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好感度と統一、クリントン・トランプ、党大会の課題 - 海野素央 (明治大学教授、心理学博士)

 今回のテーマは、「全国党大会の課題と本選挙の見所」です。いよいよ共和党は、7月18日から中西部オハイオ州クリーブランドで、一方、民主党は同月25日より東部ペンシルベニア州フィラデルフィアでそれぞれ全国党大会を開催します。

 トランプ候補及びクリントン候補は、課題を抱えて大会に臨むことになります。本稿では、全国党大会における両候補の課題について、党内の統一、好感度、米軍最高司令官及び文化的多様性の4つに分類して説明します(図表)。そのうえで、全国党大会後の本選挙の見所について述べます。

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党内の統一

 第1の課題は、党内の統一のイメージを有権者に発信することができるかです。2012の共和党候補ミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事、08年の同党候補ジョン・マケイン上院議員(アリゾナ州)、ジョージ・W・ブッシュ前大統領及びジョージ・H・W・ブッシュ元大統領に加え、共和党指名を争ったジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事も共和党全国大会に欠席を表明しています。異例なことに、全国党大会が開かれる地元オハイオ州のジョン・ケーシック知事はトランプ候補をいまだに支持しておりませんし、大会で演説を行う予定もありません。共和党の外交政策の重鎮である元国家安全保障問題担当大統領補佐官ブレント・スコウクロフト氏は、クリントン支持を明らかにしました。

 そのような状況で、トランプ候補は党内の結束を図れるのかが課題になっています。率直に言いますと、党内の統一はかなり困難です。仮に、カリフォルニア州サンノゼで発生した以上の大規模の抗議運動がクリーブランドで起きますと、共和党のイメージ低下は回避できません。

 他方、民主党は統一が可能でしょうか。民主党は、現在非常にリベラルなグループ及び中道でやや右寄りのグループに分裂しています。それに加えて、党内では世代間の分断も起きています。若者を中心とするサンダース陣営と中高年の女性を核とするクリントン陣営に分裂しているのです。

 以前説明しましたが、民主党を羊の群れに喩えますと、それぞれの群れが異なった方向へ進んでいるのです。クリントン候補は、自力で羊の群れをまとめて同じ方向へ向かわせることができません。そこで同候補は、「羊飼いのリーダーシップスタイル」を取らざるを得ません。羊飼いは、後方から支援をしながら犬を使って群れを統一します。

 民主党内で羊飼いの犬の役割を果たすのが、バーニー・サンダース上院議員(無所属・バーモント州)なのです。クリントン候補支持を表明した同上院議員に、全国党大会の演説でクリントン陣営とサンダース陣営の枠を外し、「打倒トランプ」の共通目標を設定してもらいます。トランプ候補と同様、クリントン候補も統一の課題を抱えていますが、筆者は、民主党は共和党よりも結束を図る可能性が高く楽観的にみています。

好感度

 第2の課題は、どのようにして好感度を高めるかです。2016年米大統領選挙は、好感度が低い二人の候補の戦いになりました。相手候補も好感度が高くないので気にかけないかもしれませんが、好感度向上の戦略に関して前回の米大統領選挙の例を挙げてみましょう。

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民主党のシンボル「ロバ」。クリントン候補は全国党大会で好感度を高めることができるのか

 2012年米大統領選挙において共和党候補であったロムニー候補は好感度を高めるために、大統領候補受諾演説でコミュニケーションのある手法をとりました。それがストーリーテリング(物語りを語る)です。同候補は、両親のストーリー(物語り)を語ったのです。同候補によれば、父親は母親のベッドの脇にあるテーブルに64年間バラを置いていたと言うのです。ところがある日の朝、母親はバラが置いてないのに気づくと、父親が亡くなっていたのです。ロムニー候補は、両親が与えてくれた無条件の愛を妻のアンと共に、5人の息子に捧げていると語ったのです。

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共和党のシンボル「象」。トランプ候補は全国党大会で党内の統一を図ることができるのか

 同様に、クリントン候補も好感度アップを狙いストーリーテリングを使うでしょう。同候補の母親は、両親が離婚したため当時3歳だった妹の手を引いてシカゴから汽車に乗ってカリフォルニア州に移り、父方の祖父母の家に引き取られたのです。その後、14歳で祖父母の家から逃げだし住み込みの生活をして、幸せな家庭を作ることに夢を抱いた母親のストーリーです。

 ただ、民主党候補指名争いにおけるテレビ広告でクリントン候補は、母親のストーリーを全面に出しましたが、それほど効果がありませんでした。そこで、クリントン候補は富裕層で大企業志向のトランプ候補との比較を明確にする目的で、中間所得層で小企業志向の父親のストーリーを語る可能性もあります。クリントン候補の父親は、自営業者でカーテンの生地を扱っていました。

 トランプ候補との対比を鮮明にする狙いに加えて、父親のストーリーを紹介することにより、ウォール街の大企業と密着しているというイメージを弱める意図もあるのです。さらに、カーテンの生地を販売していた自営業者の娘が、大統領の座を目指しているというメッセージは、「アメリカンドリームは死んだ」と主張したトランプ候補に対する挑戦でもあります。従って、父親のストーリーは3重の意味が込められています。

