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ドローンが起こす空の産業革命、次に狙う市場は農業? - 川手恭輔 (コンセプトデザイン・サイエンティスト)

 ドイツの作家トム・ヒレンブラントがSFミステリー小説『ドローンランド』に描いた2050年ごろの世界からは、スマートフォンが完全に消滅している。代わりに人々は、喉に装着したマイクでクラウドにあるコンピューターと会話する。大小さまざまなドローン(無人飛行機)によって収集された膨大なデータがクラウドに蓄積され、コンピューターはそれを分析してデーターベース化している。

ドローンランドの世界観

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『ドローンランド』

 そして、あらゆるリクエストに即座に応えて、人々が常時装着している眼鏡型のデバイス、あるいはテーブルや壁に張り付いたホイル(箔)と呼ばれるディスプレイに情報を表示する。ドローンランドは監視社会だ。人々のすべての行動はドローンによって記録され、プライバシーは完全に失われている。もちろん誰もそんな未来は望んでいない。

 米国ではUAS(Unmanned Aerial System)と呼ばれる軍事用のドローンが、1990年代から主に中東における偵察・情報収集に使われ始めた。9.11以降、プレデターという不気味な名前で呼ばれる武装したドローンが、米国本土からの遠隔操作によってミサイル攻撃を行うようになった。プレデタータイプのドローンは、ハリウッドの映画にも度々登場する。

 その誕生の経緯からか米国ではUASは飛行機と見なされ、小型のsUAS(Small UAS)であっても飛行機のパイロット免許が必要とされてきた。しかし、これまで商用のドローンの飛行を厳しく制限してきた連邦航空局(FAA)が、6月にsUASの運用ルールを発表(発効は8月)した。日本でも昨年の12月にドローンを対象にした「改正航空法」が施行されており、いよいよドローンの商業利用が日米で本格化することになる。

 現在発売中のWedge8月号では『ドローンが起こす空の産業革命』というタイトルで、関連のビジネスの現状と今後の課題についてレポートした。ここではドローンの応用分野である「i-Construction」と「精密農業」について補足する。

i-Constructionで活性化するドローン測量サービス

 国内では、土木建設現場での測量というアプリケーションの市場がにわかに活気を帯びてきた。7月9日には日立建機が、Wedgeの記事中で紹介したベンチャー企業のテラドローンと共同で、北海道の炭鉱においてドローンによる地形測量を行ったと発表した。これは国土交通省が推進するi-Constructionに対応するドローン技術の、石炭採掘場という高低差が大きく、広い現場への適用・実証を目的として実施されたものだという。今後、土木建設業界では、i-Constructionへの対応をキーワードにしたドローンによる測量の導入が進むことが予想される。

 i-Constructionとは、国土交通省が管轄する工事において、ドローンを使った測量やICT建機による施工を基本としたICT活用施行を推進するという政策で、国土交通省は3月30日に「土工における調査・測量、設計、施工、検査のプロセスにおいて、現在の紙図面を前提とした基準類を変更し、3次元データによる15の新基準を平成28年4月より導入する」とのプレスリリースを発表した。その発注方式として、規模の大きい企業を対象とする工事ではICT活用施工を標準化するとされており、実質的に大手の土木建設会社にICT活用施工が義務付けられたと考えてよいだろう。

 「3次元データによる15の新基準」には、まず「調査・測量、設計」の段階では、従来の測量機器やGNSS(グローバル衛星測位システム)を利用した現地測量と有人航空機を利用した空中写真測量によって作成していた2次元の図面に替えて、UAV*によって撮影した測量写真を3次元化した3次元点群データに基づいて設計・施工計画を立案することが謳われている。そして「施工」の段階においても、 UAVによる写真測量を繰り返し行って得られた3次元点群データと設計データとの差分を管理することによって出来高(進捗)を管理するとしている。

 *UAV(Unmanned Aerial Vehicle)はsUASとほぼ同義で、いずれも小型の商用のドローンを指すと考えて構わない。

 テラドローンのようなドローンによる測量サービスを提供する会社は、土木建設会社からの委託を受け、現地でのドローンによる写真測量と3次元点群データの作成までを行う。ドローンによって土木建設現場での写真測量は、改正航空法によって定められた「人又は家屋の密集している地域の上空」の飛行や「人又は物件から30メートル以上の距離が確保できない飛行」などの国土交通省の許可承認が必要になる条件に該当することが多い。

