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【続】常設仲裁裁判所

何故、フィリピンと中国との仲裁裁判所が成立したのか、については、少し前のエントリーで書きました。外務省からも話を聞きましたが、ちょっと論立てが違いますが、まあ、外しているわけではありません。

 中国が「本件は国連海洋法条約の紛争手続きの対象外。何故なら、中国が除外している主権事項や境界画定に関するものだから。」と主張したことに対して、このプレス・リリースの6ページ目に、今回フィリピンが提起した案件は主権事項でも無いし、境界画定でもないから、中国の理屈は当たらないとしてあります。やはり、その辺りを外して仲裁裁判所に持ち込んだのが良かったという、私の見立ては正しいようです。

 ただ、中国は結構、広範なものを除外しています。以下のすべてで国連海洋法条約の紛争解決手続きを除外しています(備忘録的ですので特に条文を読んでいただく必要はないです。単に「広範な除外がある」ことだけ分かっていただければOKです。)。

【第二百九十八条 第二節の規定の適用からの選択的除外】
1 第一節の規定に従って生ずる義務に影響を及ぼすことなく、いずれの国も、この条約に署名し、これを批准し若しくはこれに加入する時に又はその後いつでも、次の種類の紛争のうち一又は二以上の紛争について、第二節に定める手続のうち一又は二以上の手続を受け入れないことを書面によって宣言することができる。
(a)
(i) 海洋の境界画定に関する第十五条、第七十四条及び第八十三条の規定の解釈若しくは適用に関する紛争又は歴史的湾若しくは歴史的権原に関する紛争。ただし、宣言を行った国は、このような紛争がこの条約の効力発生の後に生じ、かつ、紛争当事者間の交渉によって合理的な期間内に合意が得られない場合には、いずれかの紛争当事者の要請により、この問題を附属書V第二節に定める調停に付することを受け入れる。もっとも、大陸又は島の領土に対する主権その他の権利に関する未解決の紛争についての検討が必要となる紛争については、当該調停に付さない。

(ii) 調停委員会が報告(その基礎となる理由を付したもの)を提出した後、紛争当事者は、当該報告に基づき合意の達成のために交渉する。交渉によって合意に達しない場合には、紛争当事者は、別段の合意をしない限り、この問題を第二節に定める手続のうちいずれかの手続に相互の同意によって付する。

(iii) この(a)の規定は、海洋の境界に係る紛争であって、紛争当事者間の取決めによって最終的に解決されているもの又は紛争当事者を拘束する二国間若しくは多数国間の協定によって解決することとされているものについては、適用しない。

(b) 軍事的活動(非商業的役務に従事する政府の船舶及び航空機による軍事的活動を含む。)に関する紛争並びに法の執行活動であって前条の2及び3の規定により裁判所の管轄権の範囲から除外される主権的権利又は管轄権の行使に係るものに関する紛争

(c) 国際連合安全保障理事会が国際連合憲章によって与えられた任務を紛争について遂行している場合の当該紛争。ただし、同理事会が、当該紛争をその審議事項としないことを決定する場合又は紛争当事者に対し当該紛争をこの条約に定める手段によって解決するよう要請する場合は、この限りでない。
 では、これだけ除外したのに、今回の仲裁裁判所は何に管轄権を設定したかというと、このプレスリリースの5ページのテーマの大半です。私のかなりいい加減な訳でご容赦ください。
【今回、仲裁裁判所が管轄権を設定したテーマ】
1. 中国、フィリピンの南シナ海での権原は国連海洋法条約で認められたものを超えてはならない。
2. 中国の歴史的権原(九段線)については、国連海洋法条約に反する。
3. スカボロー礁はEEZ、大陸棚の基点となる権原を有しない。
4. ミスチーフ礁、セカンド・トーマス礁、スビ礁は低潮高地であって、領海、EEZ、大陸棚の対象ではなく、占領の対象とならない。
5. ミスチーフ礁、セカンド・トーマス礁はフィリピンのEEZ、大陸棚の一部である。
6. ガヴェン礁、ケナン礁は低潮高地であり、領海、EEZ、大陸棚の対象ではないが、その低潮線は(ベトナムが実効支配する)ナムイット島、シンコウェ島からの基線を構成する(注:低潮高地が領海内にある時は基線となるとの国連海洋法条約第13条との関係)。
7. ジョンソン礁、クアルテロン礁、ファイアリー・クロス礁はEEZ、大陸棚の基点となる権原を有しない。
8. 中国は、自国船がフィリピンのEEZにおける生物、非生物資源についての主権的権利の行使に不法に介入している。
9. 中国は、自国の船がフィリピンのEEZにおける生物資源採取をしている事を、不法に防いでいない。
10. 中国は、スカボロー礁での伝統的漁業に介入することで、フィリピンの漁民が生計を立てようとしているのを妨げている。
11. 中国は、スカボロー礁、セカンド・トーマス礁、クアルテロン礁、ファイアリー・クロス礁、ガヴェン礁、ジョンソン礁、ヒューズ礁、スビ礁における海洋環境の保護、保全に関する国連海洋法条約の規定に違反している。
12. 中国のミスチーフ礁における占領、建設活動
(a) 人工建造物に関する協定違反
(b) 海洋環境の保全、保護に関する協定違反
(c) 協定違反の収用行為
13. 中国は、危険な手法で法執行船舶を運用し、スカボロー礁周辺を航行するフィリピン船に重大なリスクを生じさせ、協定違反を犯している。
14. 中国は、仲裁手続きが開始された後も不法に事態を悪化させている。
((a)-(c)については、中国が国連海洋法条約上、手続除外を宣言したテーマのため、管轄権を認めず)
(d) ミスチーフ礁、クアルテロン礁、ファイアリー・クロス礁、ガヴェン礁、ヒューズ礁、スビ礁において浚渫、人工建造物、建築活動を行っている。

(15.については、すでに判断済みということでそれ以上の扱いをせず。)
 これだけのものが「主権事項でもないし、境界画定事項でもないから、どんなに中国が除外手続きを取ろうとも、仲裁裁判所は管轄権を設定し得る。」と判断されたわけです。
私の常識観からすると、相当に踏み込んだという印象があります。

 さて、先のエントリーでも「竹島」についての提訴の可能性について書きました。現在の国会での答弁はこれです。竹島の問題は領有権の問題だから、提訴は想定されないというものです。ただ、上記の仲裁裁の管轄権の設定を見ていると、相当ギリギリのものでも可能ですので、緻密な論点整理さえすれば竹島でもやれるでしょう。

 ただ、ここからが難しいのが、それをやると「沖ノ鳥島」でカウンターが飛んでくるかなという懸念はあります。その辺りをどう判断するのか、本件の帰結としてよく考えなくてはならない所です。

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