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舛添騒動で得たものと失ったもの - 田中辰雄

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炎上が拡大した第二の理由は、舛添氏の対応が大変まずかったことである。公私混同に対して舛添氏は第三者委員会を立ち上げ、そこで「不適切だが違法ではない」と報告した。しかし、人々が問題視しているのは違法かどうかではない。政治資金の支出には規制が無いので、違法かどうかでいえばほとんどの支出は合法になる。

しかし、人々は税金から供与された政治資金が家族旅行や美術品の購入に使われたことが納得できないと素朴に感じており、問題の核心はこの素朴な違和感である。批判は素朴な感情にもとづいているので法律をたてに正当性を主張しても人々は反発する。ここは言葉の順番を逆にし、「違法ではないが不適切であった」と述べて、「不適切」の方を後ろに持ってきて強調し、丁寧に謝罪すべきであった。第三者機関にゆだねるというのも法律あるいは権威の陰に隠れるようでイメージが悪い。自分で調べて自分の言葉で謝罪し、公私混同の支出はすべて自腹で弁済すれば炎上はボヤで収まった可能性がある。

一般に炎上事件は謝罪で収まることが多い。むろん謝罪が困難なこともあって、特に個人の信念に関わる領域では謝罪は困難である。たとえば五輪エンブレム事件では佐野氏は自身のエンブレムをパクリだとは認めず、謝罪はしなかった。作品がオリジナルであるというのは彼の守るべき信念であり謝罪は不可能である。しかし、今回の場合、家族旅行を政治資金で賄う事が守るべき信念とは思えない。つい家族旅行に使ってしまいましたと認め、平身低頭のうえで弁済すれば、ここまでこじれなかったかもしれない。しかし、実際には抗弁を繰り返したため事態は悪化していった。

舛添氏にも言い分はあるだろう。特に同じような公私混同は他の政治家にもあるにもかかわらず自分だけがなぜここまで叩かれるのかという不満はあっただろう。これには一理あって、これまで政治資金の公私混同が真剣に話題にされたことはないので、他に同じような公私混同をしている政治家がいてもおかしくない。また、これまで問題にならなかったことを新たに問題視するのであれば、新たなルールはこれからの行為に適用するべきで遡及適用して辞任までさせるのは酷である。

しかし、国民からすれば公私混同がゆるされてきたこれまでの運用ルールがそもそも間違っているのであり、それを国民は今回初めて知ったのであるから、まずは政治家の反省が先にくるべきである。舛添氏以外もやっている事だとしても、今ここで発覚した舛添氏がまずは反省すべきことに疑う余地はない。

それが反省なしに違法ではない、と繰り返すならば、間違った状態を正当化しているように聞こえてもしかたがない。人々はあきれ、やがて怒りはじめる。怒りはテレビでの炎上報道と相互に強めあい、辞任要求へと突き進んでいくことになる。炎上対策としてはまことに拙劣であり、自ら墓穴を掘ったに等しい。

炎上がもう少し抑制できたかどうかを、あとから振り返って議論するのは難しい。しかし、テレビがもう少し抑制的だったら、あるいは舛添氏が率直に謝罪していれば、ここまでの炎上は避けられたかもしれない。

レッスン

炎上のコストは情報発信の萎縮である。人々が炎上を恐れて情報発信を抑えてしまうことが炎上の社会的コストである。(注5)今回の場合、萎縮は情報発信ではなく、政治家の行動に起こった。過去にさかのぼって公私混同が調査され、発覚すると政治生命が失われるということを見た政治家は立候補に及び腰になり、我々は乏しい候補者リストから知事を選ばなければならなくなる。

(注5)田中辰雄・山口真一 2016.06.10 「ネット炎上の真実と解決策」

舛添騒動で得たものと失ったものは何だろうか。得たものは政治資金の公私混同を避けよという国民的合意である。炎上は民主主義のパワーの発露の面があり、社会に規律を与える。今回もこの点は如実に発揮された。これは国民としては一歩前進であり、これからの政治家は政治資金の使途の公私の区別に厳格になるだろう。今後の支出に関して似たような公私混同があればそれこそ徹底的に叩いてよい。

一方、失ったものは都知事選の(ありえたであろう)豊かな候補者リストである。知事選に出てこられるのは政治資金に無関係だった民間人とたまたまた支出が公私で切り分けられていた政治家だけになるので、候補者リストは乏しくならざるをえない。この損失は炎上を抑制できれば避けられたかもしれないというのが本稿の趣旨であった。

ただ現実に炎上が起きてしまった以上、今回は乏しい候補者リストから知事を選ぶことになるのはいたしかたない。しかし、果たして4年後はどうなるのだろうか。そのときも過去の政治資金の公私混同を精査して、クリアしたものだけを候補者にするのだろうか。願わくば、次の都知事選の時には、そのような精査は候補者自らが清算すればよく、だれでも候補になれるようにして、もっと豊かな候補者リストから知事を選べるようになっていてほしいものである。

知のネットワーク – S Y N O D O S –

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ネット炎上の研究

著者/訳者:田中 辰雄 山口 真一
出版社:勁草書房( 2016-04-22 )
定価:¥ 2,376
Amazon価格:¥ 2,376
単行本 ( 242 ページ )
ISBN-10 : 4326504226
ISBN-13 : 9784326504220

田中辰雄(たなか・たつお)
計量経済学
東京大学経済学部大学院卒、コロンビア大学客員研究員を経て、現在慶應義塾大学経済学部准教授兼国際大学GLOCOM主幹研究員。 編著に『著作権保護期間―延長は文化を振興するか?』、「フェアユース導入はコンテンツ産業にプラスかマイナスか」、「クリエイター側は著作権保護をどうみているか―日米国際比較―」などがある。

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