ロシアの制裁解除は誤り
EUによる対ロシア制裁は、2014年7月の導入後、6カ月ごとに更新されてきた。しかし、いくつかの国が制裁廃止を主張している。
しかし、制裁解除は誤りである。まだモスクワと通常のビジネスに戻る時期ではない。制裁解除は欧州の弱さと分裂の危険なシグナルを送ることになる。
マレーシア航空17便の撃墜の後、導入されたエネルギー、防衛、金融分野への制裁が更新対象になっている。2015年のミンスクII合意のロシアによる履行が解除の条件になっている。キエフも義務を果たしていないが、モスクワの違反の方がひどい。ウクライナの東部国境はロシアの支援する戦闘員の支配下にあり、ロシア軍はウクライナ領土におり、合意に反して重火器が使われている。ヨーロッパはウクライナ人パイロット、サフチェンコの釈放のようなプーチンの「善意のジェスチャー」に惑わされるべきではない。現場の状況はほとんど進展していないのに、ロシアは関係を元に戻したいために、こういうことをしている。
制裁は効果がある。石油価格下落もあり、2015年、ロシアのGDPは推定マイナス3.8%になった。外国投資の減少も効いている。この経済困難がミンスク交渉にロシアを参加させた。進展もないのに制裁を解除すれば、敵対行為の再開を促す。制裁がヨーロッパ経済に与える悪影響は大きくない。欧州議会の研究では、対ロ貿易の減少はEUのGDPについて、2014年0.3%、2015年0.4%の下押しにはなっている。
ロシアでは、経済と政治は一体であり、経済的結びつきを政治的影響力に変えられるが、ロシアへの投資減少はヨーロッパの外交的自由を増大させる。これは歓迎できる。
ギリシャのチプラス首相のような制裁批判者は、対話こそ前進につながると主張している。西側の指導者はモスクワと対話すべきである。効果的な対話と制裁は相互排除的ではなく、相互補強的である。しかし、現在の状況を作ったのは欧米ではなく、ポスト冷戦の安保秩序を一方的に変え、隣国を侵略したロシアである。それで対話が困難になった。
2年前の全会一致の制裁採用は戦略問題に関する欧州の団結と統一を示した。これを忘れるべきではない。プーチンの強さや戦略的能力を過大評価する傾向がある。しかし、制裁の解除はロシアを利する。西側戦略はこの現実を反映すべきである。
出典:Benjamin Haddad & Hannah Thoburn,‘Don’t Lift Russia’s Sanctions Yet’(Wall Street Journal, June 9, 2016)
http://www.wsj.com/articles/dont-lift-russias-sanctions-yet-1465502724
EU内部で対ロ制裁緩和論、廃止論が出ていることに反論した論説です。制裁を課した事情が何等変わっていないのに、制裁を解除するのはおかしなことであり、この論説は筋の通った主張をしています。特にミンスク合意をロシアは守っていません。
伊勢志摩サミットの首脳宣言
伊勢志摩サミットの首脳宣言は、「制裁の期間はミンスク合意の完全な履行およびウクライナの主権の尊重に明確に関連付けられている。制裁はロシアがこれらのコミットメントを履行した時に後退されうる。しかし我々はロシアの行動に応じて必要ならば、更なる制限措置をとる用意がある」としています。これは、英仏独伊の首脳も参加している宣言です。6月末のEU会合では制裁解除とはならず、来年1月末までの延長が決まりました。
6カ月後の12月にどうなるかは、その時の情勢によります。それまでの間、制裁をテコにロシアと話し合えばよいのです。対話と圧力はこの論説が言うように両立可能ですし、国際政治においては、両者はおおむね共存しているものです。