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トルコのクーデタにおける先進国の綱渡り:「民主主義」と「外交」の狭間

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「民主主義の尊重」?

今回のクーデタに対して、例えば7月15日にホワイトハウスが「トルコの『民主的に選出された』政府を尊重」する声明を出すなど、各国や国連からは懸念が相次いでいます。ただし、「民主主義」を強調してクーデタを拒絶する主張を額面通りに受け止めることもできず、そこには外交的な配慮があったことがみてとれます。

例えば、2014年にエジプトで、やはりイスラーム主義的なモルシ政権が軍のクーデタで崩壊した際、米国をはじめとする各国は、これを「クーデタ」と認定しませんでした。「クーデタで権力を奪取した政府には援助しない」という国内法があるためです。

1979年にエジプトがイスラエルと和平合意を結んで以来、米国はエジプト政府に軍事、民生の両面で援助を拡大させ、友好関係を維持してきました。近年では、対テロ戦争などでも、エジプトは米国にとって重要なパートナーでした。ところが、2011年の「アラブの春」のなかで、米国に近いものの、国内では反体制派を強硬に取り締まってきたムバラク大統領が失脚。2013年には、イスラーム主義組織「ムスリム同胞団」系のモルシ政権が、選挙で選出された結果、エジプトは従来の対外政策をシフトさせ始めたのです。

これに鑑みれば、米、反イスラエルのトーンが強かったモルシ政権が打倒されたことは、米国など西側諸国にとって、少なからず安堵の材料になったといえます。そのため、「クーデタ」は「クーデタ」として扱われなかったのです。失業率が高止まりしたことなどを背景に、モルシ政権に対する広範な不満が増幅し、クーデタの前に政府への抗議デモが各地で頻発していたことも、事実上の軍事政権を西側諸国が支持しやすくしたといえるでしょう。

「エルドアン支持」への道筋

トルコに目を転じると、やはり長年米国にとってのパートナーでありながら、イスラーム主義的な政府に対するクーデタが発生したという点では共通します。NBCニュースは、クーデタ発生当初、米国政府内部にエルドアン政権を支援することへの積極的な意見は少数派であると伝えていました。なかには、クーデタ発生直後(18:47)に「これでトルコに真の民主主義が訪れる」とツイートしたカリフォルニア州選出の下院議員B.シャーマン氏(民主党)のように、あからさまに決起部隊を支持する声もありましたが、これは結果的に全くのフライングになりました。

しかし、今回の場合、米国政府は比較的早い段階で、エルドアン政権を支持する立場を示しました。ニューヨークタイムズのタイムラインによると、アンカラの軍司令部が選挙されたのは、7月15日の17:14(米国東部標準時)。イスタンブールに部隊が現れたと報じられたのは同日17:28でした。この直後(17:43)、シリア情勢について協議するためにモスクワにいたケリー国務長官は、「安定と平和を求める」と述べながらも、「具体的な情勢について把握していない」と述べるにとどめました。しかし、約2時間後(19:45)には米国が「トルコの文民政府と民主的な諸制度」を支持し、「トルコのあらゆる勢力は民主的に選ばれた政府を支持し、流血の事態を避けるべき」ことを強調する声明がホワイトハウスから出されました

この前の段階で、エルドアン大統領はギュレン運動をクーデタの黒幕として糾弾(17:59)しており、これに対してギュレン師は「軍による政治へのいかなる介入も非難する」という声明(19:31)を出していました。

ギュレン師の声明を額面通りに受け止めるなら、今回のクーデタがギュレン運動全体の支持を得たものでないことになります。その場合、エジプトのケースと異なり、国民の間に幅広くクーデタを支持する空気が醸成されているとはいえなくなります。これに加えて、その後の状況の推移をみれば、米国がその他のソースも用いて現地の情勢を検討し、反エルドアン派によるクーデタ支持の動きより、親エルドアン派の抗議運動の方が活発と判断したとしても、不思議ではありません。

一方、仮にギュレン師の声明が責任追及を逃れるためのブラフであったとしても、クーデタを批判する声明が出た以上、米国はクーデタを支持することはできません。1973年に南米チリで、社会主義的なアジェンデ政権に対するピノチェト将軍のクーデタがCIAの支援のもとで行われたことに代表されるように、都合の悪い政権を打倒するために、当該国の軍隊によるクーデタを米国が支援することは、稀ではありません。ギュレン師は事実上、米国の保護下にあり、ただでさえ「ワシントンの陰謀」が疑われる環境のもとで、ギュレン師の声明はホワイトハウスによる「エルドアン支持」の決定を加速させたとみてよいでしょう。

「民主主義」と「外交」の狭間

冒頭に述べたように、今回のクーデタは失敗に終わる目算が濃厚です。それは米国をはじめ、タイミングをみて「民主主義」を前面に掲げて「エルドアン支持」を打ち出した各国政府にとって、外交的な文脈において、安どの材料になるといえるでしょう。

その一方で、エルドアン政権は貧困層などから支持を集めながらも、メディア規制や人権の制約などへの批判は世俗派やギュレン運動の間に根深く、さらに分離独立運動を鎮圧されているクルド人勢力の間にも不満は充満しています。ISなどイスラーム過激派の台頭もあり、これらはエルドアン政権にますます強権的な手法をとらせ、さらに政府への不満を呼ぶ悪循環をもたらすとみられます。したがって、今回失敗したとしても、トルコが再び混乱に陥る可能性は小さくありません。

ただし、これはトルコに限った話ではありません。SNSなど情報ツールが発達し、それぞれのネガティブな側面が暴かれやすい現代だからこそ、各国政府にとっては、相手国の政府を維持できれば事足れりとするのではなく、相手国の世論の動向を把握する必要が高まらざるを得ません。これを捉えそこなえば、エジプトでムバラク政権崩壊後に反米的な世論が噴出したように、自らの立場を損なうことにも繋がり得ます。その意味で、法的にその国を代表することが認められている政府のみを視野に入れない外交が、これまでになく求められているといえるでしょう。

※Yahoo!ニュースからの転載

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