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「オタク=男性」ではない

 百貨店の高島屋が夏のお中元商戦に、アーティストの松浦浩之氏の描くイラストを使用して話題になっていた。(*1)
 これに対して作家でフェミニストとして知られる北原みのり氏が、「また萌えキャラですか」と題するコラムを書いていた。(*2)

 正直、一から十まで突っ込みどころしかなく、このコラムに対してはいくらでも批判が書けそうであるが、問題を1点に絞って書きたいと思う。その一点とは、北原が「アニメキャラ=オタク=男」という一直線の価値観を披露している点である。これが彼女の偏見の最も悲惨な部分である。
 それを明確に示すのが、締めの「ハッキリ言いますが、大人の女の多くは、少女ファンタジーにしがみつく大人の男を、キモイと思っています。萌えキャラがキモイ、というよりも、萌えキャラを重宝し濫用する男社会がキモイ。なぜ男たちは、ここにいない少女たちを、執拗に求め続けるのか。その眼差しの空虚さに、恐怖するのです。」(*2)という部分だ。
 これを見てハッキリと分かるのは、結局彼女は「オタクは男だから、男を批判するために高島屋を批判している」という事実である。そこには彼女の作家としての営業戦略、つまり女性である彼女が男をバカにして、他の女性に溜飲を下させるという、作家としての戦略があるばかりで、そこに事実は一切ない。
 なので、僕が事実を書こうと思う。

 事実として、これは明白であるが、男性のオタクと同じくらいに女性のオタクもいるということだ。
 データ的なことを言えば、日本最大の同人誌即売会であるコミックマーケットのサークル参加者は、男性よりも女性の方が多いのである。(*3)
 ぼくが中学生だった頃、当時、新聞や雑誌などで広く宣伝されていた「英語教材」を購入していた。残念ながらそれで英語力が身につくことはなかったのだが、その英語教材には、会員同士が交流するための交流紙が同封されていた。英語教材の交流紙であるにもかかわらず、そこに寄せられた投稿の大半に「C翼」「☆矢」という単語が飛び交っていたのである。
 「C翼」とは、サッカー漫画の「キャプテン翼」。「☆矢」とはバトル漫画の「聖闘士星矢」のことである。「キャプテン翼」と「聖闘士星矢」の名前は、誰しも1度くらいは聞いたことがあるだろう。いずれも週刊少年ジャンプに連載され、その黄金期を支えた漫画である。
 もちろん少年誌に掲載された漫画だから、男の子たちにも人気があったのだが、この情報誌で、「C翼」「☆矢」といったワードで交流を求めていたのは大半が女性だったのである。当時はまだ個人情報の保護という考えがなく、こうした交流紙には手紙でやり取りするための住所や氏名が書かれていたから、女性であったことは間違いようがない。
 僕が「オタク」というものを本格的に認識したのがこの交流紙だったので「オタク=女性」という印象が強い。だから、昨今の「オタク=男性」という、多くの人達が共有する価値観には違和感が強い。

 先ほどのコミックマーケットの資料(*3)を見返すに「一般参加者数と参加サークル数の変遷」という図表があるが、ここにの「C翼・星矢・サムライトルーパーブーム」という文字があり、80年代末に一気に入場者数、サークル参加数が増大している。それだけ女性がオタク業界に与えるインパクトは大きかったのである。
 勘違いがあるといけないので書いておくと、それ以前にも女性のオタクはいた。コミックマーケットでは初回から一貫してサークル参加者は女性の方が男性を上回っている。
 つまり、ずっとオタクの女性はいたし、決して少数派でもなかったのだが、社会的には宮崎勤の問題や18禁ゲームや成人コミック規制の問題から、マスメディアでは「オタク=男性」として論じられることが多く、その印象が強すぎるということなのであろう。  この事実を認識したうえで北原のコラムを読み返すと、彼女の言う「大人の女性」という存在が、彼女の妄想に過ぎないということが明確に分かる。なぜなら女性にもまた「少年という、ここにいない存在にファンタジーを求め続けている人」が少なくないからである。少なくとも北原にはそうした女性の存在は見えていないのだ。

 そもそも論として、高島屋が松浦浩之氏の描くイラストを登用したのは、決してお中元を男性オタクに向けてアピールしたいからではない。高島屋の意図としては、これまでお中元というものに注目してこなかった、20代から40代くらいの女性に対して「日本の伝統としてのお中元」をアピールしたいからであろう。
 和服姿の実在女性では重い存在感も、アニメ風のキャラクターだから軽やかに描くことができる。また、こうしたアニメ寄りのキャラクターに和服を着せる文化に、ターゲット層は親和的なのである。少し前に「歴女ブーム」というのがあったが、これも「るろうに剣心」(これも少年ジャンプだ)や「戦国BASARA」(ゲーム)などといった歴史系アニメ・マンガ・ゲーム作品によって培われた流れが成熟したものである。そうした表現の中で育った女性たちが、家庭を持ち、お中元を送る側になっているのである。
 こうした前提があるからこそ、和服を着た美少女キャラクターを登用することで、若い女性にアピールするという戦略が成り立つのである。北原はこれを「萌えキャラを重宝し濫用する男社会」としてしか見ていないが、そこには女性に対する確かなマーケティングが存在するのである。

 そもそもフェミニズムとは、女性に対して権利を開く運動のはずである。
 しかし、現状でフェミニズムを叫ぶ人たちは、男性憎しのあまりに男性文化と女性文化を乱暴に切り分け、そんなこと関係なしに文化を楽しむ女性たちまでひっくるめて否定し、ぶん殴ってドヤ顔をしているように見える。結果として女性のオタクの存在がフェミニズムによって抑圧、不可視化されるという問題が発生している。
 人の趣味や思考というのは、自分の実感とは全く違う場所にある。そうした多様性を受け入れることこそが、女性だけでなく、多くの人が権利を享受するために必要であり、偏見をもってオタクを男性だと断じ、オタクの女性を認めないような活動家の存在は、女性をさらなる不自由に追い込むだけである。
 僕は高島屋が女性へのアプローチとしてアニメ的にも見えるこうした作品を用いたことは、しっかりとしたマーケティングに基づく、女性に対する偏見のない態度の表れであると考えている。

*1:これカタログだったの!? 高島屋のお中元カタログがアニメ柄に(ねとらぼ)
*2:北原みのり「また萌えキャラですか」 〈週刊朝日〉(dot.ドット)
*3:コミックマーケットの現状と海外参加者(市川孝一)

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