があるのですが、短期的に解決できるものではなく、長期的な視点と粘り強い努力によって対応すべきものです。危機管理に解決を求めるようなものではないのです。
危機管理は通常の意思決定プロセスが機能しない問題に対応すること
それでは危機管理とはどのようなときに必要になるのでしょうか。企業でも国家でも組織は、目的を達成するためは膨大な業務プロセスがあり、そこで無数の意思決定が行われています。危機管理が必要になるのは、既存の業務プロセスで行われる意思決定に任せることができない問題に対処しなければいけないときです。
1982年、アメリカのシカゴでジョンソン・エンド・ジョンソンの主力商品の一つの鎮痛剤タイレノールを服用した7人が青酸カリ中毒で死亡するという事件が発生しました。
ジョンソン・エンド・ジョンソンは直ちに3,100万個におよぶタイレノールを市場から回収し、タイレノールの広告宣伝も全て中止しました。この時点で、青酸カリがタイレノールのカプセルに混入されたのは確かでしたが、犯人はもちろん、どの程度の範囲でこのような犯罪行為が行われているかは全くわかりませんでした。
ジョンソン・エンド・ジョンソンの損害は直接の製品の処理だけで1億ドルに達しました。その後ジョンソン・エンド・ジョンソンはタイレノールのパッケージを一新し青酸カリの混入を行うことを事実上不可能にした上で、タイレノールの販売を再開しました。
タイレノールに青酸カリを混入した犯人はついに捕まりませんでしたが、タイレノールは市場の信頼を取り戻し、ジョンソン・エンド・ジョンソンの対応策は危機管理の模範的な事例として記憶されることになりました。
もし、ジョンソン・エンド・ジョンソンがタイレノールの回収、販売、流通の一切の停止という決断をトップダウンで行わなければ、どうなっていたでしょうか。
タイレノールの生産、出荷、在庫管理などの業務は通常通り行われていたでしょう。個々の業務の担当者はそれが決められた仕事で、それ以外の個別に事件に対応することは不可能だったはずです。
ジョンソン・エンド・ジョンソンは全製品の回収を決定することで、通常の業務プロセスで行われる意思決定を停止し、すべての判断をトップダウンで行えるように業務プロセスを変えてしまったのです。