 一方、トランプ候補ですが、大統領候補受諾演説では「強いリーダー」、ことに、経済とテロに強い「頼りになる人(英語のトランプの意味)」というメッセージの発信に時間とエネルギーを費やすでしょう。というのは、好感度の向上をそれほど期待できない同候補は、上の2つの争点ではクリントン候補に対してリードしており、有利な立場にあるからです。

米軍最高司令官

 第3の課題は、米軍最高司令官になる資格です。クリントン候補は、米国史上初の女性大統領を狙います。同時に、初の女性の米軍司最高令官になるわけです。有権者の中には、女性は感情的であり、弱いリーダーであるというステレオタイプ(固定観念)を抱いている有権者がいます。クリントン候補が、仮にエリザべス・ウォーレン上院議員(民主党・マサチューセッツ州)を副大統領候補に起用した場合、ステレオタイプは2倍になります。

 クリントン候補は、女性に対する否定的なステレオタイプを弱める必要があります。その役割を果たすのは、任期終盤で50%前後の支持率を得ている現職のオバマ大統領です。同大統領が全国党大会の演説でクリントン候補が米軍最高司令官としての資格があると明確なメッセージを送ることは間違いありません。

 一方、トランプ候補です。同候補は、クリントン候補やオバマ大統領から性格を批判され、核のボタンを委ねてよいのかと疑問を投げかけられています。同候補の性格に懐疑的な有権者に対して、共和党全国大会で誰が説得役になれるのでしょうか。

 前で述べましたが、共和党の2人の大統領経験者は全国党大会に欠席を表明しているのです。下院外交委員会に所属していたマイク・ペンス インディアナ州知事がトランプ候補の米軍最高司令官としての資質に訴えても、オバマ大統領ほど説得力がないことは明白です。共和党の歴代の大統領の全国党大会欠席は、党内の統一のみならず米軍最高司令官とも絡んでくるのです。

文化的多様性

 第4の課題は、人種及び民族における文化的多様性です。女性、ヒスパニック系、アフリカ系、若者及び同性愛者といった「異文化連合軍」の票の獲得を目指すクリントン陣営は、全国党大会における人種や民族の文化的多様性の欠如という課題は抱えていません。党大会に参加する代議員団は、多様性に富んでいるからです。

 一方、この課題に関してトランプ陣営は深刻です。今回の共和党全国大会は、これまでにも増して「白人の党大会」になる可能性が高いからです。

 2008年共和党全国大会でのエピソードを紹介しましょう。筆者が党大会の会場となった建物の最上階から演説を聞いていると、大会のスタッフがアプローチをしてきたのです。このスタッフは、「名誉あるゲスト」のチケットを筆者に見せると、席を移動して欲しいと言うのです。名誉あるゲスト席は、アイダホ州の代議員団の真後ろの席でした。彼女は、その一画に非白人を集めていたのです。しかも驚いたことに、真横にテレビカメラが設置されていました。トランプ陣営もこの課題に対処するために、全国党大会で米国社会らしく人種や民族の多様性があるような演出をする可能性があります。

 以上、4つの課題に加えて、全国党大会における代議員団の情熱や熱狂さの度合いも、本選挙を占ううえで重要なバロメーターになると、筆者はみています。

本選挙の見所

 各党の全国党大会で正副大統領候補が指名されると、本選挙に突入します。本選挙は、「空中戦対地上戦」の構図になるでしょう。メッセージとキャラクターで自身をアピールするトランプ候補と、戸別訪問を核とした地上戦を有利に進めるクリントン候補の対決になります。

 まず、空中戦の見所です。トランプ候補は。「不公平」「沈黙の多数派」「システムが仕組まれている」「法と秩序の候補」など移民、経済、テロなどに対して強い不満や怒りを抱いている有権者の心に突き刺さるメッセージを発信しています。一方、「不正直」とレッテルを貼られているクリントン候補は、効果的なメッセージを発信できていません。本選挙では、クリントン候補がトランプ候補のメッセージを上回る心に響くメッセージを有権者に出せるのかが問われます。

 次に、地上戦の見所です。民主党候補指名争いでサンダース陣営に参加していた熱狂的な若者がクリントン陣営に入り、一緒に戸別訪問を行い、同じ若者と非常にリベラルな有権者を説得してくれるかです。投票日当日、彼らが実際クリントン候補に投票をするかという点にも注目です。

 さらに、無党派層の票の奪い合いも本選挙の見所になります。トランプ候補が党内の保守派の票固めを優先して、ペンスインディアナ州知事の副大統領候補起用を決定したことにより、クリントン候補は地上戦で無党派層の票の獲得に全力を挙げるでしょう。

 もう1点挙げましょう。前回の「インディアナ州知事をトランプ候補が副大統領候補に選んだ理由」で説明しましたように、トランプ候補は明らかに中西部と白人男性票に焦点を当てています。この中西部と文化的単一性を組み合わせた選挙戦略が、クリントン候補の東部から西部までの激戦州と「異文化連合軍」を重ね合わせたそれに勝てるのか、筆者は特にこの点に注目しています。

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