 案件ごとに飛行の経路や期日やドローンの機種などを登録して許可承認が必要になるが、飛行の経路や期日を指定せずに包括的な承認を得ることも可能だ。ちなみに昨年の12月から今年の7月1日までに4255件の許可承認があるが、そのうち55件が包括的な承認で、その多くは報道機関や、風景・スポーツなどの空撮サービスを提供する企業・個人となっている。

次の狙いは精密農業

 安倍晋三総理は、昨年1月に開催された「未来投資に向けた官民対話」において「第4次産業革命はスピード勝負であり、自動走行、ドローン、健康医療は、安全性と利便性を両立できる有望分野だ」とし、ドローンについては「早ければ3年以内に荷物配送を可能とすることを目指し、2016年の夏までに制度整備の対応方針を策定する」との意欲を示した。

 すでに映像空撮や農薬散布といった商業用途のドローン活用のサービス市場は確立しており、測量や設備の点検といったアプリケーションも立ち上がりつつある。しかしWedgeの記事で指摘したように、都市部における「荷物配送」には、ドローンの飛行技術や法律の整備以外に、複数の企業が飛ばす荷物配送ドローンを管制するインフラの整備が欠かせない。ドローンによる荷物配送の実証実験がいくつか行われているが、DHLやUPSのように、日本でも山間部や離島での緊急物資の配送というところから始まるのだろうか。

 欧米ではドローンを精密農業へ応用することが始まっている。聞きなれない言葉かもしれないが精密農業では、地上に設置した環境計測ロボットによって湿度や温度を継続的に測定したり、人工衛星によるリモートセンシングによって土壌内の肥料や農薬の残存量を測定したり、撮影された可視光と赤外線の写真から合成した画像の解析によって作物の生育状況を確認したりなどして、田畑の領域ごとに、水やりや施肥、農薬散布などを細かく調整し、作物の収量監視、収穫量のばらつきの制御、土壌管理などを行っている。これらの情報収集をドローンによって行うことによって、さらに精度の高い効率的な精密農業が可能になる。

 米国では生産性向上を目的として、コスト低減効果が出やすい大規模農家を中心に精密農業が普及している。それに対し、欧州では環境保全を目的とした精密農業の導入が行われている。人口密度が高い欧州では、農業による水質の汚染、野生生物の生育地の減少等の住民に直接影響を及ぼす問題が多いため、住民の環境に対する意識が高く、農業による環境負荷を低減することが求められているという。

 2月に合意されたTPP協定が発効し関税が撤廃されると、日本の農業の生産額と食料自給率が大幅に低下すると言われている。日本の農業をグローバル化してその体質を強化し、生産性の向上や農産物の高付加価値化などによって、輸出など新たな需要を開拓しなければならないことは明白だ。グローバル化に関して、例えば残留農薬の国際基準は、作物ごとに、その国の気候風土や害虫の種類、農薬の使用方法、食品の摂取量などが考慮されて決められているので、日本の基準値とは異なることがある。また農業生産の各工程の正確な実施、記録、点検及び評価を行う農業生産工程管理のGAPへの取り組みも遅れている。

 i-Constructionのように、国の政策によって日本の農業のICT化と精密農業の導入を強力に推進する必要があるのではないだろうか。それは農業だけでなく、新しいビジネスを創出することにもつながる。

より広い分野への応用を柔軟に考える

 ドローン(Drone)という英語はミツバチの雄を指す。野生ハナバチ類やセイヨウミツバチの減少が世界的に報告されているが、農業環境技術研究所によると、花粉を運ぶ昆虫が日本の農業にもたらしている利益の経済価値は、日本の耕種農業産出額(約5兆7000億円)の8.3%(約4700億円)に相当し、そのうち70%(約3300億円)は野生の昆虫が提供している。そして環境の変化等によって昆虫が減少することは、生産量の減少や生産コストの増加に直結するという。そこにはきっと、昆虫の代わりをするドローンのニーズがある。

 今回のWedgeの特集のための取材先では、小さいドローンについては概して否定的だったが、それは小さいドローンを商業用途で活用するアプリケーションが見えないからだと思う。農業などのいろいろな産業分野への応用を考えることによって、新しいドローンとそれを活用したアプリケーションの開発も進むに違いない。

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